カルネ村へようこそ~来訪者~   作:NEW WINDのN

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来訪者はこの方です。
わかる人はわかっていたかと思いますが。






第2話

 

 そして、夜が明けた。

 

 陽の光が優しく窓から差し込み気温が徐々に上がり始める。どのような世界でも太陽は恵みだ。植物は太陽に向かって、陽の光を求めて伸びていき、やがて大輪の花を咲かせるものだ。

 朝だけに咲く花達はゆっくりと開いていく。それを待っていたかのように眠りについていた動物達も陽の光に反応して起き出す。そして一番鶏が鳴き、朝の訪れを村に告げた。

「カルネ村の朝だぞい」とでも言いたげにその鳴き声は村中に響いていく。

 

 

「う、うおっ!」

 ここで、ようやく昨日空から降ってきた男──当の本人はその事を知らないが──は目を覚ました。いや、気がついたというべきだろうか。

 

「どこだ·····」

 男は体を起こし、注意深く様子を探る。目で情報を探りながら手で体の様子を確かめる。

「なにが·····」

 ここが何処かはわからないが、部屋の中である事は間違いない。宿屋ではなく一般の住居の一室だろう。装飾や壁の造りなどから、大きな都市ではなく小さな街か村と思われた。

 装備品を身につけていない事は当然すぐにわかったし、それがベッドからやや離れた入口付近にある腰くらいの高さの棚の上に置いてある事を確認し、少し安心する。欠けているものはないようだ。

 体の方は、傷や痛みはない。不思議な事にいつもより軽く感じるほど体の調子はいいようだ。体の心配より先に装備を確認してしまうのは、彼がいかに奴らを警戒しているのかわかるだろう。

 

「何か来るな」

 彼は戦士でありながら探索能力に長けている。足音は一つ。歩幅と歩くペースからして、まず奴らではないが、いつでも動けるようにしておく。そう素早く武器を取れるように。

 

 やがてガチャっと音がして栗毛色の髪を三つ編みにした若い女が入ってきた。体を起こしている彼に気づくと廊下へ向かって声を上げた。

「ンフィー、目が覚めたみたいよー!」

 その声に素早く反応しドタドタと走ってくる足音が聞こえた。

「エンリ、目が覚めたって?」

 飛び込んで来たのは、金髪で顔の半分が隠れているが、人の良さそうな、やや華奢な印象を受ける少年だった。

 

「うん。空から降ってきた人、目が覚めたみたい」

「あ、本当だ。空から降ってきた人、気がついたんだね」

 この男女の会話で、彼は何となく状況を理解する。

(降って来た? 俺がか?)

 どうやら彼は、空から降ってきたという事らしい。だが、なぜそうなったかはわからない。彼の記憶は、仲間とゴブリン退治をしていた際に、不意を打たれて穴に落ちそうになった仲間の妖精弓手を庇って、入れ替わるようにその穴に落ちたというところで途切れているのだ。

 

「僕はンフィーレアと言います。それとこちらが僕の妻で」

「このカルネ村の村長で、エンリです」

 自分よりも歳若い少年少女かと思えば、実は若夫婦だったようだ。しかも女性の方が村長だというのは意表を突かれた。そして彼は、首を傾げた。何しろカルネ村という村に心当たりがないのだ。

 

「俺は、ゴ·····」

 まずは彼が名乗ろうと口を開きかけた時、驚くべき事が起きた。あってはならないことであり、彼が常に恐れていること。

「エンリの姐さん、ンフィーレアの兄さん、遅れてすみません!」

 流暢な言葉で挨拶をしながら、なんとゴブリンが三体ほど部屋に飛び込んできたのだ。

「ゴブリン!?」

 彼は素早い反応を見せた。ベッドから飛び下りると、素早く置いてあった剣と盾を掴み取り、ンフィーレアとエンリを庇うように身構えた。

 彼は人呼んで"ゴブリンスレイヤー"──ゴブリンを殺す者──もっとも本人も自分自身でそう名乗ってもいるのだが。

 辺境の街で冒険者となり、最下級モンスターとされるゴブリンのみを退治して、野良で最高峰となる銀等級にまで上り詰めた変わり種である。だが、その事をこの場にいる彼以外の者は知らない。

