ソードアート・オンライン ── 血盟の剣豪 ──   作:Syncable

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お久しぶりです。

言い訳しません。なので聞いてください。


遅れてすみませんでしたぁ!!




Ep.12 黒衣の剣士

<シリカside>

 

 

「だれか、誰か助けてください!」

 

五十層主街区・アルゲートの転移門前広場でシリカは叫んだ。その悲痛な叫びに通行人が何事かと歩みを止める。が、誰一人としてシリカに近付く者はいなかった。関心興味はあるが、巻き込まれたくないという本心が如実に表れている。それでもシリカは構わず続けた。

 

「あたしの仲間が、一人でPKと戦っています!このままじゃ殺されちゃいます、誰か助けてください!お願いします!」

 

PK、という単語にざわつきが強くなる。モンスター相手の救援はこれまでにもあったが、PK相手は例がない。深刻な状況であることは伝わったが、誰もがどうしたら良いのか分からずにいた。

 

 

一人を除いては。

 

 

「俺が行くよ」

 

声を上げたのは、全身黒ずくめの少年だった。

 

「あ、あなたは」

 

「俺はキリト。君は?」

 

「シリカです・・・キリトさんお願いします、助けてください!」

 

「うん、必ず助けるよ。場所はどこ?」

 

「四十七層の思い出の丘・・・小さな川に架かった橋のところです!」

 

「わかった。他に仲間は・・・君はギルドに所属してる?」

 

「あたしは所属してません・・・でも残った仲間は血盟騎士団の人です!」

 

「・・・血盟騎士団」

 

その名にキリトは戸惑った様な反応を見せた。が、すぐに表情を切り替えてシリカに優しく言った。

 

「よし、俺はすぐに救援に向かう。シリカは三十九層にあるKoBの本部に行って増援を頼んで来てくれ。俺の名前を言えばイタズラだとは思われないはずだ」

 

「わ、わかりました」

 

「じゃ、また後で」

 

そう言ってキリトは、姿が霞むほどの速度で走り去って行った。

 

 

 

 

 

 

 

<サツキside>

 

側方から迫る渾身の一撃を上体を反らしてギリギリ躱し、勢いそのままに花畑を転げ回り距離を取る。すかさず起き上がり後方へ大きく跳躍すると、空ぶったカグマの拳が花畑を抉った。花びらが無惨に宙を舞う。

 

「オイオイどうしたぁ!剣豪さんよォ!!」

 

「ッ!」

 

すっかり元通りになった拳を振るうカグマが挑発じみた声を発する。だがそれに応える余裕はなかった。ディメンションを振り切り、三度拳を切り落としてそのまま間合いを開ける。だがカグマは拳の欠損が治らないまま距離を詰めてくる。

 

「ウラァッ!!」

 

「チッ!」

 

絶え間なく放たれる連撃を弾き、躱し、斬る。終わりの見えない攻防に俺は徐々に焦りを募らせた。このままでは異常な回復力を有するカグマには勝てない。ジリ貧だ。

 

「なめ、るなぁ!」

 

俺は状況を打開するため、賭けに出た。

 

「ヴッ!?」

 

迫る拳を無視し、単発技”ホリゾンタル”でカグマの頸を狙う。カグマの攻撃を防ぐのではなく、ダメージ覚悟で攻めに転じたのだ。結果、カグマの左拳は俺の鳩尾に、俺の剣はカグマの頸を深く―と言っても斬り落とすまでではないが―抉った。

 

派手なダメージエフェクトを撒き散らし、互いのHPは3割ほど減少した。だがそこで終わらない。

 

「シッ!」

 

「はぁっ!」

 

気合いの声とともに再び攻撃。

四連撃技”ホリゾンタル・スクエア”の描く軌跡が、カグマの身体を削る。同時に、俺の心臓(クリティカル)をカグマの右腕が貫いた。吐き気がする程の不快な神経ショックとともにHPが急速に減少する。

 

「ッ!ああああ!!」

 

絶叫して地を蹴り、後ろへ大きく跳躍してカグマの腕を胸から抜き取る。さらにガクッとHPが減少し、ついに俺のHPバーは危険域を示す赤に染まった。

 

「逃がさねェ!」

 

カグマもまた大きく踏み込み距離を詰めてくる。突き出された片方の拳を反射的に斬り飛ばすが、もう一方を振りかぶっている。それに意識を集中させていたためか─

 

「やばっ・・・」

 

花畑エリア特有の柔らかい土に足を取られ、俺は不格好に尻もちをついた。咄嗟に視線を上に向けると、拳を振りかぶったカグマの顔は歓喜に歪んでいた。それだけでなく、その顔にわずかな失念と憐れも俺は感じた。

