ラブライブサンシャイン 〜if 男子がいたら〜 作:カーテンと手袋
「希望を捨てた門の先で本当に小さな幻想を懐く。赦されぬ事であろうとも、私の心には芽吹かずとも種が生まれ、私の掌には光が産まれる。後一つ、罪を知る時、ここはようやく水で満たされる」
珍しく私は、熱弁する教師の話を聞かずに意識を傾けていた。前方の席で頬杖をつきながら、明らかに授業以外のメモを取る善子に気を取られていたから。ふと授業はどこまで進んだかと振り返り、まだ大丈夫そうねと彼女を見る。そんなマルチタスクを、もう4時間目まで続けていた。私はいつから不真面目になったのかしら。トントンとペンで机を軽く叩き、教科書に目を通す。案外向いているのかもしれない。片耳でテスト範囲を受け入れ、右手でノートに記し、視線は善子と黒板を繰り返し、まるで鏡みたいに善子に擬態する。あ、私。授業中に初めて、頬杖付いている。背中が丸まっていた。そう、"考える人"の気持ち、こんな風なのね。今度は爪で頬を叩きながら、ペンを動かした。
ダイヤ「昨日の件ですが」
善子が言っていた話。本当なのかしら。
善子「本当よ……信じてもらえるか、分からないけど」
いつもなら……彼女の喜劇を便乗して、などと言うならば、それは何か上下の優しさか、親心の同情か、堕天使であるかどうかの詮索もなしに、まるで子供のおままごとに参加するような杞憂。とまで考え、ひとまず琴の弦をつねるように腕の皮膚をつねった。
ダイヤ「白代さんは、あまり信じては……」
善子「まぁ当然の反応よね」
何か重く気怠い様子な為「風邪? 熱?」と、彼女の体調を気遣った。これもまた彼女にとって、傷付ける余地を残していた。
ダイヤ「梨子さんですが……」
滑りの悪い渡しの口。最後まで言葉は出て行きそうにもない。やはり善子は、説明していた本を読んでいた。授業中にも。
善子「そうね。普通ね、いつも通りの、優しくて綺麗で儚い梨子……」
確かに。二人で桜内梨子の足跡を辿ると、御手洗いから戻り、先程までの授業内容とこれからの授業内容について、クラスメイトと会話をしていた。
善子「……どうやら、夜しか活動しないのではって話」
川に手頃な石を投げ込むような手軽さ、そして妥協と放棄。彼女のヒラヒラさせた掌はそんな意思に包まれていた。
ダイヤ「……」
私はひとまず、その様子を眺めていた。行動を終えると着席し背中だけが現れた。そこを読み取る感受性は虚しくもなく、訂正をすれば私はただ、眺めていることしか出来なかった。呆然と立ち尽くす、果たして彼女を置き去りにしてしまうのか。ひとまず工夫。私は私ではないという空想を衣にし、羽織る姿で、静謐な僧を宿した。私は主のように。
ダイヤ「"地獄の門"に伺いたいって、たしか。沼宮さんが車を出してくれるらしいわ」
振り向きながら善子は言った。
善子「悪くない?」
ダイヤ「まぁ、黒澤家との仲ですから。それに、トルクメニスタンではないんでしょう?」
善子「あんた、怖いわねぇ。権力者が板についたのかしら」
半身になりながら、またヒラヒラと手を振る。
ダイヤ「嫌でも身につくものね」
善子「とくに、ジョークを挟む所とかも」
今度はその手の指で私を差した。
ダイヤ「手配は任せて頂ければ、後は指定の場所に向かえば」
善子「……申し訳ないけど、頼むわ。あんまり無理強いしないでね」
この優しい気遣いが堕天使なんて。私はなんだか可笑しくなり、衣を脱いだ。もうその必要もあまりない。
ダイヤ「ふふ、家なんて関係ないから。私が頭を下げて、友人としてお願いするだけよ」