ラブライブサンシャイン 〜if 男子がいたら〜 作:カーテンと手袋
「なんだか、温かい……」
ルビィ(果南)「足引っ張ったら承知しないよ」
足首に紐を巻きながら果南は言った。
十勝「なんか怒ってる?」
ルビィ(果南)「怒ってるわけじゃないよ。ただやるせなくて」
下を向きながら話す果南の顔を、立って待っている十勝は伺うことが出来ない。
ルビィ(果南)「この身体になってどれだけ大変だったか」
ぽつり、ぽつりと誰にも言えなかった不満をこぼす。
ルビィ(果南)「踊ればすぐに疲れる。重い荷物は持てない。身体は硬い。身長差もあるし、それにダイヤの家でのなり代わり生活。海も恋しかった、泳げないから」
意思や考え方がそのまま身体に反映されるとは限らない。果南が今まで培ってきた運動のプロセスは身体が入れ替わり、システムが少し変わっただけで、ガタガタに崩れ去った。まるで一つの部品が合わなくなったゼンマイのように。彼女たちを苦しめた身体と魂の分離化は、他種の動物とは違う思考を司る人間特有の現象だろう。そもそも本来の身体を持つ私たちでさえ、このアンバランスを抱えて生きていかなければならないのだから。
ルビィ(果南)「私、本当に頑張った」
結び終え、立ち上がった。
ルビィ(果南)「これ、誰にも言えないけど意外とフラストレーションが堪っちゃってる。だから発散したいんだよね。燃えてるわけさ。まぁ、ルビィもおんなじように辛かったんだろうけどさ」
ニコッと果南は笑った。ルビィの顔で。
「はやいなぁ」なんてシンプルな感想しか浮かばない私は、今度、花丸ちゃんに小説の一冊か二冊を借りようと思った。とっても恥ずかしい玉入れを終え、私は赤チームの応援席で盛り上がりを見せる徒競走を観ていた。やっぱり運動部の子は私の目の前をビュンと過ぎ去って行き、文化部と言ってもそこそこ脚が速い子がエントリーしているわけだから、そちらもピュンと駆け抜けていく。それに男の子もちゃんと速い。体格や骨格の差なのかわからないけど、しなやかさと同時に力強さも備わっていた。皆んな本当に凄いなぁ。あ、でも、ちょっと意外だったのはダイヤちゃんがあんまり速くなくて、可愛らしい女の子の走り方だったこと。普段の凛とした姿からは想像できない。もしかしたら、ルビィちゃんのほうが速いのかも。
二人三脚が始まったのは、曜ちゃんと塩並君の勇姿が学校中に響いた後のこと。まだ熱気が冷めないまま、男女ペアや女の子同士のペアが走り出した。歓声も校舎に反射して、さらに会場を温めていく。私はその途中で、少し席を離れた。
「うっ……うぅ」
いつもと違うためか、プールの下に備えられた御手洗いに入るのが恥ずかしくて(そこにドアを開けて入る姿が丸見えだから)、私はプール、正面の校門、中庭を過ぎて体育館まで御手洗いに来てしまった。体育祭に使う道具や器具が置かれているため、扉は開いている。そこに手をかけたとき、誰かのすすり泣く声が聴こえた。
「ひっぐっ……りこ……ちゃん……」
それは裏手の影からだった。恐る恐る、でも見てはいけないものを見てしまう期待と、こんな所で泣いている子の心配が、私の脚を動かした。木々が日差しを遮る体育館の横で、曜ちゃんは独り、泣いていた。潜入だとかバレないようになんていうのは、きっと私には向いていない。覗くのと同じタイミングで、足下の枝を踏んでしまったから。曜ちゃんは素早く気がついた。そしてちょっとだけ驚いた表情をして私の名前を呼んだ。
梨子「曜ちゃん……」
曜「あっ……あはは。梨子ちゃんに、かっこ悪いところ、見せちゃった」
すぐに涙を体操着の裾で拭い、いつもの調子で、おてんばな様子で笑ってみせた。けろっとした笑顔がなんだか胸に痛む。
梨子「曜ちゃん……悔しかったんだね」
曜「うん。あとちょっとだったからね、あはは」
手で頭を撫でる仕草をした。曜ちゃんはなんだか元気になったように見える。それがまた私の目元を熱くする。
梨子「私にはね。試合とか勝負事は避けて来たから、よく分からないの。でも、でも曜ちゃんが無理に笑ってるところなんて、見たくないな。私はすっごく辛くなっちゃう」
曜ちゃんは唇を閉じたままにした。何かを言いたいようだったけど、言葉にならない。そんな様子だった。
梨子「曜ちゃん。カッコよかったよ。一生懸命走ってて、すごくて、会場も盛り上がっててて。……みんなに見せないようにしてたんだよね。頑張ってここまで我慢して。かっこ悪くないよ。全然。無理……しないで。ほら私は、引っ越して来たばかりだから、ね?」
曜「やっぱり……男の子には勝てないのかなぁ……」
下を向いて俯いている、さっきまでの大きな大きな曜ちゃんを、私はそっと抱きしめる。
梨子「甘えていいんだよ。ヒーローさん」
曜「うん……少し、甘える……」