真・恋姫†夢想~双魔の狩人~   作:D-ケンタ

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二話連続投稿です。


旅路

「「……」」

 

次の街へと向かう旅路、その途中で休憩をとった四人。しかし、休憩に入る前の出来事―――突然襲って来たイノシシをザイユが狩り、その場でやった解体の様子を見たせいか、張宝と張梁の二人はズーンと擬音が付きそうなほど気分を落としていた、

一方で張角は、目隠しをされたおかげで見てなかったため結構元気である

 

「……」グルグル

「いい匂い~」

 

その張本人のザイユはというと、地面に設置した装置―――肉焼きセットで、先程剥ぎ取ったイノシシの肉を焼いていた。張角は隣でその様子を見ている。

 

「……出来たぞ」

「わーい!いただきまーす!」

 

こんがりと焼けた肉を受け取った張角はそれにかぶりつくと、その味に満面の笑みとなった。

 

「おいしーい!」

「そうか、よかった」

「ちぃちゃんと人和ちゃんも食べよー」

「い、いや……」

「私たちは」

 

その続きを言おうとした瞬間……

 

グウゥ~

 

「「「「……」」」」

 

中々に大きめな腹の虫の鳴き声が鳴った。

 

「……待ってろ。今焼く」

「「お、お願いします……」」

「うーん、おいしー♪」

 

その後、焼き立ての肉汁滴るこんがり肉を食べた二人は、さっきまでの雰囲気が嘘のように元気になった。

何も味付けをしていない、料理とは呼べないものではあるが、三人の空腹を満たすのには十分である。

 

「あー美味しかったー♪」

「お肉なんて久しぶりに食べたわね」

「ホントねー……あ、あの」

「ん?」

「……ありがと、ね」

 

張宝がザイユに礼を言った。出会った時からずっと不信感を持っていたためか、どこかつんけんしていた張宝であるが、イノシシの件と食事の件で少しは認めていいか、という気持ちになったのだ。

 

「……そうね。さっきも、猪から助けてくれて、ありがとう」

「ちぃちゃん、人和ちゃん……」

「気にするな。ハンターとして当然のことをしただけだ」

 

そう言って彼は自分の作業―――アイテムポーチの整理に戻る。整理のため、中の物を一旦外に出していたのだが、その中の一つが張宝の目にとまった。

 

「ねえ、これ何?」

「ソレか?ただの回復笛だ」

 

そう、それは狩りの時、仲間の回復などに使う道具、回復笛である。ザイユは最初これを見たとき、一人で狩りに行ったのに何故入っていたのかと内心疑問に思ったが、すぐにボックスにしまうのを忘れた事を思い出して、一人納得した。

ザイユにとってはその程度のものだったが、彼女たちは別の印象をもったらしい。

 

「笛?アンタ笛吹けるの?」

「ああ。一応な」

 

ここでザイユが言っている笛は、狩りの道具としての笛や、狩猟笛と呼ばれる武器のことであって、楽器の笛ではないのだが……。

 

「ちょっと吹いてみてよ」

「む?いやそれは」

「お姉ちゃんも聴いてみたいなー」

 

張宝のお願いに張角ものってきた。別に吹いてもいいのだが、回復笛は楽器ではないため、二人が望むような演奏はできない。どうしたものかと考えるが、二人が期待している目で見ており、しかもよく見れば張梁まで見ているため、断ることができない。

 

「……分かった。だが期待はするなよ」

「やったー!」

「い いから早く!」

「はぁ……」

 

ザイユは回復笛のを手に取り、口に咥えると息を吹き入れて音を鳴らす。

単調な音色であったが、回復笛の性質ゆえか、その音は優しくその場を包み込む。

 

「……ふぅ。満足したか?」

「なんだかー……」

「癒される音だったわね……」

「意外ね」

 

心なしか癒された気分になった三人。それもそのはず、この回復笛はその名の通り、吹いた音を聴いた者を回復させる。しかしそれを知らない三人は、単調で武骨な音色であるのに何故かいい音色であると感じたのだ。

すると不意に張角が立ち上がって言った。

 