 

「下がれ!」

 彼はそう言って油断なく剣を向ける。鎧兜を着ていない以上、防御に関してはかなり心もとない。

(三体程度は相手に出来るかもしれないが、防具なしの上に守りながらは難しいかもしれん) この人の良さそうな若村長夫妻を守りながら戦うのは難しいだろう。それにこんな家中にまでゴブリンが出たのだ。この村の被害はかなりのものと思われた。

(なんだ·····様子がおかしいな·····それに見た事のないタイプだ。最初の奴はボブゴブリンか? いや違う気がする。後の二体はゴブリンシャーマンか? 雰囲気が違うが)

 入ってきたゴブリンは、彼の知るゴブリンとは違う。一体は歴戦の戦士という雰囲気を醸しだしていたし体もパンプアップされているが。背は高くない。彼の知る中だとボブゴブリンに近いが違う気がする。名付けるならゴブリン戦士(ファイター)だろうか。

 一体は羽扇を持ち髭を生やしている。頭が良さそうな印象がある。

(頭が良いゴブリンは危険すぎる。真っ先に殺るべきだが·····)

 背中を冷たい汗が流れる。ただ頭が良いだけではないと思われた。

(シャーマンというよりは、神官·····なんの冗談だ)

 最後の一体は何となくだが、神官のように思えた

(手強く、油断のならない相手·····いやそれ以上か?)

 彼はそう判断している。戦士や神官には勝てるかもしれないが、羽扇を持ったゴブリンの力は底知れない。いや、ハッキリ言えば勝てる気がしない。

 

「あのー大丈夫ですよ。このゴブリンさん達は人を襲ったりしませんから」

「この反応が普通なんだろうな。この人、もしかしたら魔導国の人じゃないのかもしれないよ、エンリ」

「あ、そうか。そうかもね」

「とにかく落ち着いて。ここはカルネ村と言って、人間とゴブリン、それにオーガやドワーフも一緒に暮らす平和な村ですよ」

 村長夫婦はそう言うが、人を襲わないゴブリンなど彼の常識にはない。

 彼の知る限りゴブリンは、人間を襲い男は殺し、女は犯し攫い孕ませ、仲間を産む孕み袋にし気まぐれに殺す。そんな存在であり、人と共存など有り得ない、有り得るはずがない。忌むべき存在だ。

 彼の視点から見れば、ゴブリンという種族は、大人から赤子に至るまで一体たりとも残さずに滅するべき存在である。

 

「エンリの姐さんや、兄さんの言う通りですぜ。·····お客人がいた場所では違うかもしれやせんが、このカルネ村·····そしてアインズ・ウール・ゴウン魔導国においてゴブリンが人を襲う事はないですぜ。そもそも俺らは姐さんの部下として生み出された存在ですし。まあ、お客人がエンリの姐さんやンフィーレアの兄さんに危害を加えるってんなら、勿論一切容赦はしませんけどね。ああ、言い忘れてやしたね。俺はジュゲムってもんです。エンリの姐さんの一の子分でさぁ」

 最後の"エンリの姐さんの一の子分"を強調し胸を張る。人間並に流暢な言葉であり、敵意は確かに感じられない。

(部下? 生み出した? どういう意味だ?)

