ラブライブサンシャイン 〜if 男子がいたら〜 作:カーテンと手袋
「誰かの為に生きるのは、そう難しいことじゃない」
十勝「先生ってさ、そう何人もいない?」
ホームルームが終わった後、十勝は隣の席に座る同級生、京六里に話しかけた。
京六里「残念なことにね」
机の横に吊るされた鞄に手をかけていた京六里は、その動作を辞め質問に答えた。十勝は申し訳ない気持ちをハンドサインで示し、京六里もそれに準じた。
十勝「そっか、職員室を見て少ないと思ってさ。授業も掛け持ちの先生だし」
京六里「大抵の所では教科、数2、B、それぞれに教員が就くからね」
十勝「うん」
塩並と小木が飛び出して行った教室には、残されてしまった静寂が漂っていた。引き止めてしまった申し訳なさもあり、静寂を掻い潜るように十勝は会話を続けていたが、京六里は意に介さなかった。塩並と小木は今日は釣りをするのだと一時間目からソワソワしていた。会話をしながら十勝はそんな事を思い出していた。
京六里「カルチャーショック?」
十勝「まぁ多少は。学年がバラバラのクラスに塾みたいな授業形式。正直言って驚いた」
京六里「俺も最初は驚いたよ」
京六里は机の中に閉まっていた数学の教科書を取り出し、二、三度トントンと教科書の角を合わせた後、机の端に寄せた。主に几帳面な性格を表していた。
十勝「転校生だったの?」
京六里「いや。高校からこっちに。中学までは山梨の進学校に通っていたんだ」
十勝「納得した」
少人数クラスのうえ同級生が彼しかいない状況では、優秀な成績は意識しなくとも十勝には流れ込む情報だった。比較対象として僻んでいた訳ではないが、気にかかる事柄の一つであった。
京六里「ガリ勉君だったよ」
はははと笑いながら京六里は自虐した。皮肉まじりに笑い飛ばし、今度こそ机の横にある鞄に手をかけた。
十勝「想像もつかないなぁ」
2年前までは机に齧り付き、高校受験という競争社会の中に身を置いていたとは、十勝は彼を一目見ただけでは尊像できなかった。不良に見えていた訳でも遊び人に見えていた訳でもなかったが、適度に崩した学ランや多少遊んだ髪が、そう思わせる要素だったのかもしれない。しかし、確実にそう思わせるに至らなかったのは、彼の所作には華やかさが見え隠れしていると、そう感じていたからだった。
京六里「そろそろ行くよ」
十勝「俺も」
時刻はバスの出発時間に迫っていた。
横を歩く京六里を十勝は見た。南の国でヤシの木をバックに立っていれば、数人の美女が心を動かされるような整った顔立ちを、十勝は見ていた。そして聞いても良いものかと迷ったが、躊躇いがちに疑問を投げかけた。
十勝「どうしてここに?」
京六里「女の為さ」
こいつはどうして、クサイ台詞を吐かれて、背中にゾワっとした異変を感じない男が現実に存在するのかと十勝は思った。一時代前の昭和スターやイタリアの俳優、そんな面影が彼に重なった。十勝は「こいつはスゲェ」と心の中で本音を生み出したのであった。