「よ~し!ちぃちゃん、人和ちゃん、歌おう!」

「姉さん?」

「いきなり何?」

 

突然の提案に困惑する二人。

 

「だって~、ザイユさんの演奏を聴いて、なんだか歌いたくなっちゃったんだもーん」

「だからってそんな急に」

「いいわね!よーし!張り切って歌うわよー!」

「ちぃ姉さんまで……」

 

既に二人は自分の楽器をとりだし、歌う準備を始めている。

 

「……歌か……」

 

その様子を見ていたザイユがポツリと呟いた。

 

「……そうだな。俺も、君たちの歌を聴いてみたい」

「ザイユさんもこう言ってるし、ね?」

「もう、分かったわよ」

 

観念したのか張梁も楽器をとる。その間、ザイユは念のために周囲の気配を探る。……今のところ危険な気配はない。そうしている間に準備を終えたのか、三人はそれぞれの楽器を手に歌う準備を整えていた。

 

「それじゃあ、いっくよー!」

「おー!」

「まあ、やるからには本気で、ね」

 

三人の演奏と歌が始まる。ザイユが知っている歌とはまた違ったものであるが、その歌はザイユの心に染み渡り、体の奥から元気が出てくるような歌であった。

まるで、かつてドンドルマのアリーナで聴いた、ある歌姫の歌のようだと、彼女たちの歌を聴きながらザイユはそう思った。

 

「……いい歌だな」

 

気づけば時を忘れるほど聴き入ってしまう程に、ザイユは彼女たちの歌に魅了されていた。

そして、歌が終わったと同時に、ザイユは自然と両手を叩き合わせ、三人に拍手を送った。

 

「ありがとう。いい歌を聴かせてもらったよ」

 

率直に自分たちの歌を誉められた三人は、互いに顔を見合わせると、互いに手を合わせて喜んだ。

 

「「「やったー!!」」」

 

無邪気に喜ぶ三人の様子につられてか、ザイユも喜ばしい気持ちになり、自然と笑みを作っていた。

そしてひとしきり喜んだ後、張宝が真剣な顔でザイユに尋ねた

 

「ねえ……私たち、大陸一の歌手になれると思う?」

 

その問いかけに、ザイユは率直に、彼女らの歌を聴いて思った事を伝える。

 

「……君たちの歌を聞いているとき、以前聴いた歌姫の歌を思い出した」

「歌姫……」

 

ザイユは三人に視線を向けてから、更に続けて答える。

 

「……君たちなら、きっとなれるさ」

 

その言葉を聞いて、三人は更に、跳び跳ねるように喜んだ。

 

(……そんなに嬉しいのか?)

 

しかしよく考えてみれば、彼女たちはずっと泣かず飛ばずだったのである。故にこうして素直に褒められれば、その喜びは大きいのだろう。そう考えていると、張角が近くまで来てザイユに話しかけた。

 

「ねえねえ、よかったら次の街でザイユさんも一緒に演奏しよー?」

「俺がか?」

 

何とも突飛な提案に目を白黒させていると、張宝がそれにのってきた。

 

「それいいわね!アンタ目立つし、物珍しさお客さん出来てくれるかも!」

「悪い考えではないわね。切っ掛けは何であれ、まず私たちの歌を聴いてもらわないと」

 

意外にも張梁も乗り気である。

 

「張角、何を言ってるんだ?二人も悪ふざけが」

「そうだー。ザイユさん、これからは天和(てんほう)って真名(まな)で呼んでー」

 

咎めようとするもそれさえも遮られてしまう。もはや止まらないらしい。

 

「真名?」

「アンタにならいいか。私は地和(ちーほう)、真名を預けるんだからちゃんとやってもらうわよ?」

「まあ、姉さんたちがいいなら。人和(れんほう)よ。改めてよろしくね」

 

疑問を挟む余地もなく、矢継ぎ早に言われて、流石のザイユもたじろぐ。

 

「ま、待ってくれ。真名とは何だ?」

「そういえば、ザイユさんかなり遠くから来たんだっけ。真名っていうのはね、簡単に言うと親しい間柄の人にしか呼ばせない名前のことよ」

「そんな大事な名前を、俺に教えていいのか?」

 

