真・恋姫†夢想~双魔の狩人~   作:D-ケンタ

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しじまの向こう

鬱蒼とした森の中、草木をかき分けながら進む人影が三人。女性二人と、男性一人の一党だ。女性二人は軽装だが、先頭を歩く男性は周囲から浮くような色合いの鎧に身を包み、辺りを見回し、時折採取をしながら進んでいった。

 

「先程から野草やキノコを採っているが、食料は用意してきただろう?」

 

その光景を見ていた、一振りの刀を手にした女性―――夏侯惇は、彼に向かってそう尋ねた。

 

「いや、街で回復薬などを調達できなかったからな。同種かは分からないが、調合用の素材を確保している」

「薬であれば、多少は用意しているが」

 

そう言って弓を携えた女性―――夏侯淵は、自身の腰に下げている巾着袋を指した。

 

「それでは不十分だ。戦闘中、オオナズチに盗まれる可能性がある。過剰なくらいでちょうどいい」

「成程。しかし、そのような野草やキノコが、本当に薬になるのか?」

「試してみないと分からないが、俺の地方のと同種だった場合、このようになる」

 

先頭を歩いていた男―――ザイユは腰のポーチを探って筒を取り出すと、蓋を取って中身を彼女たちに見せる。

 

「この液体が薬なのか?」

「ああ。効果はいま一つだが、即効性が高い。数は少ないが、二人にも渡しておこう」

 

ザイユはポーチから更に回復薬の入った筒を二つ取り出し、二人に手渡した。しかし、知らぬ薬をいきなり信用はできないのだろう、夏侯惇は受け取りを渋っていたが、夏侯淵に説得されたことで渋々ながらも受け取った。

 

(しかし、こんな街の近くの森にオオナズチが出没するとはな)

 

通常、古龍種は滅多に人前に姿を現すことはない。特にオオナズチは古龍種の中でも比較的温厚な古龍であるため、このような人里近くで目撃されたことはザイユの記憶では一度もない。いくら温厚とはいえ、いつ気紛れを起こして街へと襲撃して来るか分からない。

その為、今回街の太守である少女―――曹操から話を聞いた時、一も二もなくその依頼を受けたのだ。本来であれば、古龍に対して確かな実力者複数人で挑むべきであるものの、ザイユもG級ハンターの一人、大人数での撃退戦は勿論、単身での戦闘も何度かこなしている。討ち倒したことこそないが、古龍種相手の立ち回り方ならば心得ている。

今回のオオナズチの撃退を請け負ってすぐ、ザイユは道具の調達などの準備に取り掛かったが、ここで一つ問題が生じた。街の道具屋や薬屋では、ザイユの求めるアイテムが置いてなかったのだ。傷薬や解毒に使える薬草、漢方薬等はあるにはあったのだが、ザイユの知っている物と違うこともあり、仕方なくフィールドで素材を調達することになったという訳だ。しかしフィールドに出ても、似ているのは見つかっても同じ物は未だに見つけられずにいた。回復薬などはアイテムポーチの中にある程度は入っているものの数が少なく、このままでは心許ない。

少なくとも、解毒草だけでも採取したいところだが、中々上手くいかないもので、それらしき野草やキノコが数種見つかっただけに終わった。

 

(一応、調合用のアオキノコが僅かだが残ってはいるが……仕方ない。ぶっつけ本番で試すしかないか)

 

ザイユとて、道具を使わずに古龍と戦える程凄まじい実力を持っているわけではない。古龍の動きをよく観察し、適切なタイミングでアイテムを使い、隙を見て斬撃を叩き込む。そうやって彼は戦ってきた。故にこの状況は芳しくないと、内心で不安を感じていながらも、依頼の目的である古龍、オオナズチを探して歩を進めていた。

 

「……む?」

 

ふと、何かに気づいたのか、ザイユは足を止め、後続の二人を手で制した。

 

「どうした?」

「足跡だ。形状からして、オオナズチのものではないが……」

 

