ソードアート・オンライン ── 血盟の剣豪 ──   作:Syncable

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遅くなったわりに短めで申し訳ないです。


Ep.22 鍛冶屋

<サツキside>

 

 

 

雲一つない快晴の下、俺は柔らかな芝に寝転がってチョウチョを数えていた。

 

人通りの多い転移門広場が近いこともあって、行き交う人々が遠慮のない視線を照射してくる。理由は簡単。俺の傍らに置かれた霊剣(レーヴァ=テイン)の圧倒的存在感に無意識のうちに引き寄せられているのだ。

 

 

レーヴァ=テインをゲットしたのは三日前らしい。らしい、というのは戦闘の途中から記憶がないからだ。最後に見たのは亡霊王が放った神々しい光で、次に目が覚めたのはギルドホームの自室だった。副団長の話では、亡霊王が消滅したあと結晶無効化が解除されたらしく、気絶したままの俺を連れて帰還したと言う。その後丸一日寝ていたらしい。とても信じられないが、レベルが一つ上がっていたので亡霊王が倒されたことに間違いない。意識がない中で戦ったのか、単に憶えていないだけなのかは分からないが結果オーライということで片付けた。

 

そして昨日は祝勝会と称して三人にアホみたいに高級レストランのフルコースを奢らされた。あのダンジョンの難易度を考慮すれば安すぎる報酬だと思ったが、今後の活躍を約束して免じてもらった。その祝勝会の際、副団長に親友である鍛冶屋を紹介してもらうことになり、その待ち合わせで俺はここにいる。

 

予定時間の五分前に副団長は現れた。

 

「こんにちは、サツキくん」

 

「おっす・・・」

 

起き上がって挨拶を返した俺は固まった。副団長の装いがいつもと違ったからだ。あくまで今日は私用だからか、見慣れた赤と白の騎士服ではなく、何だかキメてきてるようなオシャレな格好だった。思わず見とれていると、副団長はぷいと横を向いた。

 

「・・・何見てるの」

 

「いや、なんでもない」

 

立ち上がって仕切り直す。

 

「んじゃ、行こうか。案内よろしく」

 

「うん」

 

すれ違う人の視線が痛いが素知らぬ顔を取り繕う。俺の少し前を歩く副団長は、心做しか楽しそうだ。親友に会いに行くのだから当然だろうが、出会ったばかりの頃からは想像もできなかった姿だ。霊剣のダンジョンでの一件以来距離が縮まった気がする。

 

そんなことを考えながら移動すること数分。

 

着いたのは巨大な水車を備えた一件の職人用プレイヤーハウスだった。店頭に立つNPCの歓迎を受けて俺たちは中に入った。

 

「やっほーリズ!」

 

扉を開けるや否や、今までに聞いた事のないくらい明るく大きい声を発する副団長に驚いた。

 

店内はきちんと整理整頓がされており、ずらっと並んだ棚には中々の業物が掛けられている。プレイヤーの鍛冶屋を訪れるのが初めての俺から見ても、かなりの腕前だと推測できる。

 

「いらっしゃい、アスナ」

 

奥から現れた店主と思わしき女の子が笑顔で出迎えてくれた。ピンク色の髪に鍛冶屋とは思えないウェイトレスのような可愛らしいユニフォーム。ここまでなら、あの副団長の親友と聞いても納得できた。だが、幼さが残る顔と華奢な体に不釣り合いなゴツいハンマーを軽々と肩に乗せ、俺に剣呑を込めた眼光を送っているのだ。

 

正直に言おう。なんだコイツは、と思った。

 

副団長は相変わらずの笑顔で親友に話しかけた。

 

「あ、もしかして作業中だった?」

 

まぁ見ればそう思うだろう。

 

「んーん、あたしの親友が初めて男を連れて来るって言うから、変なヤツだったらぶっ飛ばしてやろうと思って」

 

もう一度言おう。なんだコイツは。

 

「なっ、別にそんなのじゃないよ!」

 

「ふ〜ん?」

 

親友さんは俺の前まで来るとじっと見つめてきた。

 

