ソードアート・オンライン ── 血盟の剣豪 ── 作:Syncable
<サツキside>
最後に覚えているのは、途方もない衝撃と急減少する自分のHPバー、叩き付けられた硬い石床の冷たさだ。
そして、亡霊王の一撃で気を失った俺が次に目覚めたのは、冷たく重い空気が満ちたボス部屋ではなく、暖かな陽光が差し込む花畑だった。
「・・・どうなってんだ・・・?」
一瞬、あのまま死んで天国に来てしまったかと思ったが、次に感じたのは既視感と懐かしさだった。
ここは、相棒に連れられてよく訪れていた思い出の場所だ。フラワーガーデンの別名を持つ四十七層と比べても遜色ないと俺は思っている。あるクエストで見つけた時に相棒が気に入ったらしく、昼寝やピクニックなどをしによく来ていた。
相棒が死んでからは一度も訪れていなかったが、相変わらずの和やかさと美しさにしばし沈黙した。
花畑の中央には樹齢何百年という大きな桜の木がある。俺はそこへ通じる小道を無意識に、いや、何かに引き寄せられるように歩き進めた。そこで初めて気が付いた。俺の手が、体が仄かな光をおびて透けていることに。
「・・・本当に、どうしちまったんだ」
混乱状態のままとりあえず歩いた。
そして、美しく咲き誇る桜の木の下で、俺は信じられないものを見た。
『・・・で、見事なまでの完敗だったわけだが、何か作戦は思い付いたのか?』
『もちろん!いい?君が蜂の巣にされてる間に私がボスの頸を取る、なんてどう?』
『俺の死を前提にするな』
木陰に並んで座り、くだらない冗談を言い合う二人は─もう一人の
♦️
<ノノ&シュガーside>
「ノノちゃん!待って待ってストップ!」
後ろからシュガーに手を掴まれたノノは我に返って足を止めた。
「なに?急がないと」
「そうだけど、一回落ち着いて・・・」
「落ち着けないわよ!早く二人を見つけないと」
珍しくノノは焦っていた。
少し前、突然視界左上のサツキのHPが真っ赤に染まったからだ。その減り方から、たった一撃によるダメージだと予測できた。ボスと交戦しているのは明白だった。仲間のHPが危険域になるのを見るのは初めてではないが、それは目の届く範囲で助けに行けた時の話で、今のような状況ではない。
減少したままのHPバーが、次の瞬間には音もなく消滅してしまうのではないかと、ノノは気が気でなかった。最悪の場合を考えて心臓が破裂しそうなほど鼓動が荒ぶった。普段から馬が合わないサツキでも同じギルドに所属する仲間に変わりはない。何よりも、
ノノは再び歩き出そうと振り向いて、止まった。
「やばっ」
前方十メートルほどに亡者がポップしたのだ。まだ見つかる距離ではないが、こちらに向かってゆっくり近付いて来ている。
「来た道を戻り─って、こっちにも湧いてる!」
後方からも亡者が迫り、二人は完全に挟まれてしまった。狭い通路に他の道はない。
「厳しいわね・・・」
「ノノちゃん、こっち!」
「なにを─ 」
突然シュガーに手を引かれ壁に押し付けられた。いわゆる”壁ドン”という状態になり、ノノはさっきとは違う意味で鼓動が早くなった。
だがシュガーは構わずノノに密着し、いつの間にか手に持っていた物で二人を覆った。途端に隠蔽率が急上昇したのを見て、ノノはシュガーの意図、隠蔽でやり過ごそうとしていることを察した。
「・・・前から思ってたけど、意外と大胆よね」
「そ、そうかな?ごめん」
「別にいいわよ・・・」
偵察隊長を任されるだけあって、判断が早いのは流石だと言える。気を使ってか、シュガーは赤い瞳をノノから逸らして亡者の動きを注視していた。ノノも動かずに亡者の動向に意識を向けた。
だからか。
何の前触れもなく、寄りかかっていた壁が消滅したことに、二人は即座に対応できなかった。
「うわぁぁぁっ!?」
「きゃぁぁぁっ!?」
