ラブライブサンシャイン 〜if 男子がいたら〜   作:カーテンと手袋

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鈍い感覚と遅い間隔。

 

「手の受け皿から溢れる水滴を、ただ数える人になってしまって」

 

アポロ13号が月面に着陸した時、まだまるは生まれていません。紫式部が生きていた時やエジプトの壁画が描かれた時にも、まだまるは生まれていません。もしかしたら天国があって、そこでのんびりと暮らしていたまるは、魂の順番を待っていたのかもしれません。えいやよいさと、ひたむきに農作業や遊牧をして、下界の情報をテレビみたいなもので確認しながらみかんを食べていたのかも。もうすぐなのかなぁ。どういうところなのかなぁなんて想像をしながら。あ、でも、もしかしたら、輪廻転生の方で、猪だったり鹿だったりしていたのかもしれないずら。

 

縁側で空想に浸っていると、お婆ちゃんの声が微かに聞こえました。よっこらせとうつった口癖を一つ。朝食が準備され始めた席にお母さんが座って、のんびりとテレビを観ています。

「まる、おはよう」

「あ、いつ帰ってたの?」

「昨日の深夜。今日でも良かったんだけど、やっぱりここが落ち着くから、急いで帰って来たの」

営業職に就いているお母さんは静岡市を拠点に働いているため、社宅を借りて住んでいます。月に数回を目安に、繁忙期は少なくなっちゃうけど家に戻って来ます。出来るだけ会いに来てくれる心持ちに、まるは哀しさを感じなくなりました。初めは寂しくて意固地になって、突っかかったりもしたけど、今は、大人はいろんな事があるんだって何となくわかります。まるはさりげなくお母さんの横に座って寄りかかったりします。

「なぁに。もう……お婆ちゃんが呼んでたわよ」

「あっ、そうずら」

まるはお母さんの肩にもたれたまま呟きました。

「今度のお休みの日、美術館でも行きましょうか。静岡のあそこに」

お母さんは頭を撫でながら言いました。

「嬉しいな。あ、でも土曜日はみんなでお勉強するから……日曜日は大丈夫?」

「当たり前でしょ」

まるは立ち上がって「楽しみにしてるね!」と言い、お婆ちゃんの下へ向かいました。身体が運動したみたいに温かくてポカポカ日光浴のせいかなと思いました。

 

 

「急に思い出してねぇ。まるに渡さなくちゃいけなくてねぇ」

自室はどこも覚えているようでした。視力が弱っていても何も感じさせない動きです。よっこらせと寄り掛かりながら、箪笥の右下の段から重箱のような漆塗りの四角形を取り出しました。

「これって?」

お婆ちゃんはゆっくりと蓋を開け、包まれた何かを取り出します。箱の内側も綺麗に塗装されていました。

「御守りずら。代々使用している首飾りだよ」

まるはお豆腐を素手で受け取るみたいに、そっと両手で包みました。

「きれい……」

「持ってても持っていなくても、返しても返さなくてもいい。ただ、まるの番が来たってことずら」

「まるの番……?」

お婆ちゃんはゆっくりと立ち上がって朝食の準備に取り掛かる様子です。そろそろと歩く背中をぼんやりと眺めながら、まるはもう一度首飾りに目を向けました。綺麗だなぁなんて思い、首元に宛てがったりしました。ほんの少し、大人になっちゃったかも。

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