ソードアート・オンライン ── 血盟の剣豪 ── 作:Syncable
「お願いだよ・・・あたしを独りにしないで・・・ピナ・・・」
静かに頬を伝った涙が、地面上の大きな羽根に弾けた。その淡い水色の羽根は、少女─シリカの友達でありパートナーであった使い魔・ピナが遺したものだ。ピナは危機に瀕したシリカを守り、モンスターの攻撃によって死んでしまった。
事の発端は数十分前に遡る。
パーティーメンバーとの些細ないざこざから単身、フィールドを駆けていたシリカだったが、そこは迷いの森と呼ばれる厄介な場所だった。地図を持っていなかった彼女は闇雲に走り回り出口を探したが見つからず、じりじりポーションとHPだけが減っていった。焦りと恐怖からミスが目立ち始め、ついに死が目前に迫った時、ピナが彼女を守った。
激昴し、我を忘れてソードスキルを無茶苦茶に繰り出し、ピナを殺した敵に向かった。敵の攻撃など無視して突っ込み、自身のHPなど気にもとめなかった。死への恐怖はとうに消えていた。
デスゲーム開始以降初めて、HPバーが真っ赤に染まっていることに気付いたのは、助けに入ってくれた見知らぬ男性プレイヤーから回復ポーションを手渡された時だった。
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<サツキside>
ボス戦が終わり久々の休日。
暇つぶしと素材集めを兼ねてアルゴのお使いをこなしに下層へと来ていた俺は、二体の猿モンスターに囲まれていた少女を見つけた。彼女のHPが赤表示になっていて危険だと判断した俺は"ホリゾンタル"で二体をまとめて消し飛ばして助太刀したが、どうやら間に合わなかったらしい。
「ごめんな、もっと早く来ていれば・・・」
遺された羽根を抱えて涙を流す少女に謝る。彼女は小さく首を横に振った。
「いえ・・・あたしが悪いんです。ありがとうございました、危ないところを助けていただいて」
「あ、うん・・・」
会話が途切れる。
膨大な数のソードスキルは瞬時に出てくるのに、こんな時にかけるべき気の利いた一言が出てこない。俺は自分の対人スキルの低さにがっかりしつつ、どうにか言葉を絞り出す。諦めるのはまだ早い。
「えっと、その羽根にアイテム名ってある?」
「アイテム名、ですか・・・」
少女が羽根に触れて確認し、震える声で言う。
「《ピナの心》・・・」
途端にじわっと涙が溢れ、俺は慌てて続ける。
「あぁ泣かないで!アイテム名があるなら蘇生できるよ!」
「え!?」
「えーと、四十七層に咲く花が使い魔蘇生アイテムなんだよ。実際に蘇生させた人もい──」
「ほ、ほんとですか!?」
俺が言い終わらないうちに少女は腰を浮かせて叫んだ。その瞳にわずかに希望が宿っているが、すぐに肩を落とした。
「・・・四十七層ですか・・・」
おそらくレベル的に厳しいのだろう。装備から中層プレイヤーであることは予想できる。あそこのモンスターは植物系が多いので俺は苦手なのだが、致し方ない。
「えーと、一緒に行こうか?」
「え?」
疑問符を浮かべた少女に続ける。
「俺の使ってないやつを代用すれば装備は大丈夫だと思う。四十七層くらいなら俺だけでも問題はないと──」
「あ、あの!」
少女に遮られる。ますます分からないと言った様子だ。
「どうして、そこまでしてくれるんですか?」
もっともな意見だ。友人でもない見知らぬ人からの突然の誘いを怪しまない人はいないだろう。
「あー・・・蘇生可能なのは三日以内なんだよ。それを過ぎるとアイテム名が形見になって、蘇生ができなくなるんだ。だから急いだ方がいい」
「そうなんですか・・・じゃあ、お願いします!あたしはシリカっていいます」
「俺はサツキね。よろしく、シリカさん」
「呼び捨てで良いですよ、サツキさん」
「そ、そう?じゃあシリカも呼び捨てで良いよ」
「いえ、あたしはダメです」
「なんで!?」
こうしてビーストテイマーの少女との臨時パーティーが結成された。
さくさく行きます。