率直な疑問である。自分みたいな昨日会ったばかりの人間に、教えるようなものではないと思われたからだ。

 

「大丈夫だよー。だってザイユさん、いい人だしー」

「そういう問題か?」

「私たちが大丈夫って言ってるんだから、気にしなくていいの!」

 

そう言われては納得するしかない。結局は教えるかどうかなんて本人が決めること、本人がいいと思ったのなら、それでいいのだろう。

 

「……分かった。信頼の証と思って受け取っておこう……ありがとう」

 

何やらむず痒いが、それはそれとして嬉しいものである。

 

「だが生憎、俺には真名はない。その風習自体無かったからな。代わりに―――」

「「「?」」」

 

そう言ってザイユは自身の腰に着けてあるアイテムポーチの中を少し探ると、何かを取り出した。

 

「これを君たちにやろう。ちょうど三枚ある」

「何これ?」

「きれ~」

「何かの工芸品……?」

 

三人に手渡されたのは、薄く平べったい、金属のようなもので出来た物だった。

 

「鋼龍の鱗だ。真名の代わりと言っては何だがな」

「こうりゅう?」

「加工もしてないただの鱗だが、お守りにでもしてくれ」

 

渡された鱗をまじまじと見やる三人。しかし、ザイユは内心で三人に謝罪していた。実はその鱗、状態は奇跡的にいいものの戦闘によって剥がれ落ちたのを拾ったものであり、真名の代わりに渡すというのは気が引けたのだが、しかしそんなザイユの心配をよそに、三人はその美しさと物珍しさからか喜んでいた。

 

「ありがとうーザイユさん」

「こんなものしかなくてすまんな、張か……おっと、天和、だったな」

「ううん、そんなことないよー。大切にするねー」

 

ザイユは申し訳なさそうにそう言うが、張角―――天和は笑顔でそう返す。どうやら素直にザイユからの送られたものに喜んでいるようだ。

そして、張宝―――地和と張梁―――人和もザイユに礼を言う。

 

「そうそう。言っておくけど、後で返せって言っても遅いからね?」

「鋼でできた鱗なんて、洛陽の市でも見ないわよ。ありがとう、ザイユさん」

「地和、人和……そうか、なら、よかった」

 

自身の心配が杞憂に終わったことによってか、三人の笑顔を見たことによってか、その防具の下で、ザイユは自然と笑顔を作っていた。

その後、予定よりも時間が経ってるのに人和が気付き、四人は休憩を切り上げてその場を発ち、旅路を再開した。目的の街までは、まだ遠い。

 

 

 

――――――ある日を境に、泰山の周辺から獣の一切が消え、それと同時に謎の咆哮が響き渡るようになる。民衆の間では、天変地異の前触れだ、化け物が泰山を支配した、天から龍が降り立った等の噂話が広がり、太守が調査を向かわせても、何の成果も得られずに終わる。

いったいこの地に何が起こっているのか……真相は未だ、誰にもわからない。

 

―――

――

-

 

泰山の山頂。基本的に人が踏み入れることのないその地にて、ソレは目覚めた。

ソレは身体に備えたその四肢でもって、ギシリと金属が擦れ合う様な音を立てて、横たえていたその巨体を起こす。そして、背中の翼を広げて羽ばたき、空中へと舞い上がる。その体表は黒銀色の鱗や殻で覆われ、太陽の光を反射して光沢を放つ。

宙へと舞い上がったソレは、その巨体を空中に止まらせると、その頭部を掲げ、天へと咆哮を放つ。

同時に山頂に暴風が巻き起こり、いつの間にかソレは天を翔け、その場から姿を消していた。

 

鋼龍クシャルダオラ。三国の地に、嵐が吹き荒れる。




肉焼きセットはハンターの必需品!
そして、あの古龍も来ちゃいました。
正直、恋姫世界の人間たちが対抗できるのか不安ですけど、孔明ちゃんが何とかしてくれますよね!
まあ、接触はまだまだ先になりますので、温かい目で見てください!

それでは次回も、よろしくお願いします!

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