 彼にはやはりこの状況が完全には理解が出来なかった。無理もないカルネ村はかなり異色の存在なのだから。

 

「ホッホッホ。まあ理解出来ないのも無理はありますまい。最近は理解する国や人が増えたとはいえ、ゴブリンが過去に人を襲っていたのは事実ではありますし。まあ、立場を変えれば人が彼らを襲うとも見えますが。ああ、私はゴブリン軍師と申します。エンリ将軍閣下に忠誠を誓っております。断言いたしましょう。少なくともこのカルネ村に貴方を襲うゴブリンはおりませんよ。ご安心めされよ」

 軍師と名乗るだけあり、高い知性を持つ事がこの会話からも感じられた。

 

(ゴブリン軍師!? 初めて聞く。エンリ将軍? この女性がゴブリンの指揮官なのか? 村長ではないのか? どういう事だ?)

 これは、あまりにも彼の常識とかけ離れた状況だった。

「傷の具合はどうですかな?」

 尋ねてきたのは神官のようなゴブリンだった。ゴブリン神官とは考えたくもない存在だ。

(まさか、ゴブリンが俺を?)

 戸惑いがさらに増すが、答えないわけにもいかないだろう。

「問題ない」

「それは重畳」

 なぜか軍師が代わりに満足そうに重々しく頷いている。治療をしてくれたのは神官と確信した。

「·····奇跡を使えるのか?」

 彼の仲間の女神官は〈小癒(ヒール)〉という奇跡·····魔法のようなものを使う事ができる。特徴としては一日の回数制限が数回と少ない事だろうか。

 

「奇跡? 位階魔法の事ですかな。将軍閣下の配下である我らなら当たり前の事です」

 軍師の様子を見るに本当の事なのだろう。それよりも先程から、ずっとゴブリンと穏やかに話をしている自分に内心笑ってしまう。

(そんな事があるのか。しかし彼等に敵意はない。ここは敵意を解きつつ警戒しておくか)

 彼は剣を下ろし鞘に戻した。

「すまなかった。治療有難く思う。世話をかけた」

「わかっていただければいいんですよ。冒険者の方にとってゴブリンは倒すべき相手ってのは知っていますし」

 ジュゲムは気にしていないようだ。その様子は人間味があり、まるで人と話しているかのようだった。どう見てもゴブリンのはずだが。

(それにしても出来たゴブリンだ。·····いや、本当にゴブリンなのか? 人が化けているとか? いや、ありえないか。それにしても位階魔法とはなんだ? 奇跡を知らないようだし、わけがわからん)

 サイズはゴブリンサイズであり、人が化けるとは思えない。それなら子供が化けていることになるが、明らかに話した感じは大人と思えた。

 

「ところで、お名前は?」

 村長であり将軍閣下であるらしい女性から尋ねられた。片方が名乗っているのだから、名乗らない訳にはいかない。

(いつもならゴブリンスレイヤーと名乗るところだが、どうすべきか)

 まさかそのまま名乗るわけにはいかないだろうが、もう長い事それで通している。

(ゴブリンスレイヤー·····かみきり丸·····小鬼殺し·····オルクボルグ·····)

 彼の仲間からの呼び名が浮かび、結論に至る。

「オルク·····オルク・ボルグだ」

 仲間の妖精弓手がそう呼んでいる。エルフ達の言葉でゴブリンスレイヤーの事を指すらしい。

「よろしくオルク・ボルグさん。ようこそカルネ村へ」

 村長は笑顔でそう言ってくれた。

「ああ」

 ぶっきらぼうにそう答えたオルク・ボルグことゴブリンスレイヤーは、ふと気になる事を聞いてみた。

「·····ゴブリンはどれくらいいるんだ?」

「5000人ちょいだったかなー」

 予想の超える衝撃的な答えだった。

 

 

 





※銀等級は、ゴブリンスレイヤーでの表記。オーバーロードでは銀級。
誤字ではないです。同じ冒険者でも作品が違うと、差があります。


実はゴブリンスレイヤーは、アニメ版のみ視聴。
原作は未読です。私の受けた印象を元に書いているので、違和感あったりしたら、まあそういう解釈だと思っていただければ。
オバロ世界ねカルネ村へのお客人なので御容赦ください。


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