ラブライブサンシャイン 〜if 男子がいたら〜 作:カーテンと手袋
「姿無き汝は幻想のやうに」
沼津駅に着くと、曜は元気よく挨拶をしてバスを飛び出した。車体が揺れた気がして地震なんて考えがよぎった。こんなご時世とこんな時に、だから私は、とりあえずぼんやりと意識に霧をかけた。すぐに運転手の「ご乗車いただきありがとうございました」と言う言葉で現実に引き戻されたけれど。でも、混濁と鈍い思考の中で、その元気に付き合わされた鞄が激しく揺れていたのを確認していた。曜の背中に背負われた鞄は、まるで嫌がるようにその体を震わせ、スタンションポールに激突した。どうやら曜はあまり気にしていないらしい。私のことを何度も呼びながらその場で足踏みをしている、まるで腿上げ体操のように。しかも、手招きまでもして、私はとても催促されているんだと理解した。ふーん。あっそ。だからこそ「今行くわよ」って少し気怠そうに呟いた。別に、後輩に懐かれて嬉しいわけじゃない。
沢村「さわさわってさ。下品な名前でしょ? 昔からそう呼ばれてて。でもさ、不思議と親友に呼ばれるのは悪くないっていうかね」
店舗の裏口は小さな駐車場に繋がっていて、そこは従業員の憩いの場とまでは言えない程の質素な休憩スペースがあった。雨に打たれて錆びてしまったのか、ギシギシと音を立てるパイプ椅子はバランスも悪い。私と沢村さんはそれに座っていた。
沢村「いつの間にか好き……とまでは言わないか、気に食わなくはなったかな。ほんと、不思議なもんだよねー」
私は「あぁ、そうなんですね」と相槌を入れた。未だに間合いを掴みきれていない。そもそも、すぐに引き篭もる性質を持つ私が、人間界の姉御ポジションのような人とうまく話せるわけないでしょ。曜は曜でどっか行っちゃうし。こんな時に限って、厨二病は役に立たないし。
沢村「アイドルねー 曜が水泳辞めてアイドルになりたいって言った時は、目玉が飛び出しそうになったよ」
善子「あはは、そあですよね」
若干、甘噛みをしながら精一杯愛想を振りまいた。沢村さんはポケットからタバコの箱を取り出し、中身を一本取り出す前に「あぁそっか」と言ってポケットに閉まった。その行為だけで、なんとなく優しい人なんだなと感じた。びっくりするぐらい単純な自分。
曜が駆け足で戻ってくる。両手に小さなビニール袋を持ち、それを振ってしまっているから中身の生存が気掛かりだ。お釣りを沢村さんに渡し、曜はビニールの中身を配り出した。「はい、善子ちゃん」と渡されたペットボトルには炭酸飲料と記載があった。絶対ダメじゃないのよ。とりあえず「ありがとう」と言い、沢村さんにも「ご馳走様です」と伝えた。簡単に「ん」と相槌をして、沢村さんはペットボトルの蓋を開けた。プシュッと起爆。中身が泡となって飛び出し指を濡らした。
沢村「あーあ、曜、お前なー」
曜「ごめんごめん!」
そんな光景に思わず吹き出してしまって、それを見た二人も笑った。
沢村「めんどくさいけど、頼みっていうのもあるし、お金はいつか払ってくれればいいよ」
しばらく経ち、落ち着いた後、沢村さんはそう言った。
曜「それってもしかして!」
沢村「いいよ。衣装の委託、沢村クリーニング店が受け負った。だけど、細かい微調整はそっちでやってね。こう見えて、細かい作業は嫌いなんだ」