ソードアート・オンライン ── 血盟の剣豪 ── 作:Syncable
落ち着いたので亀更新ですがお願いします!
<アスナside>
「こっちです!」
何度も躓きながらも懸命に走る少女──シリカの後を追う。四十七層は主に植物系モンスターが湧くので、その見た目が得意でないプレイヤーは余程の理由がない限りは訪れないだろう。かく言うアスナもその一人であるが、ギルドメンバーの危機となればアレこれ言っていられない。
「でも、妙じゃないですか?」
隣を走るシュガーが口を開いた。
「どういうこと?」
「PKが攻略組を狙うなんて、今までなかったじゃないですか。最初はシリカちゃん狙いだったみたいですけど、今度はサツキさんを狙うなんて・・・」
「攻略組だって分からなかったんじゃない?だって、ギルドの隊服着てないんだもん!」
子供っぽく反論したのは一番後ろを走るノノだ。アスナと同様にオフだった彼女も文句を言いながらも付いて来てくれた。
「ならもう決着はついてるってことですか?」
「多分ね。見た目の割に強いから、
「なるほど・・・あの、異端児ってなんですか」
「隊服着ない!ユニークスキル持ち!普通じゃないから異端児!」
「な、なるほど」
二人の会話を聞きながらアスナは考える。
ノノが言う通り、シリカ──中層プレイヤーを狙ったPKならサツキが遅れを取ることはない。だが、シリカの話で気になることがあった。
そのPKは、その場に居合わせた他の中層プレイヤーの頭を一撃で吹き飛ばして殺した。その攻撃はシリカに見えないほど速かったという。
頭を吹き飛ばすほどの一撃は、誰でも出せるものではない。大振りの武器で一発が強力なソードスキルをクリティカルヒットさせれば可能性はあるが、聞けばそのPKは素手だったらしい。素手での攻撃ならエクストラスキル<体術>によるものだと考えられるが、そんな一撃を出せるとは考え難い。
ほぼ即死と言っていい攻撃。これが本当なら無視はできない。
攻略組をも上回る高レベルプレイヤー。
または<神聖剣><剣豪>に次ぐ3つ目のユニークスキル持ちか。
様々な可能性を考えながら、アスナは走り続けた。
<キリトside>
──強い。
右側方から迫る拳を避けながらガラ空きの腹に一閃見舞う。しかし刻まれた赤い剣痕は、すぐに消えてなくなる。HPも減りはするものの即座に回復してしまう。
戦闘を開始した直後、いや正面から対峙した時から違和感を感じていた。それがようやく見えてくる。
さきの少年が言っていたように、異常な回復速度だ。ダメージを喰らったその瞬間から回復が始まり、部位欠損も5秒あれば完治している。
プレイヤーどころか、モンスターでさえ有り得ないほどの回復速度。異常だ。”不死身”という、か弱きプレイヤーに相応しくない単語が脳裏にチラつく。
「らぁっ!」
「シッ!」
そんなバケモノと単独で渡り合っていた少年もまた異質な存在だと気付いたのは、彼の戦いぶりを見た時だ。
主武装は俺と同じ片手剣。盾はなし。防具はKoBの象徴とも言える赤と白の騎士服ではなく、かなりの高性能品であると思われる黒と青のハーフコート。暗い銀髪に青い瞳。最近まで攻略組にいた俺だが、この少年を見た記憶はない。おそらく新人だろうが、それでは説明がつかないことがある。
歴戦の剣士、と形容したくなる美しくも強い少年の剣技は、俺が未だ到達できていない領域のものだった。戦闘に参加していなければ思わず見とれてしまうほどに。
そして、彼がただ者ではないと決定付けたのは──
「せぁっ!」
片手直剣カテゴリ三連撃技”シャープネイル”
曲刀カテゴリ二連撃技”ダブルムーン”
主武装と異なるカテゴリのソードスキルを使い、かつ硬直時間なしで技を連発していることだ。本来ならシステム的にありえない芸当だが、それを可能にしているということは、考えられるのは一つ。
