ラブライブサンシャイン 〜if 男子がいたら〜 作:カーテンと手袋
読み手側の許容範囲とは目に見える数値として表せるものではない。水のような掴みどころのない姿をしたまま基準を持つ、難しい生き物だと思う。そのさじ加減が人間関係のようでもあり、料理を作るときの配分のようでもあり、精密な振る舞いと寛容な感性の必要性をしみじみと感じさせる。それは物語の奥深さにコクを潜める為のスパイスであるかのよう。
「廃校なのに?」
自転車で駆け上がる勾配が強い坂も脚を使うのなら話は別で、一度坂の下で体勢を整えてから、全力ダッシュで駆け上がる。背中に背負った鞄が揺れて少しうざったい。はぁはぁと出る空気はまだ白く染まり、揺れて消える。その量も以前より減っている。スタミナが上がったのか。成果が目に現れて分かる嬉しさが心地いい。雲のない空の下で一歩二歩とリズムを整える。見上げてみると、まだ続く坂道と青い空が妙にマッチして目玉のキャンパスを彩る。まだまだあるな。今日はやけに大きく感じる空に向かって、何気なくぼやいた。あいつに負けない為にも、もっともっと速くなりたい。そして、幼馴染みとの勝負を思い出しながら、また駆け足で坂を登った。
木製のドアは甲高い音を出しながら横へとスライドする。
「おっ早い」
待っていたかのようなタイミングだった。開けた瞬間に声が聞こえたので、毎日ドアを凝視して開く瞬間に発声しているのかと思ったが、辺りを見渡すと誰もいないことに気づく。なるほど。納得ができた。
「まだ来てないのか」
「いつもこんぐらい」
時計を見ると、普段よりもーーまだ登校三日目だがーー三十分程早い。
「早すぎたかな」
席に移動をしていく。持っていたビニールが中の蜜柑とすれて、シャリジャリと音を出した。
「本当に走って来たの?」
自分の机に鞄を置く。ビニール袋から蜜柑を取り出して渡した。
「なかなかハードだった」
席につく時に「挑戦者じゃん」と笑いながら驚かれた。それは沼さんが蜜柑の果皮を剥き始めようとした時であった。
「転校生が来るって話らしいよ」
開口一番、教室に入ってくるや否や眼鏡の上級生ーー歳は離れていても幼馴染みだけどーーが、昨日のおかずを話す感覚で話し始めた。
「東京さんなんだってよ。東京さん」
「東京産?」
沼さんは蜜柑の果肉につく白い繊維状の組織を、ある程度まで取り除きながら質問した。
「そう。しかも高二」
「京六里と同じか」
自分も蜜柑の果皮を剥き、果肉を口にする。当たったのは酸っぱさが残るものだった。
「美味い。ありがとう」
どうやら沼さんのは甘いものだったらしい。それが分かるのは、昔から甘い食べ物が好きだと知っていたからだ。
「これで平等な人数のバスケが出来るね。体育の授業で」
「ゴールは一つでも足りそう」
食べ終わった蜜柑を、教室の隅に置かれたゴミ箱へしっかりと捨てに行く沼さんは、少し皮肉めいた回答をした後「ありがとう」とこちらに礼をした。
「おぅ」
あまり言われ慣れていないもんだから、喉の奥で籠ったままだった空気達が、辛うじて脱出した結果、不器用な返事となった。後ろに向きを変えていた自分は前へと方向を転換する。あぁ、今日は日直だったと何気なく気づいた時、また教室と廊下を隔てるドアがなだらかにスライドした。