ソードアート・オンライン ── 血盟の剣豪 ──   作:Syncable

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オリジナル展開が続きます。


Ep.23 アレンジメント

<サツキside>

 

 

 

「サツキさん、この後お時間ありますか?」

 

「どうした?改まって」

 

六十二層ボス戦の後、リズにメンテを頼もうかと考えていた俺をシュガーが引き止めた。誰もいないギルド本部の前庭の木陰まで移動すると、シュガーは内緒話をする子供のように言った。

 

「実は、来週ノノちゃんの誕生日なんですよ」

 

「そうなのか、んじゃパーティーやんないとな」

 

「はい、それで何かプレゼントを準備したいと思うんですが・・・ご協力いただけないでしょうか?」

 

「おう、いいぜ。何か候補はあるのか?」

 

俺の快諾を喜んだシュガーは一枚の紙を差し出してきた。独特なフォントで羅列されているのは、石やら布やら花やらの素材アイテムだった。首を傾げる俺にシュガーが説明する。

 

六十一層主街区(セルムブルグ)のNPCが、特殊効果付きのアクセサリを作ってくれるそうなんです。これが必要な素材なんですが・・・見たことのないものばかりで」

 

「んんん、確かに」

 

元から素材アイテムに疎い俺に分かるはずもなく、名前からどんなものかを推測するのも難しい。

 

「聞き込みをしようにも、恥ずかしながら僕は知り合いが少ないので・・・サツキさんのお知り合いで詳しそうな方はいませんか?」

 

「知り合いってもなぁ・・・」

 

KoB以外の攻略組ともだいぶ交流が深まったと思うが、気兼ねなく話ができそうなのは数少ない。今ぱっと思い付くのは小柄な情報屋と世話焼きのカタナ使いくらいだ。

 

「まぁ、金はかかるけど信頼できる情報屋に聞くのが確実だろうな」

 

「まさか《鼠》って方ですか!?」

 

「そ、そうだけど」

 

予想外の食い付きに驚く。

 

「有名な方ですよね、僕会ったことないんです」

 

「へぇ、意外だな。じゃあ一つアドバイス、アイツと話す時は気を付けろよ。知らないうちに500コルくらいの情報を取られるからな」

 

言いながらアルゴへのフレンドメッセージを打ち始める。いつか聞いた噂話に、シュガーは真面目な様子で聞き返した。

 

「サツキさんも取られたんですか?」

 

「俺は多分10万コル分くらい取られてるよ」

 

自虐とともに送信ボタンをタップした。

 

 

 

 

 

 

<ノノside>

 

 

 

肉薄する歪な拳をギリギリで躱し、腰の鞘から愛刀を抜き去って一閃を見舞う。真紅の輝きをまとった刀身が空ぶった敵の腕を捉えて斬り飛ばした。そのまま大きく後退して距離を取る。

 

「ガアァ・・・ァァァ」

 

呻き声を上げるのは、HPを黄色に変化させた人型モンスター《アイアン・パウンド》。アインクラッド第三十二層の闘技場跡エリアに一日一体だけ出現するレアモンスターだ。と言っても、最前線で戦う私にとっては脅威でない相手である。

 

ボス戦の後わざわざ戦いに来たのには理由がある。

 

さっきも言った通り、一日一体しか湧かないのでチャンスを逃したくないから。

 

もう一つは・・・誰にも言えない。

 

()()()()()()()()()()()()()を、攻略組にまでのし上がらせた醜く歪んだ感情など誰に言えよう。その根源となった忌まわしいあの日を忘れたことはない。けれど、少しでも()()になればと、来るべき日に備えてこうして地道な努力を積み重ねている。

 

「・・・らしくないわね、私ったら」

 

いつもなら無心で機械的に戦闘をこなすのに、今日はボス戦の疲れもあってか余計なことを考えてしまう。パウンドが残った片方の腕を構えるのを見て頭を切り替える。

 

構えと輝くエフェクトから技を予測した私は愛刀を鞘に収めた。居合いの構えのままタイミングを待つ。

 

