ラブライブサンシャイン 〜if 男子がいたら〜 作:カーテンと手袋
「花束も宝石も贈る人が居てこそ」
これは数ヶ月前にも同様に行われているようだったが、些か差異があった。
善子「ダイヤ、居る?」
トントンと襖を叩くのも奇妙であるが、気を遣った発声では届いていないらしく、しんとした静かさに鼓膜が満たされた。
善子「ま、いっか」
再度繰り返す前に、きっと寝ているからねと善子は決めつけ、襖を開けた。
ぼんやりとした隅で、布団が擦れる音がした。本当に気がついたのは今なんだと核心した後、畳の縁を踏まないように下を警戒しながら進む。
善子「逆になるなんてね」
ダイヤ「……部屋にあげるつもりはなかったのよ」
こちらを見つめていたダイヤに、すかさず言葉を発した。睨む力強さがあるのなら、その反骨精神を見上げ、もう健康に近付いてきているのだと、善子は勝手に思った。
善子「ルビィよ、もう数日経っているし、誰かと会ったほうがいいって。なんだが我が強くなったじゃない。あんたに似てきてる」
ダイヤ「……そう」
善子「御家族の許可は得ているから。あの朗らかなお父さんに。まぁ、お家に上げてもらった時点で、あんたの部屋、勝手に入ろうと思ってたけどね」
ダイヤは「そうなのね」と静かに呟いた後、天井を眺めていた。恐らく和柄であろう掛け布団から顔だけを出している。マスクで表情を隠されるような得体の知れない不安定が、善子の気持ちを揺さぶった。
ダイヤ「善子は、キス……したことはある?」
開いた口が塞がらない。善子はムンクの叫びに似た絶望と期待と不安に苛まれたが、一瞬に幾つもの感情を与えられた結果、結局のところ、驚嘆だけが前面に押し出された。
善子「ないけど」
ダイヤ「私……したわ」
善子「え、は、え」
ダイヤ「だからちょっと、体調を崩して嬉しいの」
整理整頓。順序も分からず、ダイヤの発言もすっ飛んだまま、がらんどうになった思考にピースを埋めていく。いつ、どこで、誰と、善子は必死に脳みそを回転させた。ギュルギュルと音が鳴り──それは後にお腹の音だと気がついたけど──目を閉じて深呼吸をする。開始早々に話される内容としては手順が必要そうな気もするが、二手三手と日常的な会話をしてしまえば、この奇手は打ちづらい。
善子「あれは、噛まれた事も……関係あるのよ。千歌や果南先輩も」
報われなかったの、辛いわね、なんて言葉を言って良いのか、そもそも、二人の関係性が綱渡りのような繊細な糸の上で成り立っている事を知っていた。だからこそ、会えない事を喜ぶ心境に、全ては落下してしまったと思われた。
ダイヤ「分かってる。私の意志ではないって。でも、奥底の気持ちは本当だし……私は、ずっと怖かったの。関係が壊れることが。はっきりさせたくなかったの。全部」
善子「そうね……」
今日のダイヤは私という主語をよく使う。
ダイヤ「会った時に、どんな顔をしたら良いか分からないわ」
難しい気持ちに善子はなった。
善子「怖いわよね。でも、多分だけど、白代さんもそうなんじゃないの?」
ダイヤ「……そうね。きっと、彼も私のことが好きよ。分かってる、全部わかってるの。ずっと一緒にいたから……お互いに、そんな事知っているのよ」
善子は不憫な関係だなと感じた。
思い合っていても一緒にいられないなんて。
ダイヤ「それでも、私ったら、風邪を引いたくらいで、理性のたががはずれちゃうのね」
それは違うと言い掛けた善子の喉元で、どうにか言って良いものか、迷いがストッパーになった。不安な人に何度も優しい言葉を掛け続ける行為が、逆に不安定な気持ちにさせるのではないかと危惧したからだった。
ダイヤ「環境が私を大人にさせたんだわ」
横臥、ごろん。奇妙な音。ダイヤの顔が善子からは見えなくなった。
か細くて繊細で、どうして貴方が抱きしめてあげないのよと、男性らしさを押し付ける文句が善子の頭をよぎった。自分の不甲斐なさやダイヤの弱さ、そして、まだ癒えぬ喪失によって、単純な怒りが湧き上がる。
しかし思考のブレーキ。
ヨハネやリリーに同じ事が言えただろうか。
