真・恋姫†夢想~双魔の狩人~   作:D-ケンタ

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ザイユの過去

全員が耳を傾けるする中、ザイユは閉じていた口を開き語り始めた。

 

「俺には三つ上の姉がいた。ガキの頃に両親を流行病で亡くした俺達は、村の人達に助けてもらいながら暮らしていた」

 

そう語りながらザイユはかつての記憶を思い起こしていた。

 

『うぅ……えぐ……とうちゃん、かあちゃん……』

 

両親を亡くし、泣きじゃくるしかできなかった自分を、姉は優しく抱きしめてくれた。

 

『大丈夫、お姉ちゃんがついてるから。ほら、顔を上げて』

『ひっく……うん』

 

姉と自分、二人だけの家族となってしまったが、姉と村の人達のお陰で寂しくはなかった。

その過去を懐かしむザイユの顔には自然と笑顔が浮かんでいた。

 

「……優しい姉上殿だったのだな」

「ああ。……そして俺が十二、姉さんが十五の頃、俺と姉さんがハンターを目指すきっかけとなる人と出会った」

 

夏侯淵の言葉に肯定しながら、ザイユは続きを話す。

 

「あの時、村の近くにモンスターが接近していて、このままでは村が襲われる可能性があった。その時、あるハンター達がモンスターを狩りにやってきたんだ」

 

後になって知ったが、そのハンター達は知らぬ者はいないという程の人物であり、あれほど恐ろしかったモンスターを見事に狩ってしまった。

それは、彼らにハンターを志ざせるには十分だった。

 

『決めた、私ハンターになる!』

『お、俺もハンターになりたい……!』

『ザイユはもう少し大きくなってからね。その頃には私は英雄と呼ばれるハンターになってるかも』

『うぅ……すぐ姉さんに追いつくから!』

『ふふ。待ってるからね』

 

かつて姉と共に志し、約束を交わしたあの頃。あの時のことは今でもハッキリと思い出せる。

 

「それから姉さんはハンターを目指し、訓練所のあるジャンボ村へと向かった。そこで訓練を積んだ姉さんは、十六になった頃にハンターとして独り立ちした」

「ほぉ、お主みたいなのを育てるところがあるのか」

「それに十六で独り立ちとは、驚いたな」

 

ザイユの話に夏侯惇と夏侯淵は驚いた様子。それもそのはず、ハンターになるということは彼女達も知るオオナズチやラージャンと言ったモンスター達を相手するということ。しかも16で一人前になったというのだから驚くのも無理はない。

実際には最初から大型モンスターを相手にするわけではないのだが、その事を知らないので無理もない。

 

「才能があったのか姉さんはすぐに頭角を現し、数ヶ月で肉食種を狩猟し、俺がハンターになる頃には飛竜種を狩猟していた。そして村ではもちろん街でも有名な双剣使いになっていた」

「いまいち分かりにくいけど、あなたがそう言うってことは、よっぽど凄いお姉さんだったのね」

「ああ。俺が肉食種を一人で狩れるようになったのが一年経つか経たないかの頃だったからな。姉さんならいずれG級に上がるだろうと、皆そう言っていた」

 

唯一の肉親である姉が多くの人々から称賛される。それがザイユにとっては自分のことのように誇らしかった。

そして後を追うようにハンターになったザイユを、姉は心から喜んでおり、初めて依頼を成功させた日なんかは仲間達を集めてお祝いしたりした。

 

『ザイユの初依頼達成を祝って、かんぱーい!』

『ね、姉さん。やっぱり大げさだよ』

『何言ってるの。これからハンターとして名を上げようっていうのに、小さいこと気にしてどうするの?』

『で、でも姉さんは初依頼でランポスを狩ったのに、俺はただのキノコ採取だよ。あんまりいい依頼じゃ―――いたっ!?』

 

そう言ったザイユの額に痛みが走る。姉が彼にデコピンをしたのだ。

 

『ザイユ。依頼を出した人はすごい困ってて、自分ではどうしょうもないから私達ハンターに依頼を出したの。そこにいいも悪いもない。依頼を選り好みなんかしてたら、立派なハンターになれないよ』

『……ごめん、姉さん』

『よし。分かったなら改めてお祝いね、かんぱ~い!』

『か、乾杯……』

 

それから姉と共にハンターとして生活していく中で、姉からは数え切れないほど大事なことを教わった。

そんな日々を思い出し、自然とザイユの頬が緩む。

 

「それからは姉さんと共に依頼をこなし、モンスターを狩る日々だった。正直恐ろしかったし、死ぬと思ったことも一度や二度ではない。だが姉さんがいたからその恐怖も乗り越えられた。こんな日々がいつまでも続く……そう、思っていた」

 

ザイユの雰囲気が変わった。口を閉ざし、俯いた彼の手はどのような感情によるものか、震えていた。

その様子に誰もがどう声をかければいいか分からない中、天和がザイユの手を自身の両手で包む。

 

「……すまん。忘れもしない、俺が二十一の時だ」

 

彼女のお陰で、少し落ち着いたザイユは話を再開した。

 

「あの日は酷く天気の悪い日だった。その日俺は単身、依頼で砂漠に出現したディアブロスを狩りに出ていた。砂嵐で視界が悪く、苦戦したもののなんとか狩猟し、拠点としてたポッケ村に帰った。村に帰れば、別の依頼に出ていた姉さんが迎えてくれる。その筈だった……」

