ラブライブサンシャイン 〜if 男子がいたら〜 作:カーテンと手袋
「善子ちゃんって呼びたいな……」
梨子ママ「会うのは随分久しぶり」
善子ママ「3年ぶり?」
梨子ママ「確か、紀子の結婚式でーー」
善子ママ「あーそう! 懐かしい」
梨子ママ「旦那さん有名人に似ててね」
善子ママ「なんだっけ? 芸人さん?」
梨子ママ「思い出せないなぁ。あ、そうそう。テーブルクロスのウンチク言ってたよね」
善子ママ「それは私じゃなくて、貴方よ」
梨子ママ「あれ、そうだった?」
善子ママ「あと、クロスで花びらも作ってあげてた」
梨子ママ「うそ。恥ずかしい」
善子ママ「だいぶ酔ってたから」
梨子ママ「意識はしてたんだけど」
善子ママ「おまんじゅうありがとう。とっても美味しかった」
梨子ママ「良かった。マイナーな所なんだけど、地元では有名どころなの」
善子ママ「こしあんがしっかりしてて、それに善子ったらほとんど食べちゃって」
善子「うっ」
善子ママ「意外と食い意地があるのよ」
梨子ママ「そうなの。もうちょっと大きいのにすれば良かった。梨子も家用のおまんじゅうほとんど食べちゃったから」
梨子「お母さんっ」
善子ママ「あら、意外と似たもの同士かもね」
梨子ママ「ええ」
飼われたネコとは恐らく二人のことを言うのだろう。学校での自分のキャラクターと母親の下でのキャラクターに差異があれば、中途半端な思考で中間を取ろうとする。それか静かに押し黙りこの場を乗り切ろうとする。二人はとりあえず後者を選び、静かに母親達の言葉が溢れる空間に暮らした。
善子「……」
梨子「……」
二人はこの一室にて、たわいない会話を数回発し、沈黙に溺れていた。母親に夕食の準備があるからとリビングを追われた善子は、梨子を自身の部屋へ招いたのだが、うまく会話の糸口を見つけられずに、待ちぼうけさせられた子犬のようにただ黙っていた。
善子「桜内……さんって、東京からだっけ?」
しかし、耐えられなくなった善子は臆病でビビリながら、桜内梨子の知りうる情報を発した。
梨子「う、うん。津島さんはずっと沼津だもんね」
善子「そうね」
「何その返答!?」と、善子は思った。
善子「だいぶ慣れた? 学校には」
「教師みたい質問」と、善子は思った。
梨子「うん。結構、楽しめてるよ……」
「それはそうよね、スクールアイドルまでしているんだから」と、善子は思った。それに最近から登校を始めた自身の方が、まだ慣れていないのであった。
善子「……」
梨子「……」
善子「うぅうぅー しめっぽい! そして気まずい!」
堪えられない静寂を大声で貫いた。
梨子「えっ……とあの、ごめーー」
善子「謝らないで。私が悪いみたいじゃない。まぁ確かに大声出したのは私だけど……とにかく。いい? ゲームしましょ! 親睦を深めましょ。強制参加。拒否権はないんだからーー」
善子ママ「善子ー! お醤油切れちゃったからおつかい頼めない?」
ドアの向こう側で新たな約束を提示する母親に、タイミングが悪いと善子は感じた。
善子「もう! これからなのに。……頼まれた。お醤油だけで良いの?」
ドアを開く。
善子ママ「あー そうね。麦茶の2リットルと玉子、ついでにバターもお願い」
善子「……不幸ね。最初から全部お願いするつもりだったんでしょ」
善子ママ「あたり」
梨子「わっ私も手伝わせて?」
梨子「さっきの人、知り合い?」
善子「全く。いいから、この先だから」
商店が立ち並ぶ道から外れ、住宅地へと続く路地に入る。せっかく外に出て「津島さんのおすすめな所……教えて欲しいな」と梨子が勇気を出したのなら、善子は買い物前に自身がよく向かうお気に入りスポットに案内しない訳にはいかなかった。
善子「着いた。ここよ! 迷える仔羊達を導く魔道図書館、アレクサンドリア図書館!!」
梨子「ここって……」
平凡な佇まいに、少し汚れた暖簾をぶら下げたそこは町を代表する古本屋の枠組みを外れないと、梨子は思った。
善子「さあ! 中へ入って! 凄いのよ、沢山揃っているんだから! 驚くわよ!!」
大きなショッピングモールのおもちゃ売り場へ急ぐ子どものような輝く瞳で、手を引きながら連れて行かれると、そんな雑念は吹っ飛び胸がドキドキと高鳴る梨子であった。
梨子「ほんとに……沢山の本がある……」
頭の高さよりも高く置かれた本は、ぎっしりと棚に収まり梨子を見下ろしていた。それは左右に存在し、通路を狭くする。どう考えても一人しか通れない通路は、まるで秘密基地へと続く魔法の道だった。梨子は棚から善子へと視線を向ける。
梨子「ふふ……」
善子は小難しそうで禍々しい文字の書かれた表紙の前で、目をキラキラとさせている。思わず微笑み、また棚に目を遣る。
梨子「あれ?」
何も考えず、不思議なほど滑らかに手に取った本は背文字にこう書かれていた。
『つれないエンゼル』
フェヌ・ファイ・フランシー 著作
松戸河 大幸 翻訳
とても不思議に思った梨子であったが、これも何かの巡り合わせと思い、レジへと向かった。