ザイユが見つけたのは、何かしらの生物の足跡。地面への沈み具合やその形はオオナズチとは別の生物のもの。それだけであれば何も珍しくはないのだが、ザイユが感じた不自然なものは、視線を向けた先にあった。

 

「……途中で途切れているな」

「土質が固くて残らなかったのか、或いは……」

「オオナズチに襲われたか、だ」

 

この状況に、三人は周囲の警戒を強める。ザイユは感覚を済ませながら、途切れている足跡、さらに周囲の植物を調べた。

 

「……夏侯淵、一つ確認したいんだが」

「……何だ」

「確か、襲われた時は濃い霧が発生したと言っていたな」

「ああ。それがどうかしたか?」

「……葉が僅かだが湿っている。まだ近くにいるかもしれん」

 

その言葉に夏侯惇と夏侯淵の二人は身を強張らせた。

感覚を研ぎ澄ませて警戒しているのに、姿はおろか、気配すらも感じ取れない。そんな存在が、自分たちの近くにいるかもしれないのだ、無理もない。

 

「一度ここから離れよう。まだ道具も情報も十分ではない」

「だが、逆に考えればこれは好機だ。奴は自在に姿を消す……であれば、ここで奴を見つけだして叩くべきだ!」

 

以前の雪辱を晴らさんと、夏侯惇はザイユの提案に反論した。確かに、オオナズチは霞龍の異名通り、その姿を目撃すること事態が難しい。夏侯惇の言うことも一理ある。しかし、それは事前準備が十分なされた場合であり、今の準備不足の状態では、たとえ見つけたとして、まともに戦うことはできない。

 

「姉者、ここはザイユ殿の言う通りにした方がいい。それにもうすぐ日も落ちる、一度夜営し、万全の状態で挑んだ方が確実というものだ」

「むぅ……確かにそうだな。惜しいが、ここは一旦退こう」

 

夏侯淵に説得され、夏侯惇も元来た道を戻る為に踵を返す。ザイユは殿を務め、来たときと同じように野草やキノコを採取しながら二人の後ろを歩いていった。

 

 

すっかり日も落ちた頃、森の外で夜営についた三人は、消耗した体力を回復させるために食事をとっていた。

夏侯淵と夏侯惇は用意した携行食を食べていたが、ザイユがポーチからこんがり肉を取り出し食べ始めると、夏侯惇から妙な視線を感じ、仕方なくザイユはポーチから生肉と肉焼きセットを取り出し、焼き立てのこんがり肉を夏侯惇へと渡した。

何やら言い訳のようなことを言いながら受け取った夏侯惇は、まるでハンターさながらの食いっぷりでこんがり肉を平らげた。夏侯淵にも渡したが、こちらは対照的に上品さすら感じられたというのに、姉妹でこうも違うのか。ザイユはそう思わずにはいられなかった。

食後は各自、翌日に向けて己の得物の手入れや、道具の確認などをして過ごし、ザイユは採取したアイテムの効果などを調べていた。もしこれがザイユの知っている物と同じであれば、オオナズチとの戦いが大分楽になる。しかし……。

 

「……ダメか」

 

悲しいかな、採取した野草とキノコを調合しても回復薬や解毒薬にはならず、薬効があったとしても僅かであったりと、求める結果にはならなかった。

 

(なら、手持ちの素材を栽培などして増やすしかないが……)

 

街の道具屋やフィールドで手に入らない以上、今ある手持ちを増やすしかない。しかし、ポーチの中身をチェックした後、ザイユは重い溜め息を漏らした。

 

(薬草、アオキノコが3。ハチミツは街で見かけたが、金がない。光蟲は閃光玉を分解すればいいが、残りの閃光玉は3つ。雄玉が2に雌玉が1……繁殖のことを考えれば、1つしか使えない、か……厳しい戦いになりそうだ)

 

ただでさえアイテムが足りないのに、栽培や繁殖用に残さねばならない為、使える個数は更に限られる。

本来古龍と戦うには入念な準備が必要であり、それがないまま狩りに赴くことは無謀としか言えない。

 

