ラブライブサンシャイン 〜if 男子がいたら〜 作:カーテンと手袋
「指で心をなぞって」
適当な短パンとティシャツのまま、私は絵でも描くようにペンを握った。夢のお告げを、また作詞という作業においてスルスルとペンを紙の上で滑らせる行為を、まるで画家が筆を運ぶのに似ていると偉そうに言ってしまうのは、それと同質の力が働いていると感じたからだった。
空白の輪郭はどこにあるのだろう。たおやかで掴みどころのないアイデアを、両手で掴もうと頭の中を探る。感触は確かにある気がした。何度も見かけ、何度も聴いて、何度も触ったような……これは子どもの頃の記憶と重なる。「きっと美しい、これだ」と思ってノートに書き出すと、不思議なことにキラキラは消えてしまっていて、黒い線が不規則に並んでいるだけの貧相な欠片になってしまう。私は何を素晴らしいと思ったのだろう。そしてまた、ぼんやりとしたアイデアを探る旅。3回目の冒険はきっかけを掴めるだろうか。それは堂々巡りとして私の頭を悩ませていた。
スポーツドリンクかお粥を用意してくれたのかなと志満ねぇに返事をすると、ここでは見慣れない姿にドギマギした。十勝君は軽く挨拶をすると、私の質問に答えた。いつも通りがいとも簡単にさ熟せる。それはきっとここが私の部屋で、アウェイじゃないからだ。こんな風に視線を合わせて、遊ぶみたいに戯れ付ける。でもちょっとだけペンを持つ手が震えていた。空いた左手を太腿に乗せ安心を欲しがるも、上手くいかない策だった。
千歌「見過ぎ」
志満ねぇは戻ってしまった。なんだか本当に焦ってしまって軟球の言葉を投げつける。
十勝「うるさいなぁ」
恥ずかしそうに苦笑いをしてこちらを振り向く。私はどうなんだろう。人のふり見て我がふり直せ。襟がだるそうに伸びたティシャツや簡単な短パンと崩れた胡座、さっきまでベットと頭に挟まっていた髪は完璧じゃなくとも偏ってはいないか。
十勝「これ、頼まれたんだよ。課題とか小テストの日程とか」
千歌「えぇー! こっちは必死な思いをして風邪と闘ってたのに、それはないよー!」
途端に羞恥心が芽生えた。そこに用事を畳み掛けてくる十勝君。プリントと私の姿とそもそも私の部屋にいる友達。ぐるぐるにパンクしそうな頭は熱を持つ。あれ、私はまだ風邪をひいているのかもしれない。
半分以上は聞き取れていないプリントの事情を終えると、十勝君はすぐに帰ろうとした。
千歌「どこいくの? せっかく来たんだから、お話ししよーよ」
こんな状況で帰らせてしまうことは、私にとって今後不利な事態になってしまうかもしれない。まるで強迫観念のように、私は私を取り戻す為に孤軍奮闘するのだった。
千歌「ねーねー 東京ってどんな所だった?」
十勝「またかよ、会う度に聞いてない?」
部活や体育祭の行事、学業、家庭、友人と遊ぶ時間を大事にすると、私と十勝君は友人であるかも怪しいところだった。でもそれが普通で些細な関係だった。
千歌「そんなことないよぉ。探究心探究心」
十勝「ビルが凄いくらいだよ」
千歌「えー前も聞いたよ? 他には? 他のみんなにはもっといっぱい答えてたじゃん!」
体育祭や体育の授業で一緒の時、やっぱり東京は珍しいに所属して同級生の子達が十勝君を質問攻めにしているのを何度か見かけた。
千歌「やっぱりモテモテだもんね〜」
十勝「違うよ、東京が珍しいだけ」
その時は、私は鼻が高く胸も張りあたかも自分の友達が褒められて嬉しいって感覚だった。けど、今は……ううん。その時もなんとなくは。
千歌「あーあぁ……ちかが最初に十勝君を見つけたのになー」
あれって思う頃には口を滑らせた先で私は転んでいる。でも何故か起きあがろうとはしなくて、気怠いままじっと十勝君の瞳を見据えようとしていた。
十勝「……拗ねてんの?」
千歌「ちょっとだけ」
十勝「バカが」
千歌「バカって言う方がバカなんだー」
軽くあしらわれる。あくびを押し殺して湿る目はぼんやりとしかピントを合わさない。私は一度立ち上がってみて、ベットに腰を下ろした。
千歌「ねぇ……十勝君にとって、東京はどんな感じだった?」
そして海老のぬいぐるみを抱えてもう一度、しつこいけど聞いてみる。
十勝「正直、これといった特別な体験なんてしてない。勉強して学校に行って、誰かを好きになって、部活をやって、友達と遊んで、疲れて寝る。そんな日常だったよ」
千歌「じゃあ、内浦は……?」
十勝「……綺麗なところだと思った」
千歌「どんなところが?」
モヤッとする感覚が一つ増えてしまったまま、私はいつも通りを頭の中で演じる。身体はほんのりと熱くてだるい。
十勝「空も海もあそこの富士山だってブルーになるんだもんな。それに……人がいいのかも。いつかテレビで言ってた気がする。水が良いと人が良いって。内浦の人って水みたいに透明なんだよ」
へたれた花の茎みたいに、私はお尻からお腹へと力を抜きベットに横たわった。言い終える間際に視線が重なった事が、私の身体を揺るがした。そのまま見ていられなくなって、ベットに体を預けた体勢になっている。
千歌「あくあ……」
ぬいぐるみを強く抱擁する。その余った力がベットを軋ませた。ギシギシと部屋を反響する。
千歌「……新しい、私達のグループの名前……スクールアイドルの……」
ポカンとした十勝君に説明をする。殆ど機能しないこの頭の中で、懸命に言葉を選びながら。
千歌「どうかな……?」
十勝「良いんじゃない、それで」
もう学ランは暑そうにシャツのボタンは適度に外し、中のティシャツが差し色として露わになっている。十勝君も暑さを感じているのか腕まくりを始めた。適度に焼けた、少し褐色に近づいた肌はまるで海の色。この部屋は確かに暑いね。
千歌「ふふ……夢のお告げ」
私はいつもみたいに笑えた気がした。それに伴って睡魔が波のように押し寄せた。瞼も閉店を告げ、身体の力もマイナスへと傾いていく。おでこを一粒、汗が垂れた。その間私は十勝君をずっと見ていた。今にも掠れていく視界の中で十勝君は顔を逸らした。朦朧とする意識の中で安心したことがあった。ポリポリと頭をかく姿がフレームアウトしていく。
なんだ……十勝君も恥ずかしがってるんじゃん。