 

この世界でここまで死に近付いたのは3回目だ。我ながら多い方だと思うが、今までと違ってまだ俺は諦めていなかった。ギリギリで躱せばまだ反撃の余地はあると。

 

再びカグマの拳に全意識を集中させる。

 

だが。

 

わずかな挙動も見逃さないとしてた俺の目に映ったのは、俺の後方から飛来した何かが、カグマの両眼に直撃する光景だった。

 

 

 

<アスナside>

 

「アスナさん!」

 

後方から大声で呼ばれてアスナは振り向いた。

ギルドホームには人気はない。団員の半数以上は最前線の迷宮区に出払っているからだ。今日はオフだったアスナは、自室で久々の昼寝でもしようかと思っていたのだが、自分を呼ぶ声が緊迫していたので休日モードから頭を切り替えた。

 

「どうしたの、シュガーくん」

 

「大変です!今、中層の人が来て、仲間がPKに狙われてるって!自分だけ逃げて来たけど、助けてほしいって言ってて・・・」

 

「PK?」

 

訝しげに呟いたアスナにシュガーは続ける。

 

「その人の仲間が、サツキさんなんです!今、サツキさんがPKと戦っているんです!」

 

「サツキくんが・・・?」

 

これにはアスナも驚いた。

その時、切羽詰まった様子のシュガーの背後から一人の少女が現れた。アスナを正面から見つめ、確かな決意を込めた声を発する。

 

「お願いします、助けてください!あたしのせいで・・・」

 

「・・・」

 

正直、アスナは一瞬だけこの少女こそがPKではないかと勘繰った。だが新興とは言え攻略組であるKoBをわざわざ狙うはずがない。なら、この少女の話は本当なのだろう。

 

「・・・わかりました。すぐに行きましょう」

 

腰に愛剣を装備しなおして、アスナは2人とともに四十七層へ向かった。

 

 

 

 

<サツキside>

 

 

カグマの両眼に飛来したのが投擲用のピックだと気付いたのは、貫通継続ダメージ特有の赤いエフェクトが飛散した時だった。SAOでは斬られたり刺されたりしても痛みは感じないが、突然視界を奪われたことでカグマは攻撃を止めて驚きの声を上げた。そこで我に返り、俺は地を蹴って大きく後退する。

 

「間一髪だったかな」

 

後ろからの声に振り返る。

俺は思わず目を見張った。

 

黒。

 

全身が黒で包まれた剣士がそこに立っていた。意図せず口が動く。

 

「ク──」

 

「だぁぁっしゃあ!!」

 

言いかけた言葉は、カグマから迸った絶叫で掻き消された。派手なダメージエフェクトを撒き散らしながら両眼からピックを抜き取る。それらを投げ捨てた時、すでに両眼は回復していた。狂気に満ちた眼が俺を、次いで黒衣の剣士を捉える。

 

「・・・アイツは、何だ?」

 

「イカれたヤツ。見ての通りの異常な回復速度だ。さっきから斬り刻んでるけど全然倒せない」

 

「・・・無茶苦茶だ」

 

貴重な回復結晶を使ってHPを全快させ、俺と全く同じ感想を零した黒衣の剣士に礼を言う。

 

「でも助かった、さっきので死んだと思った」

 

「礼はシリカに言わないとな」

 

「なんでシリカを・・・ってそうか、助けを呼んでくれたんだな」

 

「そういうこと」

 

シリカの顔を思い浮かべつつ、俺は思考を加速させた。この黒衣の剣士は何者なのかと。

 

シリカから話を聞いて駆け付けたにしては、速い。

黒のロングコートは見た目のシンプルさに対して高性能を誇る存在感を醸し出している。背中の鞘から抜いた片手剣もなかなかの業物だ。さらに先程の投擲センスも素人ではない。

 

間違いなく俺と同じ、いやそれ以上の実力者。

 

そこまで辿り着いた時、カグマが口を開いた。

 

「いいなぁ、お前も強い。こんなに楽しいのは久しぶりだ・・・」

 

カッカッカッと笑うカグマは、俺たちに向き直ると再び拳を構えた。

 

「そんじゃあ、第2ラウンド始めるか!!」

 

三人が同時に地を蹴り、拳と刀身がぶつかり合う。

 

 

激戦の最中、舞う様な美しい剣戟を魅せる黒衣の剣士と、かつての想い人の姿が重なった気がした。




自分で納得できたものを皆さまにお見せしたいので気長にお待ち頂ければ幸いです。

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