(だが……それでもやるしかない)

 

そう、かなり厳しい状況だが、それでもやるしかないのだ。もしかしたら、増えるのを待っている間にオオナズチが街へと襲撃してきたら、出なくていい被害が出てしまう。それはなんとしても避けなくてはならない。

ふと、付いて来た二人に視線を向ける。古龍の脅威への認識や、実力はともかくとして、二人の街を守ろうとする気持ちはザイユへと十分に伝わっていた。

曹操から頼まれた通り、二人を無事に帰還させるためにも、経験のある自分が体を張らなくてはならない。

ザイユは気を引き締め、いざというときにすぐ使えるよう、ポーチ内のアイテムの位置を調整し、己の得物である大剣を砥石で研いで整備した。

その後は交代で見張りをしながら眠りにつき、明日の狩りへと備えた。

 

 

日が昇り、朝を迎えた三人は早速昨日の場所へ行き、その周辺を探索した。すると明らかに気色の違う痕跡が見つかり、念のためにザイユが調べた結果、オオナズチの痕跡であると確定した。それは森の奥へと続いており、一行はとりあえずその痕跡をたどり、森の奥へと進んでいった。

 

「ところでザイユ殿、あの化け物……オオナズチといったか?姿を消す奴相手に、どのように戦うのだ?」

「そうだな……奴は確かに姿を消せるが、それも絶対なものではない」

 

夏侯淵の問いに、ザイユは己の知るオオナズチの情報を答えていく。

 

「煙を焚いて姿を浮かび上がらせる、大きな音を立てて驚かせるなど方法はあるが、一番は角と尻尾を斬り落とすことだ。そうすれば奴は姿を消せなくなる」

「何故だ?」

「詳しくは知らん。研究者は、古龍種はその二つの器官で能力を制御していると言っているがな」

「成程な……」

「だが、あ奴の角や尾など、斬り落とせるのか?」

 

ザイユの言ったことに夏侯惇は疑問を抱き訪ねる。確かに、古龍種の部位を破壊することは難易度が高いが、ザイユは何の気無しにさらに答える。

 

「問題ない。斬り続ければいつか落とせる」

「簡単に言ってくれるな……」

 

その後も二人の問いにザイユが答えながら、三人は探索を続ける。

暫くすると、森の中の開けた場所に到達した。

 

「……ダメだな。痕跡が潰れている、これでは詳しいことは分からん」

「手詰まりか……」

 

録な手懸かりもなく、どうやって探すべきか思案する。とりあえず、手分けしてこの場所を調べることにした三人だが、あまり良い成果はあげられなかった。

 

「ザイユ殿、何か見つかったか?!」

「いや……」

「姉者、そちらは?!」

「今調べている!」

 

そう、何も見つからなかったのだ。これだけ開けた場所なのに、争った痕跡も、食事の跡も、何もなかった。

しかし、その事が逆にザイユを不信がらせた。

 

(何だ、嫌な予感がする……)

「あたっ!?」

 

ザイユが不信感を持ったと同時に、離れたところを調査していた夏侯惇が声をあげた。

 

「どうした姉者?」

「い、いや、何かにぶつかっ、て……?」

 

そうは言うが、今現在夏侯惇の前方どころか周囲には何の障害物もない。

 

「?何もないぞ」

「い、いや確かに何かが……」

 

しかしいくら見ても何もない。夏侯惇は周囲に視線を向けるも、やはり何もない。

その時、ザイユと夏侯淵は目撃した。夏侯惇が最初に言ってた方向、夏侯惇のすぐ近くの空間が一瞬だが歪んだのを。

 

「―――っ!?そこから離れろ!!」

 

ザイユが叫んだと同時、それは姿を現した。

 

「―――なっ……!?」

 

何時からいたのか。いつの間にこんな近くまで接近したのか。いや違う……それは、ずっとそこにいたのだ。

毒々しい紫色の外皮や鱗で全身を覆い、頭部には突き出たような一本角、背中には一対の翼を生やし、その巨体を強靭な四肢で支えている―――霞龍オオナズチは、三人を気にも留めず、最初から只そこに佇んでいただけだ。

ギョロりと、オオナズチの眼が夏侯惇を捉えた。その時夏侯惇は、まるで金縛りにあったように、身動き一つとれなかった。

夏侯淵も同じだった。動けなかった夏侯淵は、生きながらヘビにのまれるカエルの気持ちを理解したと思った!

