ラブライブサンシャイン 〜if 男子がいたら〜 作:カーテンと手袋
「貴女達が最後の新入生と言うのも、面白いと思うのよ。この町の、この学院のね」
「おはようございます」凛とした印象を受けた彼女は、本校の生徒会長に就き、同じクラスの級友だと名乗った。私も急いで名前を伝えようと慌ててしまい、氏名で舌がつまづいた。そのまま階段を転げ落ちるみたいに、言葉が詰まって何も言えなくなってしまう。
「ふふふ。落ち着いて」
笑みに現れる品が私を追い込んでいく。
「あ……ごっごめんなさい。本当に。ごめんなさい」
変に思われないようにしなくちゃ。失敗なんてしてしまったら。それが転校先でどれだけの不遇を招くか。想像しただけでまぶたに涙が滲む。どうして私なんかが転校なんて……
「深呼吸をしましょう」
彼女はそう言って、私の頬を撫でる。左手でちょんちょんと頬を叩き、深呼吸を促す。頭が絡まって思考が正常ではなくなった私は、されるがままに殆ど彼女に頼るような形で、大きく肺を動かした。落ち着いて、落ち着いて。数回、胸が上下する。
「ありがとうございます……少し楽になりました」
「自信を持って」
職員室へと続く廊下で、遠くの方から聞こえる在校生同士の挨拶が最終警告を鳴らしていたかのように思えた私は、彼女の一言に何らかの救いを求めていた。
「素敵な笑顔をお持ちなんだから」
触れられていた頬が染まる。いとも簡単に言って退ける様に、思わずドキッとして優しい気持ちが心の隅っこから溢れ出した。
王室に置かれていそうな椅子やルネッサンス時代のソファ、振り子時計に動物の剥製。浅薄な知識で西洋をイメージしていた私は、その部屋に入室した時、悪い意味ではなく拍子抜けした。印象を、先入観をだいぶ走らせてしまったと少し反省する。理事長が扱う部屋を見たことがないから、これもイメージになってしまうけど、事務作業をする上で必要最低限の家具と歴代の長達の肖像画、そして趣味で集めただろう雑貨がテーブルに置かれているだけだった。
「ようこそ、いらっしゃい」
理事長が奥の部屋から体を出した。手にはお盆を持ち、ガラス製のティーポットとカップが二つ乗せられていた。
「紅茶はお好き?」
室内を漂うリンゴのほのかな香り。緊張が今だけは遠くへ出掛けていて、入念に作られただろうティーの香りを鼻の奥に住まわせたい。そう思わせるほど、質素なインテリアと理事長の有する穏和な佇まいが、私を平穏へと導いてくれていた。
「疲れたでしょう、坂は急で。それにこんな遠くまで……さぁさぁ。お座り」
手招かれた先へ私は歩き、理事長が用意してくれた小柄な椅子に座る。口に流れたアップルティーは心地よい静寂の中で、優雅に舌の上を踊っていた。
「私はフローカル。校長兼理事長。みんなからはシスターなんて呼ばれているわ」
「修道女(シスター)ですか」
「ええ。母がシスターだったのよ」
その言い方だと貴女はと、思っていると理事長は続けて言った。
「私はただのお年寄りよ。この学院のね」