ラブライブサンシャイン 〜if 男子がいたら〜   作:カーテンと手袋

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二人三脚

「私が私を見ることで」

 

鏡は反転している姿を私に届けてくれる。写真は過去の姿を私に届けてくれる。人は微妙に違った私を教えてくれる。思えば、今の私をリアルタイムで観察する術は、まだ無いのかもしれない。何か動画などで配信を行っていても、それは幾つかの電波を介して私自身に伝わるわけだから、ほんの数秒の差が生まれている。だから、こんな経験は他にないわけで、誰でもおいそれと体験できない。こんな経験はプラスにするような気持ちでいた方が絶対いいはずだ。きっと。

 

めぐ「ごめんね。私、放送部に行かなくちゃ」

果南(ルビィ)「うん。いってらっしゃい」

脚を紐で結び肩を組む男女や女子同士が、ぎこちなく駆けている。ルビィの応援席から椅子を三つ挟んでコースがある。本当に近い場所。花丸ちゃんもぴゅんと、簡単に一位を取り、ぴょんぴょん跳ねて喜んでいた。脚の紐はまだ解いてはいないから、一緒に組んでいた小木君が慌てている。花丸ちゃんは、ルビィの視線に気がついてピースを出した。子どもぽくて普段と違う花丸ちゃんは、すっごく女の子で、特別感を与えてくれる。

ダイヤ「まるちゃん。本当に嬉しそう」

果南(ルビィ)「わぁっ」

ダイヤ「果南。そんなに驚かれると、私も傷つくわ」

果南(ルビィ)「ごめんなさい、お姉ちゃん」

ダイヤ「お姉ちゃん?」

果南(ルビィ)「あ、いや、違う違う。慌てちゃって」

ダイヤ「もう……逆に私が申し訳なくなってしまうから」

果南(ルビィ)「あはは……」

十勝君とルビィが出発した。丁寧に足並みを揃えて、いや、ルビィに引っ張られる様に、十勝君が脚を合わせている。あれはゆっくりとゴールだけを目指した走り方ではなく、一位を取るための動きだ。

ダイヤ「ルビィったら、ずいぶん頑張っていて。やっぱりーー」

その先が上手く聞き取れなかったのは、ゴールの歓声に混じってしまったお姉ちゃんの淀みのない声のせいだと思いたい。はっきりと聞き取れなくて、何故だか歓声がいつの間にか遠くに聞こえていて、息が上がっている。脚の重たい感覚と、少し汗のかいた背中に風が吹く。ドクンドクンと肺が動いている。ルビィはいつの間にか立っていて

十勝「合わせるのが大変だったよ」

そんな声を聞いた。

ルビィ「え?」

十勝「フラストレーションがたまってたのはわかるけど」

不服そうに十勝君が言った。脚が動くと砂利の音が鳴った。片方は縛られていた。

ルビィ「えっと……ルビィは走り終えたの?」

十勝「ん? そうだけど」

手をグーパーと開いたり閉じたりすると、短い指が汗を持っていた。不思議そうな十勝君を見てみると、顔の位置がいつもより高い。いや、昔からの目線のような気がしてくる。

ルビィ「あ、あぁ、戻った。戻ったんだ」

鉄砲がパンッと、次のレースの開始を促した。ルビィは十勝君と一緒に一位の列に並び、他のレースを見て待つ。脚の紐を解いて、体育座りをして、ルビィはまだ自分の指を見ていた。他の人たちはみんな、レースの勝敗を見届けるため、巣から顔を出す雛のように首を伸ばしていた。

十勝「今は、果南じゃないってこと、でいいの?」

十勝君もまた、ルビィと一緒に下を向いていた。よく見ると、砂はどれもこれも同じ形をしていなかった。ルビィはなにげなく男の子と一緒に、ただ下を向いてお話ししていた。

 

「とても速かったね」

と、お父さんがルビィの頭を撫でながら言った。それはよく貰っていたご褒美のようなもので、男の子と上手く会話ができないルビィにとって、極少ない一つの交流だった。お父さんは男の子の括りに含まれるのかどうかはよくわからなかったけど。

ダイヤ「ルビィ」

お姉ちゃんはルビィに話した。

ダイヤ「母が貴女の部活動での活動を、認めると言ったわ。良かったわね」

唐突にお姉ちゃんが言ったことを、すぐさま飲み込むことができなくて、ルビィは沈黙してしまった。

ダイヤ「あら、もっと喜ぶものかと思っていたけど」

ルビィ「あ、うん。嬉しい。嬉しいよ!」

ルビィが知らない間に、何か約束が取り交わされていて、それが今、守られたのだろうか。果南ちゃんはこのことを知っていたのかな。知っていたのだとしたら、教えてくれなかったのは何故だろう。

「もう私は行くよ。ルビィ。頑張ったね」

お父さんが小さく手を振って離れて行くのを、ルビィはぼんやりと見ていた。頑張った……らしい。身に覚えのない約束と、実際に頑張っていたのは果南ちゃんと十勝君で、ルビィは何もしていない。今回のお母さんからの承諾も、何もしていないにも関わらず、得てしまった。天からの贈り物と喜ぶ以前のルビィが、残像のように目の前をはしゃぐ。お姉ちゃんに頭を撫でられながら、ルビィはその残像を、目を瞑って振り払った。

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