「ギェェアアアッ!!」

 

パウンドは咆哮とともに突進してきた。見計らった射程内に入ったところで愛刀を抜く。リズが鍛えた渾身の一振であるカタナ《霞桜》が、システムアシストと私の動きで極限まで加速する。流星にも似た一撃がパウンドの腕を肩から斬り飛ばした。

 

そこで止まらない。

 

「──ッ!」

 

続くシステムアシストに逆らわず動きをリンクさせ、超高速の()()()を放つ。音すらも置き去りにした連撃は、半分ほどだったパウンドのHPを呆気なく全損させた。

 

爆散するポリゴン片に目もくれず、私は霞桜を切り払って鞘に収めた。右手に残った連撃の感覚を噛み締めながら、私はすっかり沈みかけた夕陽を見つめる。その美しさに思わず呟いた。

 

「・・・まだまだ、もっと強くならないと」

 

焼けるような夕陽は、全てが始まった日、全てを失った日のそれとよく似ていた。

 

 

 

 

<サツキside>

 

 

「初めまして《鼠》さん!僕は血盟騎士団のシュガーです!」

 

「噂には聞いてるゼ、偵察隊長サン。オレっちはアルゴ、よろしくナ」

 

すっかり闇に覆われた大都市ギルトシュタイン、その一角で挨拶を交わす二人を俺は欠伸を我慢しながら見届けた。

 

メッセージの送信からものの数秒で返信は来たものの、他に用事があったらしく会えるまで時間がかかってしまった。別にメッセージだけで済ませてしまってもよかったのだが、丁度アルゴも俺に依頼があったようなので直接会うことにした。シュガーも会いたいと言っていたし一石二鳥だろう。

 

「それデ、サー坊が聞きたいことってなンダ?」

 

「ああ、何個かの素材アイテムの入手方法だな。最前線近くのレシピだと思うんだけど、頼めるか?」

 

「これです」

 

シュガーが例のメモを渡す。受け取ったアルゴはそれを一瞥してから頷いた。

 

「お易い御用ダネ。おねーさんに任せておきな。報酬は・・・こっちの依頼とでチャラにしとくヨ」

 

ニシシ、と笑う情報屋に問う。

 

「随分と気前がいいな。何か裏があるのか?」

 

「おっ、察しがいいなサー坊」

 

「美味い話には裏がある、ってやつだ」

 

「えっ、本当に何かあるんですか?」

 

シュガーは相変わらず純粋だった。そんな彼をすっかり気に入った様子のアルゴは一枚の半用紙を取り出した。一番上に見覚えのあるギルドマークが表記されている。

 

「なにこれ?」

 

「<風林火山>がクエストの助っ人を探してるんダガ、なかなか見つからなくてナ。ボス戦で顔は合わせてるダロ?手伝ってやってクレ」

 

「どんなクエストなんですか?」

 

「よくある虐殺(スローター)系ダ。五十三層のクエなんだガ、とにかく数が多くて大変だから人手を増やそうってわけダナ。ちゃんと報酬は用意してるみたいだから心配するナ」

 

「ほーん、じゃあやってみるか。風林火山に連絡入れておいてくれ」

 

さらりと言った俺をアルゴと、さらにシュガーも「え?」みたいな顔で見た。

 

「・・・どした?」

 

「・・・サー坊、クラインとフレンド登録してないノカ?」

 

「してないよ」

 

「よく話していたので、てっきり登録してるのかと思ってました」

 

呆れた感じのアルゴがたったかメッセージを打ち始めた。返事はあとで連絡することにしてアルゴと別れ、俺とシュガーは適当な酒場で一杯やってからそれぞれのねぐらに戻った。

 

アルゴからメッセージが来たのは翌日の昼前のことだった。書かれていた集合場所と時間をシュガーにも伝え、簡単な準備を終えた俺は時間に余裕を持ってねぐらを後にした。




原作キャラとの絡み回です。

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