 

「カロロロ」

「ひっ―――!?」

「―――っ!姉者っ!?」

 

オオナズチが動いた。ゆっくりと、緩慢とさえ思える動きでその巨体を夏侯惇の方に向け、前足を上げた。この後に起こることは、想像に難くない。

しかし、夏侯惇は今だ動けなかった。眼前まで迫った死の恐怖に、体が竦んでしまっていた。

夏侯淵は距離が離れていたこともあり、何とか気を戻したものの、時既に遅し。今から弓に矢を番え射ったとしても、その矢が届く前に上げられた前足が振り下ろされ、夏侯惇を物言わぬ肉片へと変えることだろう。

だからといって動かないわけにはいかない。

 

(頼む、間に合ってくれっ!)

 

流れるように矢を取り出して弓を構え、弦を引き絞る。当たらなくてもいい、少しでも注意をそらせれば。しかし、流石の洗練された動きであったものの、それでも時間が僅かだが足りない。

無情かな、夏侯淵が矢を放つより一瞬早く、オオナズチの前肢が振り下ろされた。

 

「姉者―っ!?」

 

夏侯淵は叫んだ。しかし、それでオオナズチが動きを止めるわけがなく、数瞬の後振り下ろされた前肢は夏侯惇を直撃するだろう。

万事休す……かに思われた。

 

「フンッ!」

「うぐっ!?」

 

夏侯淵が弓を構えるより前、オオナズチが前肢を上げるより前に動いた者がいた。

 

「ザイユ殿っ!?」

 

オオナズチが姿を現し、その眼が夏侯惇を捉えた時、危険を察知したザイユはいち早く夏侯惇の元へと駆け出し、そして今、夏侯惇を抱き抱えるようにして強引にオオナズチの前から助け出した。勢い余って地面を転がったが、最悪の事態だけは免れた。

 

「大丈夫か!?」

「あ、ああ……」

「ならいい」

 

返事を聞いてすぐ、ザイユは身を翻してオオナズチに向かい合う。オオナズチは再び姿を消すこともなく、只観察でもするかのように視線だけを向けていた。

 

「姉者無事かっ!?」

 

急いで駆け寄ってきた夏侯淵が息せき切らしながらも姉の身を案ずる。妹の姿を見たことで落ち着いたのか、夏侯惇の緊張が少し和らいだようだ。

 

「し、秋蘭……ああ、私としたことが……」

「一度下がり、態勢を立て直そう。ザイユ殿!」

「いや、俺は残ろう。奴を留めておかねばならないからな」

 

二人の方を振り返らずにそう言ったザイユの意識は、何をされても反応できるようオオナズチに向けられている。オオナズチもザイユの纏う雰囲気を感じ取ったのか、唸るような声をあげて威嚇している。

ザイユは背負った大剣の柄に手を掛け、一気に駆け出した。

 

「ザイユ殿っ!?」

 

夏侯淵の制止する声も聞かず、ザイユはオオナズチに肉薄する。迎撃のため、再びオオナズチが前肢を振り下ろすのと、ザイユが背負った大剣を振り抜いたのはほぼ同時。

激しく衝突する音が周囲へと響く。

古龍とハンター……狩るか狩られるかの戦いが、始まる。




やっとオオナズチ戦始めることができました!アイテムも不足してるなか、どう戦うのか。

次回も、お楽しみに!

《アイテム紹介》

・閃光玉
光蟲と素材玉を調合してできるアイテム。投げた後強い閃光を放ち、モンスターの眼を眩ませる。
非公式ではあるが、オスの光蟲を使ったものが雄玉、メスを使ったものが雌玉と呼ばれている。
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