 

あの日、村に帰還したザイユは村が騒がしいことに疑問を抱き、更には姉の姿が見えないことに気付いた彼は急いで村長の元へと向かった。そこで聞かされた話は、ザイユに衝撃を与えるには十分だった。

 

『何だって!?姉さんが雪山に!?』

『うむ。あの商人がいた商隊が雪山でモンスターに襲われたらしくてな。都合悪くキオ達もおらんくて、お主の姉に頼むしかなくてのぉ』

『……姉さん』

 

姉が向かった方へと視線を向ける。ポッケ村は雪山の麓にあり、村からでも雪山の様子を見ることはできた。

年中雪に覆われている山だが、この時はいつもと様子が違うように感じられた。

 

「いつもの姉さんならすぐにモンスターを狩り、さほど時間をかけずに村へと戻っていただろう。だが……」

「……お姉さんは、帰ってこなかった」

 

言い淀んだザイユの言葉を補完する曹操の言葉に、ザイユは無言で頷いて肯定する。

 

「戻ってこない姉さんを探しに、俺は雪山へと向かった。雪山は酷く吹雪いていて、視界なんてないようなものだ。それでも俺は姉さんを探して雪山を隅から隅まで歩き回った。そして、ようやく見つけた姉さんは……」

 

雪山を探し続け、山壁にもたれるように倒れる姉を見つけたザイユは急いで駆け寄るが、既に姉は虫の息でいつ息絶えてもおかしくはなかった。

 

『姉さん!しっかりしてくれ、姉さん!』

 

抱きかかえながら呼びかけるが、反応はない。回復薬を飲ませようにもこれでは飲ませることができない。

急いで下山しなければと姉を抱え上げて移動する。疲労と吹雪により思うように進めないが、姉を助けるため歯を食いしばりながら積もる雪をかき分けて歩を進めた。

ようやく目の前に洞窟が見え、そこに入れば少しはマシになる。そう思い足を速めた。その時だった。

 

『―――っ!?』

 

ギィギィという金属がこすれる音とただならぬ気配に空を見上げると、そこには一体の赤茶けた体色のモンスターが飛んでいた。

雪山に出没する飛行するモンスターといえばフルフルやティガレックスなどだろう。しかし目の前にいるソレは違う。

飛竜種は勿論、今まで出会ったどの種類とも違うそのモンスターは、以前街で噂程度しか聞いたことなかった存在。

 

『古龍……』

 

そして直感した。あの古龍が商隊を襲い、姉をこの状態にしたのだと。

怒りと怖れに足を止め見上げるザイユを知ってか知らずか、その古龍はそのまま雪山の向こうへと飛び去っていった。

呆然とするザイユに、小さくもハッキリと聞き慣れた声が聞こえた。

 

『ザイ、ユ……?』

『―――っ!?姉さん!』

 

意識を取り戻した姉にザイユは再び洞窟へと向けて足を進ませる。

姉の声はか細く、今にも消えてしまいそうだ。

 

『ごめ、んね……ドジッ……ちゃった』

『喋らなくていい!もうすぐ洞窟に入るから、そこで回復薬を飲んで!』

『う、ううん、大丈夫……それに、私は……』

 

聞こえないふりをして足を進める。そしてようやく洞窟に入るとザイユは姉を降ろして壁に寄りかからせると、回復薬グレートを取り出し姉の口に近づける。

 

『姉さん飲んで!早く!』

『ぅ……』

 

しかし飲むどころか口に含むことができない。新しい回復薬グレートを出すが、結果は同じだった。

ならばとザイユは回復薬グレートを口に含むと口移しで姉に飲ませる。姉は口に送られた回復薬グレートをなんとか飲み込むが、傷が深すぎるのか手遅れなのか、姉の状態が好転している様子はない。

 

『こうなったら、一刻も早く村に』

『もう、いいよ……私は、もう……』

 

その言葉に、彼女を抱えようとしたザイユは動きを止め、彼女の前に膝をつく。

 

『……あの古龍か』

『……うん。商隊の人達を、逃がす為に……無理、しちゃった』

 

今気づいたが、彼女の防具は所々壊れ、背負った双剣は一本だけとなっていた。

 

『ザイユ……仇討ちなんて、考えないで』

『姉さん……』

『私達も……モンスターと同じ、自然の一部……だから、自然に還る、時が……来ただけ』

 

残り僅かな命を使い、姉はザイユへと語りかける。それは、彼女がザイユに教え伝えてきた、ハンターとして、自然に生きるものとしての心。

 

『だから、復讐心に囚われたら……それは、必ず返ってくる……』

『それでも!俺は……』

 

ザイユの頬に彼女の手が触れる。今のザイユの表情とは反対に、満身創痍にも関わらず笑顔を浮かべる彼女。

あの時と同じ、泣きじゃくる弟を慰める姉の姿がそこにあった。

 

『本当……体は大きくなっても、中身は泣き虫のままね……』

 

ザイユの目から涙が溢れる。

 

『ザイユ……私の自慢の弟……最後に、顔が見れて……よかった……』

『姉さん……!』

『大丈夫……もう一緒に狩りに行けないけど、私はずっと……そばに……ぃ……』

 

姉の手が頬から離れる。ゆっくりと手が落ち、最愛の家族の前で、彼女は笑顔のまま静かに眠りについた。

 

『姉さん……?』

 

その声に答える者は、もういない。

 

 

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