「・・・ユニークスキル」
思わずこぼれた呟きは、胸の真ん中を”リニアー”で貫かれた不死者の絶叫に掻き消された。
<サツキside>
救援に来てくれた黒衣の剣士のおかげで何とか死を免れたが、まだ油断できる状況ではない。二対一になったとは言え、カグマの回復速度を超えるダメージを与えるのは困難だ。即席パーティーゆえに連携が不十分なのが主な理由だが、それを今言ってもどうしようもない。一人の時と比べれば格段に戦い易いのだからこれ以上に何を望もう。
「ハハハッ!良いなぁ、最高だぜお前ら!」
「こっちは最悪だよ、このバカが!さっさとくたばれ!」
二連撃技” オメガ・ポイント”、” ライテスネス”
両腕を肘から斬り落とし、動きが止まったその一瞬を黒衣の剣士は見逃さない。
「はぁっ!」
体術と片手直剣の合わせ技”メテオブレイク”の七連撃が、カグマを捉える。ガリガリとHPが減り始めるが、やはり圧倒的な回復量で無意味なものとなる。吹き飛んだカグマから距離を取った黒衣の剣士は、剣を握り直しながら言った。
「・・・作戦を変えよう」
「と、言うと?」
黒衣の剣士は一瞬だけチラッと視線を移動させた。その動きで視界に小さく表示されている時計を見たのがわかる。
「もう少しでKoBの援軍が駆け付けるはずだ。それまで時間を稼ぐことに集中しよう。今は無理に倒そうとしなくてもいい」
「でも、今倒さなきゃ他にも犠牲者が出る」
「俺たちがここで死ねば、ヤツの情報、ヤツに対抗できる実力者が減ることになる。その方が最悪だ」
「だが─」
「何をごちゃごちゃ言ってんだぁ!?」
「「ッ!」」
目にも留まらぬ連撃を、培った経験と直感を頼りに捌き躱す。二対一になってこちらが有利になったと思えば、攻撃の速度を上げて手数を増やしてきた。以前として苦しい状況は変わらない。
「何を企んだるかは知らねぇが、殺す気で来ねぇと俺には勝てねぇぞ!」
「分かってるって、の!」
片手直剣カテゴリ全方位技” セレーション・ウェーブ”で牽制、次いで曲刀カテゴリ四連撃技” ダルード・ルーネイト”。黒衣の剣士も俺の動きに合わせてソードスキルを発動させる。カグマの身体を削り、修復し、また削る。
「せあっ!」
黒衣の剣士の気合いの一閃。流麗な二連撃がカグマの両腕を肩から斬り落とした。
「今だ!」
黒衣の剣士が作った僅かな隙を逃さない。両腕の修復を待つカグマに接近する。俺に気付いたカグマは蹴りの構えを取った。それを見て俺はヤツに見舞う技を決める。
片手直剣カテゴリOSS”ファントム・レジェナント”
放たれた蹴りをスレスレで躱すと、途端に俺の体をオレンジ色のライトエフェクトが包み込んだ。全身に力が漲る感覚。
「おおおぉぉぉ!」
側方から一閃。初見の技に、すかさずカグマは修復した両腕で防ごうとした。それを容易く両断し、純白の刀身がカグマの頸を捉えた。
「そんな一撃で頸が斬れるとでも─」
その言葉は驚愕の表情とともに途絶えた。頸に斬り込んだ刀身が確かな勢いで進んでいるのだ。このままいけば斬り落とせる。
OSS”ファントム・レジェナント”は、敵の攻撃をシステムが判定できるコンマ単位のギリギリで回避することで一時的に自身を強化する。筋力値が強化されたことにより、剣を振る力が強くなったのでカグマの頸も力づくで斬り進めれるのだ。
「落ちろぉぉぉ!」
「クッソがぁぁぁ!!」
カグマが右脚を蹴り上げる。顎に向かってくるそれを無視して、俺は剣を斬り込ませ続けた。分かってたから。
「はぁっ!」
「んなっ!?」
黒衣の剣士が防いでくれると。
片脚を斬られ、バランスを保てなくなったカグマが倒れ始める。抵抗力がなくなり、倒れる勢いに乗せて剣を振る。
──斬れる!!