「な、なにか?」

 

「・・・」

 

数秒間膠着状態が続き、いたたまれなくなってきた頃に親友さんは表情を緩めて俺の肩をバシバシ叩いた。

 

「うんうん、良かった。変な男に引っかかったんじゃなくて。アンタなら大丈夫そうね」

 

「ど、どうも・・・?」

 

よく分からないが評価は良いみたいだ。副団長が間に入って場を改める。

 

「えーと、彼女が私の親友で鍛冶屋のリズね。で、彼がウチのメンバーの"剣豪"くん」

 

「正式名称で紹介してくれ。サツキです」

 

「へー!アンタが噂の新人ね。あたしはここの店主のリズベット、よろしくね!敬語なんて使わくて良いし、気軽にリズって呼んで」

 

「わ、わかった。よろしく」

 

差し出された手を握り返す。さっきと真逆の友好的な態度に混乱するが、これが彼女の本心なのは見てわかる。前言撤回、めっちゃ良い人だ。

 

「それで、今日はメンテだっけ?」

 

「うん、サツキくんのね」

 

「ああ、頼む」

 

ストレージからカタルシスを実体化させてリズに手渡す。見ただけでわかる消耗ぶりに、リズは呆れた声を漏らした。

 

「どうやったらこんなボロボロになるのよ」

 

「ちょっと無茶したからなぁ」

 

「ちょっと、じゃないでしょう」

 

言われてみればそうかもしれない。

 

「じゃあ研磨するから待ってて」

 

そう言ってリズは奥の工房へと引っ込んで行った。作業を見たいとも思ったが、邪魔をしてはいけないと自制して大人しく店内に並ぶ武器を眺める。

 

そして、それを見つけた。

 

カウンター横の壁に吊るされた一振の片手剣。

 

引き寄せられるように手を伸ばして壁から外すと、見た目からは想像できない重量が加わる。カタルシスやディメンションより重い。刀身を抜き出すと、ほとんど漆黒に近い色の肉厚な刃がぎらりと光る。かなりの業物─《魔剣》であることは明らかだ。

 

「スゴい・・・」

 

俺の感嘆の呟きとは反対に、副団長がやや暗い声で言った。

 

「・・・それ、キリトくんのなんだ」

 

「"黒の剣士"の?」

 

「うん。五十層ボスのLAボーナスみたい・・・リズが認めた人に渡してほしいって」

 

「なんなら使ってみる?」

 

工房から戻って来たリズが、新品同様の輝きを取り戻したカタルシスを手に言った。

 

「いや、俺はそんな器じゃないよ」

 

「あら、随分謙虚ね」

 

「そこが売りだからな。ありがと」

 

カタルシスを受け取ってストレージに格納し、お代の百コル銀貨を払う。毎度、と笑ったリズの視線が俺の肩に向いた。

 

「ねぇ、それがレーヴァ=テイン?見せてよ」

 

興味津々のリズに答える。

 

「ああ、落とすなよ」

 

鞘ごとリズに手渡すと、彼女はその流麗さに圧倒されつつ慎重に手に取った。驚きから悔しそうに表情が変化する。

 

「悔しいけど、今のあたしにはこれ以上のモノは作れないわね」

 

「今はなき魔法の力で作ったらしいからな」

 

「そう・・・って何これ、強化もメンテもできないんだけど」

 

可視化されたリズのウインドウを覗くと、鍛冶屋スキルのメニューにあるはずの数種類の項目が全て消えていた。

 

「エラーってわけじゃなさそうだな」

 

「熟練度が足りてないとか?」

 

「それならメッセージが表示されるわ」

 

「魔法で作られた剣だから、普通の方法じゃ扱えないみたいな設定かもしれない」

 

無茶苦茶な仮説だがそれしかない。

 

「ま、なんにせよそんなスゴい剣を持ってんだから、じゃんじゃん攻略していってよね!」

 

「が、頑張ります」

 

一時間ほど雑談をした後、リズとフレンド登録をしてその日は解散となった。




なるべく原作の時間軸に沿います。
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