ソードアート・オンライン ── 血盟の剣豪 ──   作:Syncable

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ノリと勢いで書きました。


アインクラッド
Prolog


<黒の剣士>と呼ばれたプレイヤーをご存知だろうか。

 

第一層から第五十層までの全てのボス戦に参加した、まさにトッププレイヤーだ。ビーターの蔑称を最初に受けたのも彼だ。

 

ユニークスキル持ちの最強騎士・ヒースクリフと比肩されるほどの剣士だったが、第五十層ボス戦終了直後に攻略組からの離脱を宣言した。理由は、攻略よりも大切なものが出来た、らしい。

 

当然、攻略組からの批判は凄まじいものだった。

攻略を放棄することは、ゲームクリアを待つプレイヤー全てを見捨てることになるからだ。それでも彼は意見を変えなかった。その強い意思に、かつての相棒だった<閃光>の少女は彼の離脱を承諾した。それでも反対する者もいたが、ヒースクリフも承諾したことにより完全に諦めたようだ。

 

彼については他人伝に聞いたことしかない。なにせ俺が攻略組になったのが今日で、彼と入れ替わるような形になったからだ。会ったことも遠目から見たことも無い。

 

でも俺は顔も知らない彼を恨めしく思っている。

いや、彼だけではない。ヒースクリフもだ。

 

何故かって?

 

遡ること約30分前だ。

血盟騎士団本部にて新入団員として紹介された時のこと。簡単な挨拶を終えてお開きになるかと思いきや、いきなりヒースクリフが爆弾発言をしたのだ。

 

「彼は私と同じくユニークスキルを所持している。キリト君と同等かそれ以上の実力者だと私は思う。改めて、期待しているよ《剣豪》サツキ君」

 

一瞬の間を空けて、

 

「「「「「ええええっっ!?」」」」」

 

本部中に驚きの声が響いたのは言うまでもない。

 

そこからは大変な騒ぎだった。

メンバー達に根掘り葉掘りユニークスキルのことを聞かれる始末。あまり広めたくないので適当に回答を濁して躱すのにかなりのエネルギーを使った。

 

なんとかメンバー達を撒いてヒースクリフの元へと辿り着くと、アイツは待ってたと言わんばかりの笑みを浮かべていた。

 

「・・・何のつもりだ?」

 

「なに、隠していても仕方ないだろう」

 

「本当の理由は何だ?」

 

「鋭いな・・・キリト君がいなくなり、攻略組の戦力は激減したと言っていい状況だ。これでは遅れが出てしまう」

 

「だから、黒の剣士の代わりを俺がやれと?」

 

「彼の代わりとなる存在が必要なのだよ。最前線を単独で踏破できる実力を持った者が」

 

「なるほどね・・・」

 

 

「言い忘れていたが、君は今まで通りにソロで攻略に励んでもらって構わない」

 

「それはありがたいけど・・・まさか」

 

「ユニークスキルを所持し、さらに私が実力を認めている。これで君のソロ攻略に反対する者はいないだろう?」

 

「全部アンタの思惑通りってわけか」

 

「その通りだ」

 

そう言ったアイツの顔は、RPGでラスボスと戦う前の子供のようだった。

 

 

 

 

 

 

 

♦️

 

 

 

 

 

 

 

「副団長として命じます。サツキくん、しばらく私とコンビを組みなさい」

 

「んぇ?」

 

これが彼女─血盟騎士団副団長《閃光》ことアスナとの初エンカウントだった。

 

団長室からこっそり抜け出して本部を去ろうとした俺は、待ち伏せしていた彼女に捕まったのだ。さっきまで俺を追い掛け回した団員たちがいなかったので油断していたのが運の尽き。副団長の申し出を断りつつ穏便に離脱を試みる。が、悲しいことにリアルでもSAO(ここ)でも副団長レベルの高スペック女性と話した経験がない俺には難易度が高過ぎた。

 

「えーと、団長から聞いてると思うけど・・・俺は基本的にソロで活動したいな〜って」

 

「それは承知しています。ですが副団長として、団員の能力はこの目で見て把握しておく必要があります」

 

「えぇ・・・わかりました」

 

抵抗しても無駄な気がしたのでとりあえず従おう。

 

「では明日の午前で。時間と場所は後で指定するのでフレンド登録だけ済ませましょう」

 

「え?いや、フレンドはちょっ─わかりました」

 

断ってはいけないと第六感が告げたのでおとなしくフレンド登録をする。

 

「ではまた明日。改めてよろしくお願いします、サツキくん」

 

「・・・はい。よろしくです」

 

こうして俺の攻略組生活が始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

<アスナside>

 

 

キリトくんの攻略組離脱。

 

戦力的に厳しいものだけど、それ以上に私は動揺した。自分が今までに感じたことの無い喪失感と孤独感に襲われたことに。

 

第一層からパートナーとして、二十五層からは攻略組の仲間として戦ってきた彼は戦力的にはもちろん、精神的にも大きな支えとなっていたと気付いた。

 

ようやくゲームの折り返し地点まで登り詰めたが、先日の五十層ボス戦では甚大な被害を出してしまった。

 

私の指揮のせいで死んだ人がいたのでは?

助けられた人もいたのでは?

もっと上手くやれたのでは?

死なずに済んだ人もいたのでは?・・・・・・・

 

そればかりが頭をよぎる。

 

そして追い打ちをかけるようなキリトくんの離脱。

 

戦力的に考えれば私は強い。でも心は未熟だ。他人の命を預かるなんて荷が重すぎる。壊れそうな時はいつもキリトくんに縋っていた。

 

もうダメだと思った。

 

だから本心とは真逆の、彼の離脱を承諾した。

 

攻略より大切なもの、それはつまり私よりも大切なものということだ。それならもう彼には縋れない。

 

私は近い内に死ぬ。

 

そんなことを考えながら参加した新入団員の歓迎式。

 

「彼は私と同じくユニークスキルを所持している。キリト君と同等かそれ以上の実力者だと私は思う。改めて、期待しているよ《剣豪》サツキ君」

 

理解し難いものだった。

 

団長はキリトくんを戦力としか見ていない。でも違う。私にとってキリトくんは特別な存在なのだ。もう伝えることは出来ないけれど、やっと自覚した。

 

許せなかった。軽々しく同等やそれ以上と言われるのが。

 

だから明日、証明する。

 

キリトくんを超える剣士なんていないことを。




不定期です。

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