ソードアート・オンライン ── 血盟の剣豪 ──   作:Syncable

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原作通りにはいかない。


Ep.10 アウトラップ

♦️♦️♦️

 

 

『せいっ!』

 

気合いの掛け声とともに簡素な剣を振る。

淡い水色をおびた刀身が、駆け出そうとしていたイノシシの首を捉えた。直後、間抜けな断末魔を上げて爆散する。勝利の余韻に浸りながら表示された獲得アイテムと経験値を一瞥していた俺は、後ろから背中を叩かれてよろめいた。

 

『やるじゃん!初心者とは思えないセンスだよ!』

 

満々の笑みを浮かべた彼女に応える。

 

『教えるのが上手だからですよ』

 

『まぁね!』

 

堂々と胸を張る彼女と狩りを始めてすでに二時間近くが経過していた。根っからの初心者だった俺もだいぶ様になる戦闘ができるようになってきた頃だ。彼女自身の技術はもちろん、教え方が抜群に上手いおかげだろう。

 

夕日が沈む方角を指さして彼女は言った。

 

『さぁ!このまま次の村まで行っちゃおう!』

 

『ハイペース過ぎませんかね・・・』

 

誰かとゲームをするのは久しぶりだったけど、一人でやるより何倍も楽しく感じていた。

 

 

この瞬間までは。

 

 

『わわっ!何だ何だ!?』

 

『これは・・・!』

 

突然、俺たちの体を青い光が包み込んだ。初めての現象だったが、彼女が興奮気味に教えてくれた。

 

『これは転移だよ!光に包まれて次の瞬間には─』

 

言い終わらないうにちに視界が奪われ、気が付くと目の前には見覚えのある街並みが広がっていた。

 

『─別の場所に移動するんだ!』

 

彼女の説明は、正直頭に入って来なかった。理由はこの場所の状況にある。

 

ガヤガヤと喧騒が溢れるここは、はじまりの街の中央広場だ。ここには俺たち以外にも大勢のプレイヤーが転移して来ている。中には、早く出せ!と不満を吐いている者もいた。

 

『なんだろうねー?イベントかな?』

 

相変わらず呑気な彼女だが、俺はこの時、言う様の無い嫌な予感がしていた。

 

 

それから数分後。

 

デスゲームは幕を開けた。

 

 

 

 

♦️♦️♦️

 

 

 

 

<サツキside>

 

 

 

 

翌朝。

シリカと合流して軽く朝食を済ませてから、俺たちはフィールドに出た。延々と続く花畑の中を進み、時折沸いて来る植物系モンスターを相手にしながら目的地を目指す。最初はモンスターの気色悪い見た目に抵抗を感じていたシリカだったが、戦闘を重ねるごとに慣れていった様でエンカウントした瞬間に弱点に斬りかかるようになった。一刻も早く視界から消したいという強い意志を感じたのはおそらく気のせいだろう。

 

何度目かの戦闘を終えたところで、シリカが突然こんなことを言い出した。

 

「・・・サツキさんって、妹さんいますか?」

 

「んぇ?なんで?」

 

いきなりのことで間抜けな声が出てしまう。

 

「その、あたしへの接し方が慣れてるなって思ったので。なんかこう、お兄ちゃんみたいな感じがして・・・」

 

「あー、妹はいないけど・・・妹みたいな存在はいたんだ」

 

久しぶりに現実世界のことを思い出しながら続ける。

 

「俺の家の隣の子で、三つ下だったかな。小さい頃からよく遊んでたんだ。公園、遊園地、動物園、水族館とか色んな所に行ったし、家でゲームもたくさんやったなー・・・だから慣れてる、のかな?」

 

勉強やら部活やらで忙しくしている様で会えていなかったが、元気にしているだろうか。

 

「すっごい仲良しなんですね」

 

「まあ、悪くはなかったと思うよ」

 

シリカは納得とどこか嬉しそうな表情をしていた。真意は分からないが、それ以上は突っ込まずに花畑の進む。

 

蘇生アイテムがあるという丘はもうすぐだった。

 

 

 

♦️

 

 

<シリカside>

 

 

「ほら、あそこだよ」

 

サツキが示す方向は大きな岩がある丘だ。周りにモンスターがいないことを確認したシリカは、早まる気持ちを抑えられず走り出した。丘を駆け上がり何の変哲もない岩に辿り着く。だがそこには何も無かった。

 

「ない・・・ないよ!サツキさん!」

 

涙を堪えながら追いついたサツキに問う。彼は落ち着いた声で答えた。

 

「大丈夫だよ。ほら」

 

シリカが視線を岩に戻すと、何も無かった岩から光が伸び始めた。それは徐々に形を成し、一本の花が咲いた。

 

「サツキさん、これが・・・?」

 

「うん。蘇生アイテムだよ」

 

ゆっくり手をのばして掴み、優しく引き抜く。

 

「その花の雫を形見に使えばピナを蘇生できるよ。でもここは危険だから、街に戻ってから生き返らせてあげよう」

 

「はい!じゃあ戻りましょう」

 

来た道を引き返しながら、シリカは安堵と嬉しさで心を躍らせていた。もうすぐピナが生き返る、そう思うだけで生きる希望が湧いてくる。

 

来た時と同様にサツキの助けをもらいつつ順調に敵を倒して進み、街まであと半分ほどになった時、サツキがシリカの肩を掴み、歩みを止めさせた。

 

「サツキさん?」

 

シリカが問いかけるが、初めて見るサツキの険しい表情に口を閉じる。彼は視線を進行方向、小さな橋の近くの木に向かって声を発した。

 