ダイヤと白代さんの関係性に、善子自身、とやかく言おうと、結局のところ、社会一般的な括りに含まれる個の意見でしかないと思い、ただただ状況を上手く切り抜ける弁論の一つも出来ない自分に、嫌気がさした。
バス停が夕陽を背負う。
日焼け止めを再度塗る手間がめんどくさくなって、私は少々駆け足で待合室に寄る。まぁ、そう呼べる程の壁などなく、現刻の角度には完全敗北していて、もろに目がしょぼしょぼするけど。それに、オレンジの着色をしたみたいになっている。
誰かが置いたパイプ椅子に座ると、黄昏を口から吹き出したくなった。衣装の委託をした沢村さんが口に含んだタバコの煙を出すように。私は上を向いて目を閉じる。波の音と磯の香りがと思えば、少しだけ生臭い匂いもする。
今までと同じ世界の音。喧しさも質問もない、ありふれた生活音。呼吸をするような自然の音。誰の声も聞こえない。
「あー」
呟いては溶ける。小学生くらいの遊びが聞こえてくる。遠くの方から、僅かに。
なんだかダイヤの突拍子のない話題に気を取られてしまったから、私は驚きを抱えて出て来てしまった気がする。ちょっと嫌味みたいに聞こえるかもしれないけど、もう一つの問題を授かってしまったみたい。別にダイヤは悪くないし、何もかも、本が巻き起こした事で、遠い国の、作者の気持ちが湧き出てしまっただけで、ダイヤの気持ちも、強く湧き出てしまっただけで……
「なんでかしらね」
だからこそ、私も吐き出したかった。悲しみだとか喪失だとかを、ちょっとだけでも聞いて欲しかった。それを話せるのは、きっと少ないから。事情の分かる男子二人じゃなくて、女子同士で。なんだかすぐに話したかった。よくは分からない。分からないけど。だから、ダイヤの呟きに驚いたのと、少しだけ「なんで?」なんて思った。正直羨ましくて、「悩みを聞く方も疲れるのよ?」って。私自身もそうして貰いたかった癖に。一人になりたくなくて。甘えたかったのね。わたし。
「……寂しい……辛い」
目を閉じて、こころの目で見ても、何も見えない。約束も祈りもパッと羽が生えて飛んでいった。なんでわたし何も言えなかったの。
バスが着く。
「なんでよ……」
消さない、私消さない。消さないように、心の中で言葉にしていく。一生懸命に形にしていく。憧れみたいな堕天使を、刻むように。頭の中で言葉を詩にする。
プシューとドアが開く。
「出会えてよかったわ」
そう呟いて。私は乗車する。
今は嘘でも良いから。虚勢を張る。
タッチしてポンと鳴る。
わたしは泣いてなんてないけど、下を向く。
あなたもそう呟いて。
心の中で言葉を歌にしたい。
あぁ、なんだか……
「善子ちゃん! 先輩!!」
空気を切り裂く元気。
私が気持ちを下げる暇もないくらい、
喧しい大きな声。
曜は手をブンブン振っている。
それがなんだかくすぐったくて、
恥ずかしくって、
スカートをぎゅっと握った。
きっと今の私は、
頬が緩んでいるはず。
にへへなんて生意気な笑顔を浮かべながら。
なら、一旦、下を向くしかないじゃない。
こんな顔、見せられるわけないんだから。
ほんとに、
ちょっとくらい落ち込ませなさいよ。
第三部が完結致しました。
この最後の話を書くまで一年。
お待たせ致しました。(待ち人があるかは分かりませんが)
次は第四部なんですが、その間に、
虹ヶ咲や蓮ノ空、舞台まで、
ラブライブ!シリーズはどんどん大きくなっていき、
本当は色々なキャラをクロスオーバーしたかったのですが、
殆ど追えていないので、ちょっと難しいかなと感じています。
設定やキャラクター事の呼び方、どんな会話をしていたかなどを、今まで細かく、なるべく粗がないように努めていましたが、その結果、複雑になっていき、頭の中で把握することが難しくなり、このようなやる気の減少が起きてしまいました。
なので、大まかな流れとしてのストーリーをバンバンと描いていき、ある程度進んだ時に、細かな部分の修正などをしていった方が、投稿ペースを上げられるのではないかと考えました。
私は完璧主義に偏る傾向がありますが、
とりあえず自分自身が70点だと思う場所を目指す、
投稿にしていきたいと思います。
それでは、
長くなりましたが挨拶はこの辺で。