ラブライブサンシャイン 〜if 男子がいたら〜   作:カーテンと手袋

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交差

「私は誰の為に魔法を学んだの?」

 

小さい時からなんて言う出だしで語り出すと、暗い話を聞かされるのかって身構えてしまって、正直苦手。だから私は初登場したキャラクターとか危機に瀕したキャラクターとかもあまりいい思い入れがない。だってそれって、読者に感情移入させるために導入しているテコみたいで、裏側が透けていると言うか、気苦労を与えられているみたい。過去が広げられて、別に誰かに話すわけじゃないのに、第三者の私達には見破られてしまう奇妙さ。何よりも災厄なのは、取って付けた様なおどろおどろしい悲惨が、その人達を蝕んでいること。だから、手頃な不幸を振り撒く作品の在り方が何よりも気に入らなかった。小さい時を語る時、常に不幸な話ばかりを持ち込むのが気に入らなかった。だから私が危機に瀕した時とまでとはいかないけど、例えば過去を思い出す時、良いことばかりを語ってやろうって思ってやった。でも、案外不思議なもので、最初に思い出すのが、ちょっぴり暗いこと。あんなに嫌がっていたキャラクターの一部始終。私の記憶システムも、単純なほど、当たり障りのない暗い話を始める。人ってみんなそうなんだって言ったら元も子もないけど、私はそっち側じゃないと語りながら、そっち側のことを語りだす惨めで身近な人。堕天使に成りそびれた小さな人。

 

善子「正直焦ってたんだけど」

沼宮「まぁ、内心はヒヤヒヤ」

善子「マジ?……やっちゃったわね」

白代さんは、内心、とんでもなく取り乱すんじゃないかと思っていた。だって二人は私がダイヤと出会うよりも前から知り合いだったし、それに。

善子「意気揚々と、まるでヒーロー気取りで駆けつけてみたんだけど、余裕なんてなかった。笑っちゃうわね」

運転手は、夜の闇を手短に照らすライトを頼りに南へと進んでいく。たまに虫が導かれては離れたり、虚しくもフロントガラスにぶつかって潰れる。その光景を嫌そうに、運転手は眉を顰めた。

善子「間に合ったけど、結果は間に合ってないみたいなもん」

沼宮「まぁ、そうだけど」

善子「……私、こういうときなんて声かけたらいいか、よく分かんないの」

沼宮「俺もしらねぇ」

善子「もう。ちょっとだけ聞いてよ」

父親は物心ついた頃には病死していた。

最悪な始まり方。でも私の真実だから。

善子「小さい頃から……まぁ堕天使だとか変な趣味だとかは持っていたけど、それは趣味の範囲だし、私は、ちゃんと人に迷惑ってあんまりかけたことないのよね。ほら、意外と私って真面目だから」

変な方向性の暗黒魔法とか錬金術とか占いとか、歳を重ねるたびに道具は増えていった。今思えば、幼少期特有の、ううん。アニメにありそうな、父親の蘇生。そんなこと考えたことなんてなかったけど、無意識の断層で、私はそう思っていたのかもしれない。

善子「ダイヤとは……仲良いと思ってる。それに、あんたも白代さんも。それに、他の男子のメンツは、あんま話したことないけど、まぁ嫌いじゃない……スクールアイドルのみんなは、すき。クラスのみんなも悪い人じゃないし、ほんとは、うん。中学も小学校も幼稚園も、記憶で思っているほど、口で言うほど黒歴史、じゃないと思う。ただ私が。うん、怖がる前の予防線を引いてただけ……簡単にすり抜けちゃうなんて、悪あがきして」

人っていうのは心身が摩耗すると、手っ取り早い温もりを欲する。わたし淋しかったのね。こんなにペラペラと話して、一つだけ歳上の先輩に、自分の父親の理想像を重ねている。もしも生きていたら、なんて、助手席に座る私は、ないものねだりをしている。チラッと盗み見ると、太い二の腕と焼けた肌。漁師の息子か。ちょっとだけ老けて見えるのも、あ、これは言えないけど、まぁ全部言えないけど。

善子「あんまり怒らないのね」

沼宮「正直、まだこの現象に脳みそが追い付いてないから、ショートしてる。これが終わって、数ヶ月後とか何年後か、もしかしたらぶり返して急に怒りとか色々湧いてくるかも」

善子「参ったわね。私だって記憶は薄れていくのに。だったらいま、数倍の規模で怒られたほうがマシなんだけど」

私は頭をシートに預けて上を向く。ぽつりぽつりと話していくと、喉が動いている感覚が微かにあった。

沼宮「そろそろ大瀬崎に着く」

海は真っ暗で、対面の民家の明かりと、海に浮かぶ漁船の灯りと灯台のあかりが小さく映っている。

善子「入れるかしら」

沼宮「俺は何も見てない」

ドアを開けて外の様子を見た。

善子「ありがとね」

蚊がブンブンと飛んでいる。

善子「ねぇ、声とか掛けてくれないの? 頑張れとか」

沼宮「かけないかけない。フラグみたいだし」

ちょっと疲れ気味でハンドルに体重をかけている姿は、遊園地に連れていかれる父親みたいだなと私は気楽になって、少し笑った。

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