はぐれた二人と同様に、暗闇の中を為す術なく落下していった。
♦️
<アスナside>
「サツキくん!起きて!」
ぐったりしたまま動かないサツキの体を、アスナは必死に呼びかけながら揺らした。
手早くハイポーションを取り出して無理矢理飲ませる。もどかしいほどゆっくり回復するHPバーが焦りと混乱を加速させていく。
「──ほう、アレで死なぬか」
ゆらゆらと近付いて来る亡霊王が感心したように言った。サツキを抱きとめながら亡霊王に視線を向けたアスナは思考を加速させる。
─聖属性が付与されているサツキくんの愛剣でも、攻撃を受け止められなかった。アストラル系への唯一の対抗策が通用しないなんてことは、今まで一度もなかったし聞いたこともない。何か別の、このボスを倒すための特別な条件かアイテムがあるはず─
刹那のその思考を読み取ったかのように、亡霊王は一つ頷き肯定した。
「──左様。今のそなたらでは我を討つどころか、触れることすら叶わぬ」
亡霊王が直剣を振りかぶる。アスナは無意味と分かりつつ、愛剣を引き抜いて構えた。
無情な一撃が振り下ろされるその直前─
「うわぁぁっ!?」
「きゃぁぁっ!?」
上空から二つの絶叫がこだました。反射的に見上げたアスナが見たのは、頭上にいくつも開いた穴の一つから落下して来た二つの人影─はぐれていたノノとシュガーだった。
「──ほう、まだいたか」
振りかぶった直剣を水平に持ち変えた亡霊王は、アスナから落下中の二人に狙いを変えたようだ。それに二人も気付いたらしく、絶叫を止めて迎撃のためかそれぞれの愛刀・愛剣を手に取る。アスナは悲鳴にも似た声を発した。
「だめ!避けて─!」
その声と亡霊王が直剣を振るったのは同時だった。無音で迫る透けた直剣に何かを感じたらしく、二人は迎撃をやめて空中で身を捻って亡霊王の一撃を避けた。攻略組でもモノにしている者が少ない高度な技術だが、それを咄嗟にやってのける二人は流石としか言いようがない。
落下ダメージを発生させない見事な着地を魅せた二人は、意識を失ったままのサツキを見て表情を歪ませた。
「サツキ!どうしたの!?」
「サツキさん!?」
それに答えるよりも先に、亡霊王が再び攻撃モーションに入った。
「そいつの攻撃は受け止められない!避けて!」
縦横無尽に振り回された直剣を二人は危なげなく躱す。だが、初めて見るモーションと微妙なカスタマイズのせいで、時折二人の体を直剣が掠める。反撃ができない以上、このままではジリ貧だ。
「もう!なんなのよコイツ!」
「やっぱりアストラル系ですよね!?僕たちの攻撃は─」
「違う!サツキくんの攻撃も当たらなかった・・・何か条件があるんだと思う!」
「条件って・・・」
「ギミックみたいなのありますか!?何か仕掛けが─」
ダンジョン内にある仕掛けは、そのほとんどがボタンやレバーだ。だがボス部屋にそれらしきものはない。広い部屋にあるのは──
「まさか・・・」
「・・・その、まさかだ」
腕の中から聞こえた声にアスナは視線を落とした。どこか翳りが見える青い瞳とぶつかる。
「サツキくん!」
「悪い、もう大丈夫・・・これ、どんな状況?
「なっ!今はそんな場合じゃないでしょう!」
我に返ったアスナは抱きとめていたサツキを離す。冗談冗談と言ってサツキは立ち上がった。
「さて、ここからは真面目な話なんだけど─」
前方で繰り広げられる激しい攻防を見据えながら、サツキは真剣味の帯びた声で言った。アスナも立ち上がって隣に並ぶ。
「アイツを倒すには、アレを使うしかないと思う」
アスナはすでに検討がついていた。
「でも、どうやって?」
「誰でもいいから、他が時間を稼いでいる間に
不敵な笑みを浮かべ、サツキは部屋の最奥の祭壇に突き立った《霊剣》を見つめた。
今後は原作キャラとの絡みも増やしていきます。