ラブライブサンシャイン 〜if 男子がいたら〜 作:カーテンと手袋
「勉強を好きになれたのは、最近のこと」
沼津へと向かうバスの中で、私は必ず左側の席に座る。乗車して周りを見渡して空いている場所。タイヤの上は酔ってしまうから、その前か後ろ。なるべくいつも同じ場所に座って、切り取って保存してしまいたくなるようなコバルトブルーの海を眺める。移動しているから景色は移り変わって行くけど、海は何処から見ても海だった。
そう気がついたのは、つい最近のことだった。
気を張って焦っていたあの頃は、参考書を片手に、酔いを我慢してでも英単語の一つや二つを覚えていたっけ。何だか懐かしい。私は目線を上げる。なんでもかんでも自分のリュックに背負い込んで、いっぱいいっぱいになって、誰かに八つ当たりして……
私は海の中に住む魚たちが、大群になって泳ぐ姿を想像した。それは思い出すと、まだ嬉しくて泣いてしまいそうだから、抑制する為によく使う方法だった。バスは幾度となく海を窓に映していた。
コンクリートの匂いが鼻を撫でた。ぼんやりと駅前を眺める。次々とバスがターミナルへと入り、また出て行く。乗客を乗せ、運ぶ。それはまるで心臓のようだった。血液を隅々まで届ける働き者。道路は血管。バスは循環を繰り返し、私たちを運んでくれる。晴れの日も雨の日も関係なく。でも台風だと止まっちゃうのは違うところ。私はありがたさをしっかりと胸に秘め、学習塾へと歩を進めた。
「珍しいね」
こんな風に出会うのは初めてだったかもしれない。
「確かにそうかもね」
「お買い物?」
これは本当に偶然だった。
「まぁ、そんなところかしら」
「私はこれから塾なの」
学習塾用の鞄を揺らして、その主張をしてみせた。合格祈願の御守りも同じく揺れる。これは父が買ってくれたものだった。
「決意が決まったのね」
「1年半だからね、あの頃から」
鞠莉はどこか遠い目を一瞬だけさせて、徐に呟いた。
「……みんな大人になるわね」
「鞠莉だって、大人っぽくなったよ」
こんな風に話すのは久しぶりだった。そして稀なことだった。
「……thank you その為に飛んだんだから」
私から目線を外し、また弱まりそうな遠い目をして、私の遥か後ろを見ていた。
「学校ではいつも会ってるのに、不思議だね」
「why?」
「だって新鮮でしょ? こういうの」
鞠莉はまだわからない様子で、私の言葉を待っていた。
「クラスじゃあんまり話さないのに、私たち意外と会話弾むんだね」
「空港でも貴女、おんなじようなこと言ってたわよ」
鞠莉がぽつぽつと話し終えたあと、綺麗な上空に旅客機の騒音が混ざって、ひときわ大きな空が私たちを見守っていた。