ソードアート・オンライン ── 血盟の剣豪 ── 作:Syncable
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『なんだか大変なことになったねー』
紅く染まった無限の大空から視線を外して呑気な声の方を向くと、外柵沿いに設置されたベンチに腰掛けた少女と目が合う。底のない深い闇のような瞳からは、一切の恐怖も怯えも戸惑いも後悔も疑念も感じられない。
数分前のデスゲーム開始チュートリアルについて、俺は彼女に問うた。
『・・・さっきの話、信じますか?』
一瞬だけきょとんとしてから、んーと考えて彼女は言った。
『今は信じることしかできないよ。本当に死んじゃうのかなんて、確かめようがないもん』
彼女らしい冷静で合理的な答えだった。
視線を戻して流れ行く雲を見つめながら再度問う。
『これからの予定は・・・このまま街の中で外からの助けを待ちますか?』
『んー・・・』
彼女にしては珍しく歯切れが悪かった。何かに悩んでいる様子の彼女にかける言葉が見つからず、しばらく静寂が続いた。
『私が・・・』
意を決したように話し始めた彼女の方を向く。彼女は外柵の外の大空へ視線を向けていた。
『街を出て、この世界を冒険したいって言ったら、君は一緒に来てくれる?』
『・・・』
すぐには答えられなかった。
彼女の質問の真意を見極めようと思考を加速させる。彼女がこちらを向いて視線が交差する。やはりその瞳からは何も感じられない。
数秒の思考では真意など分からなかったが、分かっていても答えは変わらなかっただろう。
『・・・街に残って助けを待つより、あなたについて行った方が楽しそうだし、生き残れそうな気がします』
彼女の目がわずかに見開かれる。
『そっか。じゃあ、よろしくね!』
『こちらこそ』
握手を交わして俺たちはパーティー、いやコンビを結成した。どちらともなく笑みがこぼれる。
『あっ!一つだけお願いがあるの』
『なんですか?』
『それ!敬語禁止!相棒なんだから』
『・・・わかった』
『それでよし!』
『んで相棒、これからどうする?』
『RPGの定番、レベル上げだよ!序盤はとりあえずレベルが高ければなんとかなるから、今日中に5にはしたいね』
『マジか』
『うん!でもその前に受けたいクエストあるから、ついて来て!』
一切の迷いなく歩き始めた彼女の後を追う。
陽はすでに沈みかけていた。
俺と彼女はこの日から約一年間、デスゲームという極限状態の中で目が眩むような日々を共に過ごし、死に別れた。
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<サツキside>
「いやぁ・・・嫌よ・・・やめて・・・」
恐怖に震えたか細い声が、冷え切った仮装の空気を揺らした。
かなりの間隔で壁に立てられた松明だけが光源のここは、目先2メートルすら容易に見渡せないほどの暗闇に包まれている。それでも、襲って来る敵の姿だけは、ありがたいことにはっきりと視認できる。
その理由は、至ってシンプルだ。
「オオオオオオオオ・・・」
不気味な気配、地の底から響くような声。咄嗟に振り向いた先に、ソレは立って、いや浮いていた。
白いワンピースみたいな服、背中まで伸びる長い髪、生者とは思えない白い肌、簡単に折れそうなほど細い首と腕。
アインクラッド広しと言えど、特定の層・エリアでしかお目にかかれないアストラル系モンスターである。この世界でも霊的な存在とされるこの系統のモンスターは、暗闇でもはっきり視認できるのだ。
幽霊のイメージをそのまま体現したソレは、俺の方を見ずに壁に迫って行く。その方向から、声にならない悲鳴を上げる気配がしたので、俺は音を立てないように愛剣を鞘から抜いた。
「せいっ!」
ゆらゆら揺れる亡者に四連撃技” バーチカル・スクエア”を見舞う。実体なき亡者を純白の刀身が捉え、斬り裂く。
幽霊に物理攻撃とはこれ如何に?と思うかもしれないが、SAOではちゃんとした設定がある。通常の武器では攻撃が透けてしまってダメージを与えられないが、街にある教会で自分の武器に聖属性を付与してもらうと、アストラル系モンスターにも攻撃が当たるようになる。一時間という制限があるが。元から聖属性が付与されている武器も存在していて、俺の愛剣・カタルシスもその一本だ。故に俺の斬撃は亡者を捉えることができる。
不気味な断末魔を響かせた亡者が爆散すると、壁際で頭を抱えて蹲る人影が一つ見えた。暗闇でも映える赤と白を基調とした騎士服に栗色のロングヘア。
「副団長──」
”攻略の鬼”と呼ばれる我がギルドのサブリーダーは、俺の呼び掛けに華奢なその体をビクリと震わせた。それからいくら待っても蹲ったまま動かない。初めて見る彼女の様子に俺は動揺を隠せなかった。
──え、なにこれ?どいうこと・・・?