「そこに隠れている奴、出てこいよ」

 

「え?」

 

その言葉の意味にシリカの理解が追い付く前に、木陰から一人のプレイヤーが姿を現した。

 

「ロ、ロザリアさん!?どうして・・・」

 

シリカの問いに答えることなく、ロザリアは意外そうな声で言った。

 

「私の隠蔽スキルを見破るなんて、なかなか高い索敵ね。侮ってたかしら?」

 

シリカは嫌な予感を感じていた。そしてそれが確信に変わる。

 

「じゃあ、蘇生アイテム─プネウマの花、早速渡してもらおうかしら?」

 

「な、何を言ってるんですか・・・!?」

 

ロザリアはニタニタと嫌らしい笑みを浮かべる。

 

「プネウマの花って今が旬なのよねぇ。結構な高値で─」

 

「悪いけど」

 

ロザリアを遮ってサツキが前に出る。

 

「渡すわけにはいかないな・・・犯罪ギルド・タイタンズハンドさんのリーダーさん」

 

ロザリアの顔から笑みが消えた。同時にシリカは驚愕に見舞われる。

 

「犯罪ギルドって・・・でも、ロザリアさんはグリーン・・・」

 

「全員がオレンジってわけじゃないんだ。グリーンの仲間が獲物を見繕い、圏外におびき寄せて襲う・・・一週間前にもこの方法で小規模ギルドを襲ったよな?」

 

「ええ、あんまり美味しい連中じゃなかったけど。よく知ってるのね?」

 

クスクスと笑うロザリアにシリカは背筋がゾッとした。

 

「じゃあ、あたしとパーティーを組んでいたのも・・・」

 

「そうよ?たんまりアイテムを溜め込んで美味しくなるのを待ってたの。でも途中で抜けちゃうからどうしようかと思ってたけど・・・たった二人でレアアイテムを取りに行くって、これはもう襲ってくださいって言ってるようなものでしょ?」

 

シリカは体の震えを抑えられなかった。もし、サツキと出会っていなければ今頃──そう考えるだけで恐ろしかった。

 

「でも、そこまで分かっててホイホイ付いて来るなんて。どんな手でたらしこまれたのかしら?」

 

「なっ!?」

 

その言い様に怒りが込み上げた。ぎりぎりのところで短剣にのびそうになった手を止めてロザリアを睨みつける。それを制してサツキが変わらない落ち着いた声で言った。

 

「いや、俺もアンタを探してたんだ」

 

「へぇ?」

 

「アンタらが一週間前に襲ったギルドの生き残りが仇討ちを依頼してきたんだ。と言っても、殺しじゃない。牢獄に入れてくれってな」

 

その言葉にわずかな怒りが込められているのをシリカは感じた。

 

「なるほど、正義の味方ごっこってわけね。でもそれならもっと人数を増やした方が良かったわね?」

 

「俺一人で充分だよ」

 

「フフッ、威勢がいいわねぇ・・・遊びは終わりよ。大人しく花を渡せば楽に死なせてあげる」

 

ロザリアがパンッと手を叩く。仲間への合図だろう。

 

「サツキさん・・・!」

 

「大丈夫。俺から離れないで」

 

サツキが背中の片手剣を握る。

ロザリアはサツキが攻略組であると知らないからか余裕の笑みを浮かべている。

 

 

張り詰めた空気の中。

ロザリアのさらに後方の木から人影が現れた。

 

ゆっくりと歩いて来るソレ(・・)の違和感に気付いたのは日の下まで出て来た時だった。

 

 

ソレ(・・)は武器を持っていなかった。

 

鎧の類も身に付けていない。ボロボロのシャツとズボン、靴は履いていない。

 

一見、完全な丸腰に見えるがソレ(・・)が放つ気配は尋常じゃないものだった。

 

 

「な、なんだいアンタ!?」

 

ロザリアが動揺を見せたことから、ソレ(・・)が仲間ではないことが分かる。

 

誰もがソレ(・・)に対応出来ずにいた。

 

場を動かしたのはソレ(・・)だった。

 

 

「お前で九人目だ」

 

悦びを抑えられない様子で言い、ソレ(・・)はロザリアを指さした。その顔が狂気の笑みを刻み、そしてソレ(・・)は消えた。

 

「──え」

 

瞬間。

 

 

ロザリアの首が宙を舞った。

 

 

「は──」

 

最期の言葉を言い終わることなくロザリアは頭を、体を爆散させた。

 

シリカが初めて目にするプレイヤーの"死"だった。

 

呆気ない、物の消失と何ら変わらないその現象が人の死だとはとても思えなかった。

 

ロザリアだったポリゴン片が消え、残ったのは右拳を振り切った体勢のソレ(・・)だけだ。ソレ(・・)が、シリカには視認できなかった一撃でロザリアを殺したのだとようやく理解した。

 

途端、シリカの体を恐怖が支配した。

 

今目の前にいるのは人の命を何の抵抗もなく奪えるPKプレイヤーだ。それもおそらくかなりの手練。昨日の迷いの森での出来事が霞むほど死に近い状況と言える。

 

サツキに助けを求めようにも、声を発することもソレ(・・)から目を離すことも出来ない。

 

 

ゆっくりと右拳を下げたソレ(・・)がシリカを見る。目が合ったシリカは息をするのも忘れて体が硬直した。

 

 

「次は・・・お前だ」

 

ソレ(・・)が消える。視認できない。

 

 

 

──嫌だ・・・死にたくない・・・

 

 

 

 

シリカの眼前で真紅の輝きが一閃した。

 

 




オリジナル展開は書いてて楽しい。

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