だが。
「ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙!!!」
「「!?」」
さきも聞いた、耳を劈く絶叫。それに気を取られ、反応が遅れた。
「がっ!?」
目が眩む衝撃。カグマの頭突きだ。予想外の攻撃に手が止まる。それをカグマが見逃すはずがなかった。修復した両腕で身体を支え、左脚で俺を蹴り上げる。鈍い不快感が腹からこみ上げてきて、剣を握る力が弱まった。そこに追撃の拳が正面から俺の顔面を捉えた。三度の衝撃。俺は為す術なく吹き飛ばされる。
「いっ・・・てぇ」
愛剣を握り直しながら起き上がると、俺の前で黒衣の剣士がカグマと対峙していた。
「悪い、仕留め損ねた」
「気にするな、それより回復しておけよ」
見ればHPは四割ほどまで減少している。ポーチから取り出したハイポーションを一気に飲み干して空き瓶を投げ捨てた。
「んー、そろそろ本当にヤバいな」
「ああ、勝てる気がしない」
「だよなぁ・・・」
修復を終えたカグマが近付いてくる。五メートルほどの距離を取って立ち止まったカグマは、嗤った。
「お前たちは、強い。俺が今まで殺してきた誰よりもな」
「そりゃどうも」
「もう少し遊んでみたかったが、流石にこれ以上の人数を相手にするのは骨が折れる」
「なに?」
援軍の件は悟られないように最小限の声量で話していた。バレるようなヘマはしていないはずだが、カグマはなぜか援軍が来るのを知っていた。
「なんで分かった?」
「教えない。次に会うまで考えておけよ」
黒衣の剣士が一歩前へ踏み出す。
「逃がすと思うか?」
「逃げるさ」
瞬間、カグマは拳を振り上げた。紫色のライトエフェクトが光り輝いている。反射的に剣を構えるが、エフェクトをまとった拳はそのまま真下に振り下ろされた。一撃だけで終わらず、何度も何度も放たれた攻撃で地面は抉られ、土埃が視界を遮る。
地面を揺らす衝撃が収まり、土埃が晴れて視界が開けたときには、カグマの姿はどこにもなかった。周囲を見回しても発見することは出来なかった。
「・・・逃がしたな」
「だな。はぁー!疲れたぁ!」
俺は今までの戦闘で荒れ果てた花畑に寝っ転がった。張っていた気が緩み、全身の力が抜けていく。黒衣の剣士も剣を背中の鞘に収めてからその場に座り込んだ。彼にはいろいろ言いたいことがあるが、今は久々に訪れた静寂に身を委ねたかった。
しばらくの間無言で風の声を聞いていたが、黒衣の剣士が口を開いた。
「アイツ・・・なんなんだろうな」
「普通のPKじゃないだろう・・・あの回復力は十中八九、ユニークスキルだろうな」
「ユニークスキル、か。君も持っているんだろう?」
「まーね。その話はゆっくりしよう、飯でも食べながら」
俺は立ち上がって死闘を共にした
「助けてもらったお礼に、奢るよ」
「・・・それじゃあ遠慮なく。さっきの戦い分だから覚悟しろよ?なんてな」
「望むところだ」
黒衣の剣士が立ち上がった時、ふと思い出して俺は言った。
「そういえば名乗ってなかったな」
「たしかに。てか名前も知らないやつに奢ろうとしたのか」
「命の恩人だからな」
「・・・それはこっちのセリフだよ」
なんのこっちゃと聞こうとしたが、やめた。
黒衣の剣士が驚いた表情で目を見開いていたからだ。その視線は俺の後ろに向いている。それを辿って俺も後ろを向くと、こちらに向かってくる人影が見えた。みるみる近付いてくるそれらの正体は、遠目からでも分かった。
「サツキさん!」
「サツキさーん!」
俺を呼ぶのは先頭を走るシリカと、彼女のすぐ後ろのシュガー。さらにその後ろには副団長とノノがいる。
「少数精鋭だなーって、他は迷宮区に行ってるのか」
「そっか、そういえば君はKoB所属だったね」
「新人だけどな」
肩をすくめながら言い、俺たちは四人と合流した。
副団長がやけに驚いた様子だったのが少しだけ気になった。
♦️
<アスナside>
案内されるままに着いた場所は、記憶に残っていた美しい花畑ではなかった。あちこちの地面が抉れ、花が無残に散っている。この惨状がプレイヤー同士の戦闘によるものだとはとても思えなかった。
すでに戦闘は終わっているようで、荒れ果てたその場の中心には二人の人影が見える。一人はサツキくん、そしてもう一人を確認した時に心臓が止まるかと思った。
「・・・キリトくん」
その呟きが聞こえたわけではないはずなのに、かつての相棒であり想い人である黒の少年はこちらを見た。目が合う。その夜空のような黒い瞳から、こちらの様子をうかがっているのが分かった。
言いたいこと、聞きたいことが山ほど頭に浮かんだ。数多の会話パターンが導き出されたが、実際に口から出たのは自分の心とは真反対のものだった。
「援軍、感謝します」
ひどく事務的で、無感情の一言。
自分自身に失望しながら、逃げるように去って行く彼をただ見つめることしか出来なかった。
しばらくオリジナル展開が続きます。
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