ラブライブサンシャイン 〜if 男子がいたら〜   作:カーテンと手袋

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うるう年は
何か特別な予感を誘う
甘い甘いスープ
天体的な
基準に見立てて
覚めない修正を行う


前夜

「これは武者震いだよ! ……ほら見て! 全身揺れてるんだよ! あっ! 最近の流行だよ。浦女では流行ってるの。しっ知らないのは十勝君だけだよ! ほらほら、遅れてるのだ!」

 

もう日が暮れてから数時間は経っていた。

いつもなら瞼が重くなる時間であるのは確かなのに、私は布団の上で正座なんかして、悶々としていた。私は早く寝てしまいたくて、布団を頭までかぶって「眠れ眠れ〜」と呪文を唱えてみたけど、一向に眠れず、今の状況に至っている。どうしようかな。何か方法はないものかと赤い海老のぬいぐるみを抱いていると、また夜風が襖や窓を叩いた。さっきもだよぉー。夜風が窓を叩いていたり、道路を走る車の音だったり、風に押されて際立つ波だったり、睡眠を妨害する要素が多くて、私は眠りにつくことが出来なかった。いつもならこんなことはない筈なのに。それにやたらと大きく聞こえるのは、他に心臓の鼓動がある。普段は無意識に眠っていた気持ちや生活音や自然が、今日は目を覚まして意識に顔を出している。そわそわしていて、いそいそしている。これをはっきり言えば私は興奮しているのだった。

 

宿泊客の目を覚さぬように、音を立てず私は静かに家を出た。外に出てみると、案外夜風は吹いていないようで、しんと静まり返っていた。車も今は鳴りを潜め、お月様の独壇場パーティーが開催されていた。私と内浦はそれを見守る観客であり、気配を消したバックダンサーでもある。何の変哲もない道路を渡り、25メートルプール程の浜辺にて、私はお月様の反射した海を眺めた。あの揺れ行く水月をひたすら拍手する夜風のように、私は髪を撫でながらちょっとだけ背伸びをした。

「またダンスの練習?」

突然の声に驚いてしまった。が、振り返る必要もなく彼だと分かった。それはこの数週間でいつの間にか仲良くなった証だった。

千歌「違うよー ちょっとだけ黄昏てたの」

十勝「ほぉ」

千歌「そっちは?」

十勝「何だかな。寝れなくてさ、海を見たくなったわけよ」

千歌「はーどぼいるどちっくだね」

十勝「えっ、あー たぶん京六里の影響かな」

千歌「京六里君そんな感じだもんね」

十勝「もっとカッコいいよ」

千歌「そうだね。月とすっぽんだね」

十勝「そこまで言うと傷つく」

千歌「えへへ」

私は以前にも合ったような立ち位置で、サンダルから砂の感触を感じていた。

千歌「それに、感心しないのだ。こんな時間に。若いんだから早く寝なくちゃ」

十勝「母親か」

千歌「にっしっし。私も同じ穴のムジナだけど〜」

こんな利益の無い会話を重ねながら、私は海へと向き直った。

千歌「初めて話した時も、こんな暗い時間だったね」

十勝「あと、めちゃくちゃ寒かった」

千歌「そうかなぁ」

十勝「そっちは動いてたから。ほら、こうやってさ」

彼は立ち上がり、以前見たダンスの一部を見様見真似で試した。その不器用な振り付けは私を笑顔にさせるには充分で、彼はとっても恥ずかしがった。

十勝「とにかく。中々凄かったってことだよ、俺には真似できないくらい」

千歌「そうかなぁ」

十勝「そうだよ、μ'sだっけ? キラキラ輝くんでしょ」

千歌「輝いてみせるよ!」

私は彼の前に拳を握りしめて、突き出した。でもその拳は小刻みに震えていた。

十勝「あらら、ビビっちゃっているわけだ」

千歌「これは武者震いだよ! ……とは言えないね。……えへへ。正直緊張してて不安」

十勝「緊張?」

千歌「うん。明日、LIVEするんだ。幼稚園で。それで緊張してるの。……果南ちゃんは家の手伝いで来れなくなっちゃったし……どういうこと〜! てね。そんな感じで……人の前で発表するって、ほんとに緊張するよね。ちか、ちょっとビビっちゃってる。梨子ちゃんのこと励ましてたんだけど、人のこと言えないな〜 ははは……」

十勝「う〜ん。こういう時、何て言えばいいか……何かに熱中して生きてきた訳じゃないから」

彼は迷いながら言葉を選んでいた。

千歌「……私ね。こんなに熱中するの初めてなんだ。心の底からキラキラが溢れ出してきて、身体をバーンって動かしちゃうの、初めてなんだ」

十勝「もしかしたら、初めてだから緊張してるのかもね」

千歌「それって?」

十勝「本気ってことなんでしょ。分かんないけどさ。本気であればあるほど怖くなってくるんじゃない? 認められるか認められないかとか、出来るか出来ないかとかさ」

千歌「……なかなか……核心をついてる気がする」

十勝「だろ?」

彼は良いこと言ってやったぜという顔で、ニカっと笑った。

千歌「今回はそういうことにしてやるのだ」

私は何故か強がってしまった。

十勝「これもきっと、昨日借りたゲームのせいかなぁ。……夜更かしが響いてる」

千歌「それ、寝れない理由じゃん」

漫才の間が綺麗に決まったツッコミのようで、私達は二人して笑った。

千歌「……それにしても、どうしてこんなこと十勝君に言えたんだろう」

私は純粋な疑問をぽろっと口に出した。これも発言と同じような意味を含んで。

十勝「きっと関係ないからだと思うよ」

そっか。切磋琢磨する部活の仲間じゃないし、気の置かない幼馴染みでもないし、昔からの内浦っ子でもない。

本当に、私にとっての真っ白な関係なんだ。

千歌「明日って空いてる?」

次いで出てくる言葉は、とても滑らかで舌の上を滑り台で遊ぶ子どものように飛び出して来た。

千歌「見てて欲しいんだ。ちかのことーー」

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