呆然と立ち尽くす俺は、原因を探るためにこうなった経緯を振り返ることにした。
事の発端は数時間前、ギルドホームでの事だった。
「霊剣・レーヴァ=テイン?」
「はい!」
ここ数日、カグマに折られた
アルゲートの武器屋で見繕った片手剣を鞘に収めてその場に座り込み、詳しい話を聞くことにする。
「詳しく聞かせてくれ」
「はい!最近なんですけど、二十五層の迷宮区で新しい隠し通路が発見されたんです」
「迷宮区で?見落としがあったのか」
「いえ、どうやら見落としじゃないみたいです。最初に入った人は四十層でも戦えるレベルだったらしいんですが、隠し通路に出現するモンスターはもっと強かったみたいです。HPを真っ赤にしてなんとか逃げて来たとか」
「四十層クラスで手に負えないとなると・・・今の最前線くらいか?だったら、上層への到達が条件で解放されたエリアか」
「そうだと思います」
シュガーは俺の向かいに座ってさらに続ける。
「隠し通路が解放した日から
その剣の名は有名な魔剣として現実世界でも聞いたことがある。隠しダンジョンに隠されているとなれば、この世界でもかなりのスペックを誇るに違いない。それに─
「”頂ノ王”って・・・百層ボスのことか?」
「アインクラッドの頂って意味なら、そうなりますよね。もしかすると、百層ボス戦に必須な剣かもしれないですよ」
「なにその熱い展開」
確証はないが、なんともロマン溢れる展開だ。
「二人してなにやってんのー?」
子供っぽい声に振り返ると、休日だというのに律儀に隊服を着たノノが腰に手をあてて立っていた。さっそくダンジョン攻略のために人を集めようと考えていた俺はなんて良いタイミングかと、普段は全く信じていないシステムの神に感謝した。
すぐに俺はノノをこの話に引き込む妙案を思い付いた。それはシュガーも同じだったようで、お互いに目で合図して仕掛ける。
「おっす、ちょっと興味深い話を、な?」
「ええ、とっても面白い話を」
「・・・なによ?気になるじゃない」
そう言ってノノは俺たちの横に座った。
子供のような探究心の塊であるノノは、こんな感じで焦らせば高い確率で食い付いてくる。
「教えてもいいけど・・・協力してもらうぞ」
「なに、変なクエストじゃないでしょうね?」
「クエストじゃなくて未踏破ダンジョンだな。目標はそこに眠る霊剣・レーヴァ=テイン」
「・・・詳しく教えて」
彼女のこのノリの良さは嫌いじゃない。
俺とシュガーは嬉々として今までの話をした。
「・・・!」
記憶の振り返りがそこまで来た時、後方からアストラル系モンスター特有のポップ音が三つ聞こえた。反射的に剣の柄を握るが思い止まる。動けない副団長の近くで戦闘をするのは危険だ。レベル的に安全でも何が起こるか分からない。
「・・・少しだけ我慢してくれよ」
俺は羽織っていたハーフコートを蹲る副団長にそっと被せた。途端に副団長の姿が見えなくなる。ハーフコートの隠蔽ボーナスが発動したのだ。この暗闇の中では触れない限り分からないだろう。誤解されがちだが、アストラル系モンスターは見た目に反して視覚でプレイヤーを補足するので、意外なことに隠蔽スキルは有効だ。
「・・・すぐ戻るから」
俺は愛剣を抜いて三体の亡者に斬りかかった。
やっと「オリ主×アスナ」要素が出てきます。