ラブライブサンシャイン 〜if 男子がいたら〜 作:カーテンと手袋
「限りなく中心に近づく天使」
沼宮「本当に雨だよ、こりゃあ」
申し訳ない気持ちがあるかのような小粒の雨が、フロントガラスを叩く。斑から敷き詰められ透明に色を変えていくと、ワイパーがゼロに戻す作業を始める。お互いの動作が密接に関わっているのだろう。片方がガラスを埋め尽くす前に切り替わる。ちょうど良い塩梅。いや、雨を持たせないワイパーの圧勝だろうか。私は後部座席で横になりながら、微かに見える視界を頼りに空想した。
善子「松原はどうだったの?」
本当は、もう既に限界の手前辺りまで迫っていたけれど、楽な体勢を続ける自分の不甲斐なさの現れが、私に質問を与えた。
沼宮「被ってた。帽子みたいな雲」
善子「それは残念ね」
残念な吐き気が、喉まで駆け上がる。
沼宮「まぁ、富士山ってどんな姿でも綺麗だからね、それがいつもとは違う角度で見られたから良しとするよ」
脳に信号を送った。もう無理ね。私は「ちょっと失礼するわ」と言って目を閉じた。
秩序整然とした室内は混沌と閑散。入り混じる人と魔の気配が密室を夥しく占領した。通り過ぎない体積の滞り。梨子は自室の窓から外へ降り立った。それはまるで、天使が人の前に姿を現す時の堂々たる、不穏な、又は白日で甘美な歩み。一つ目を瞑った後、薄く笑い、やがてふわっと消えた。
ダイヤ「あ……私、」
猪首のように素っ頓狂な声をあげ、立ち止まった。白代は立ち止まるダイヤに続いた。
ダイヤ「忘れ物したみたい」
白代「珍しいね」
精査。鞄にはないらしい。ダイヤは決まった場所に物を置き、物をしまう。一箇所を確認すれば、それがないことを知り、また、別の箇所を、二箇所目の探す行為が見られれば、白代もダイヤの異変を察知することができた。
ダイヤ「……そうだわ。それ使って」
白代に預けられた傘は、その手の感触を忘れることはできないまま後を去ろうとしている。
白代「いや、雨は止みそうにないけど」
ダイヤ「もう遅いわ、だから」
白代「そう言われたら、断る理由がなくなっちゃうよ」
ダイヤ「いや、いいのよ。私も雨に打たれるのは嫌いじゃないから」
白代「……それじゃあ、僕も雨に打たれようかな、理由は同じくだから」
ダイヤ「貴方も頑固ね」
二人は一度傘を畳み方向転換した後、翌日も学校があるという陳腐な理由を言い訳にして、もう一度傘を差した。
私が目覚めたのは、ガンガンと鳴る耳鳴りと思うような豪快な爆音が、半永久的に続いていくと感じたからだった。その声の主は私の名前を呼び続ける。混濁した意識が覚醒へと向かうと、スッと水が流れ込むみたいに納得した。梨子が動いた。人を模した姿で夜の闇に紛れている。私は横になりながら運転手に行き先を伝える。急を添えて。
白代「ここで待ってようかな。靴履き替えるの手間だから」
ダイヤ「じゃあ、私とってくるわね」