ラブライブサンシャイン 〜if 男子がいたら〜 作:カーテンと手袋
「まるに出来ることってなんだろう……応援したいよ、ルビィちゃんのこと。一生懸命なルビィちゃんキラキラしてるから。嫌なことが、辛いことがあったら、まるがそばにいるよ。だから……」
「わぁぁー! 広いね! 花丸ちゃん!」
水面を跳ねるお魚さんのように、ぴょんぴょん。ルビィちゃんはとっても楽しそうです。さっきまではバスの座席でいそいそ「まだかなぁ、まだかなぁ」と話していて、窓の外をチラチラ見ていました。きっと、それがショッピングモールに着いた途端、爆発してしまったのだと思います。可愛いなぁ。まだモールの入口に辿り着いただけで、脚力を存分に使い、気持ちの昂りを表現してしまうのだから、お目当のアイドルグッズを手に入れた時には、いったいどれほどの喜び方をするのだろう。まるは不安と同時に溢れてくる期待をしっかりと噛み締めました。倒れるまではいかなくても、言葉が出ないくらいの喜び方をするのかもしれない。ちょっと想像してみます。……ごくり。危ないかも。不安の方が大きくなり唾を飲み込みました。
「わぁー」と無邪気さを口にしながらモール内を示す案内板をルビィちゃんは眺めていました。
「まずはここ行きたいなぁ。あとここも! あっ! たこ焼き美味しそう!」
ルビィちゃんはビシッビシッと点呼を取るように指を差していました。まるも「どれどれ」なんて言いながら答えます。
「インドカレーも美味しそうだよ」
昨日の夜もお婆ちゃんのカレーを食べたけど、別の風味も気になってしまいました。やっぱりカレーって美味しいづら。まだ食べてはいないのに、味蕾が花開いてそれをまるに伝えてくれます。
「本当だね、美味しそう……」
ルビィちゃんはそう言って沈黙してしまいました。案内板には他にも、おうどんやハンバーグ、パン、美味しそうな料理が写真付きで沢山載っています。迷ってしまうのも仕方がない量です。「……掃除機みたいに全部吸い込めたらなー」とルビィちゃんは小さな声で言いました。
「それじゃあ、二人で分け合いっこしよう」
まるは提案します。
「えっ……いいの?」
困惑している様子です。
「うん。共有した方が美味しさも二倍だよ」
「えへへ。そうだね」
明るさを取り戻しました。お顔の周りに光がさしたように見えました。今朝の日差しみたい。ルビィちゃんには笑顔が一番!
「いつも学校でやってるよ」
「あ、忘れてた〜」
「もちろん本屋さんも忘れてないよ」
ワッペンの材料を見たり、可愛い雑貨屋さんで新しい発見をしたり、お洋服でモデルさんになってみたり、楽しい時間がだんだんと過ぎていく中で、ルビィちゃんはそう言いました。本当に良い子づら。思わず親戚の孫を可愛がるお婆ちゃんのような気持ちになります。ルビィちゃんに手を引かれ、駆け足で本屋さんに入りました。情報が幾多にも折り重なって、木材の棚に所狭しと整理されていました。ここは楽園のようです。そして天使は、まるが欲しい本を一緒に探してくれました。何十分か経った頃、どうしても見つからない一冊がありました。どこにあるんだろう。一生懸命探しても見つかりません。
「るっるびぃ、お店の人に、聞いてくるね」
ルビィちゃんは、まるの返答も聞かずに男性店員さんの元へ駆け寄って行きました。……男性店員。えっ……ルビィちゃん!? 大丈夫なの!? まるは目を丸くしました。どういう訳か、自分の意思で男性店員に話しかけに行ったように見えたからです。
「あっ……あの……ぁ……」
どんな心境の変化なのか、まるにはさっぱり分かりません。だけど苦手を克服しようとするルビィちゃんは立派に見えました。小さな勇者さんです。
「お探しの本でしょうか?」
「ほ、ほん。ささ……」
「がんばって」まるは心の中で応援します。
「……うゅ……や、やっぱり無理〜〜!! うわーん!!」
「ルッルビィちゃん!」
この店員、深林番六輔は傷ついた。
生まれてこの方、女性にあそこまでの拒絶をされたのは初めてであった。彼は考えた。何か彼女に不便をかけたのだろうかと。一通り振り返ってみるが思い当たる節はない。彼は困惑にも似た冷や汗を手と背に溜め込み、白いワイシャツを濡らそうとした。逃げ去る彼女を、そのまま硬直し見つめていると、もう一人の友人が一礼をして追いかけて行った。彼は思った。定員の証である茶色のエプロンを投げ捨て、今すぐにでも夕陽に駆け出してしまいたい。熱血先生の後を追い全力で水平線を掴みたい。学園ドラマの陳腐なエンディングを思い浮かべながら、自身への言い訳を模索していた。彼はこれを五年ほど繰り返す。そしてこの思考回路は何とか折り合いをつけさせるように、彼を弁護士の道へと進ませる。何年後かの先の未来。彼は通信講座の申し込み用紙をポストへと投函したのだった。
(彼は恐らくもう出てくる事はないでしょう。恐らく……)
「ルビィちゃん。おんなじので良かったの?」
「うん。花丸ちゃんとおんなじの食べたら、きっと美味しいから」
ルビィちゃんはそう言って、ニコッと微笑いました。フードコートのやや中央の席に対面して座り、これからお食事の時間です。
「いただきます」
二人して手を合わせます。ほかほかのカレーは早く食べてようと急かすように、湯気を出していました。
「さっきはごめんね。本選んでたのに……」
一口二口食べた後、スプーンの動きを止め、ルビィちゃんは話始めました。
「大丈夫だよ。結局、見つからなかったから。でもどうして? おらびっくりしたよ」
本屋さんに寄る前。ご当地アイドルと呼ばれるキラキラした女の子達から、サイン入りのCDを受け取りました。ここに着いた時には、飛び上がるんじゃないかって心配していたけれど、冷静沈着で、強い意志をその目に感じていました。いつもと違うルビィちゃん。別の心配がまるを襲っていました。
「……千歌ちゃん達が……部活始めたの知ってる?」
「うん。アイドルのだよね。ルビィちゃんの好きな」
「……ルビィね。このままじゃダメだって思ったんだ」
思い悩むルビィちゃんを、まるは初めて見ました。あんなに元気いっぱいの姿からは想像がつかなくて、びっくりしました。
「すっごく……すっごく、やりたいの。アイドル……田舎じゃ絶対無理なんだもんって諦めてた……でも、千歌ちゃん達がアイドルを始めたって聞いて、いいなぁって思って、羨ましいって思ったの」
中学生の頃。よくアイドルの話をしている時に、何度も「夢はアイドル」って言っていたのを思い出しました。いつからか、そう。一年くらい前からはその夢も言わなくなって、別にやりたいことが見つかったのかなって楽観的に考えていました。でも違いました。ルビィちゃんは表に出さなかっただけで、ずっと内側で、ずっと膨らませていました。諦めていたなんて誤魔化しながらもずっと。
「あと一歩だけ、勇気が欲しくて……ルビィ、男の人……苦手だから……変えようって、思って。自信になると思ったんだ。だから」