ソードアート・オンライン ── 血盟の剣豪 ── 作:Syncable
<サツキside>
「う〜ん・・・」
手元のウインドウに視線を落としながらシュガーが唸る。彼にしては珍しく判断に迷っているようだ。この状態になって既に二十分は経過している。
だが、それも無理はない。
「どれがいいと思います?サツキさん・・・」
「俺に聞かれてもなぁ・・・」
異性へのプレゼントなど送ったことのない俺に、的確なアドバイスができるはずもなく言い淀む。
アルゴから貰った情報を元に、俺たちはさくっと素材を収集した。ところまでは良かったが、肝心のアクセサリを作成するにあたって決めなくてはいけないことが山ほどあったのだ。デザインやら大きさやら色やら効果まで決められるらしく、そういった知識が乏しい俺は一覧を見ただけで目が回ってしまった。
「ノノが好きそうな物に心当たりはないのか?」
「入団の時から一緒ですけど、そんな話をしたことがないので・・・」
「まぁ、デザインは正直わからんが・・・ノノみたいなスピード系カタナ使いが喜ぶアクセサリって考えれば、敏捷力補正がいいんじゃないか?」
「そうですね・・・ノノちゃんって基本は隊服着てるので、白か赤にすれば似合うと思うんですけど」
「だな。シンプルでいいと思うぞ」
言いながらシュガーがウインドウを操作する。何個か案を作っては比べてを繰り返し、ようやく完成したのは小型のペンダントだ。純白に赤い剣、KoBのギルドマークに酷似した装飾が施されている。名は《冥白のラメント》。気になる敏捷力補正は──+50。
「「えっ!?」」
あまりの高性能に驚きの声がハモる。ラメントを作ってくれた女性NPCが微笑みながら首を傾げたのは気のせいだろう。
「なんだこのぶっ壊れ性能は・・・最前線でもドロップしないだろ、こんなの」
「バグじゃないですよね?」
「・・・ありえないほどの高性能品がドロップしたり作成されたのは稀に聞くからな。今回は大当たりを引いたってことだと思う」
「ま、何にせよプレゼントは確保できたな」
「はい!まさか、こんなに良いものになるとは思ってなかったです。ご協力に感謝します!」
「おう、あとは当日のパーティー準備だな。副団長とか他の皆には話してるのか?」
「はい、ノノちゃん以外の皆には話を通しています。当日の会場や食事の準備は、ダイゼンさんが指揮を執っています」
「あのおっちゃんなら任せてても大丈夫だな」
KoBの経理係の顔とその手腕を思い出す。少数精鋭のKoBは他の大規模ギルドと比べると資金が少ないはずなのにフロア攻略毎にパーティーを行うし、最近なんて本部を田舎屋敷から巨大な城に移したばかりだ。どこからそんな額が出てくるのか、KoB七不思議の一つである。
「こんな高性能品が作成されたなんて広まれば、このNPCは大儲けだな」
「そうですね。でも確率でしょうから、むやみに広めるのは止めておいた方がいいかもしれません」
「苦情言われるのも面倒だしな」
不確かな情報ほど危険なものはない。アクセサリを作るNPCは他に見つかっていないので、自然と情報は広がっていくだろう。
ラメントをプレゼント用にラッピングしてもらったシュガーが、表示されたままのウインドウを見て言った。
「あ!残った素材でもう一個作れますよ」
「残っててもしょうがないから、作っちゃえば?」
「じゃあサツキさんにあげます!手伝ってもらったお礼です」
「マジで?ありがたい」
シュガーの操作が終わると、先ほど同様にNPCが手際よく作成を始めた。完成したのは、蒼い宝石が埋め込まれた小さなイヤリングだった。
「・・・イヤリング付けてる男、見たことある?」
「ピアスならありますけど、イヤリングは見たことないですね」
「だよな、まあ一応取っておくか」
当初の目的は達成したので良しとし、俺たちは密かに事を進めているであろうダイゼンを手伝うためにギルド本部へと向かった。
♦️
<アルゴside>
「・・・なん、ダト・・・?」
正面に立つ男が発した言葉に、アルゴは絶句した。
「だから、
ラフコフ──
その名を知らない者はいないだろう。
アインクラッド最大にして最悪の殺人ギルド。結成から今まででその犠牲者は三桁をゆうに超えており、ある意味ボスモンスターよりもプレイヤーの敵と言える危険な存在だ。
ゆえに早期の撲滅を目指し、ヤツらのアジトを探し続けていたがアルゴですら手がかりを掴めずにいた。
そんな、喉から手が出るほど欲していた情報を、この男はあっさりと持って来た。何の前触れもなく接触してきた男が。
「その情報、どこから仕入れタ?」
情報屋として、この男を見極めなければならない。冷静を装ってアルゴが放った質問に、男は再びとんでもないことを言い出した。
「仕入れたも何も、
「ッ!?」
衝撃と同時に全身を怖気が支配する。混乱し、停止しそうな頭をフル回転させる。
「・・・何が目的ダ!?だいたい、メンバーの話を信じるわけガ──」
「あー落ち着け落ち着け、らしくないぞ?鼠」
暗がりと目深に被ったフードで見えずらいが、男は愉快そうに口元に笑みを浮かべていた。
「たしかにオレはメンバーだが、なんつーか、良心の呵責?みたいなヤツだよ。今更だが、後悔してるって感じか。だからアンタらに、攻略組に潰してもらいたい」
「・・・」
情報屋としての勘が警告を鳴らす。情報が確かでこの男の言うことも本当ならば、すぐにでもラフコフを壊滅させることはできる。だが罠だった場合、レベル的有利がある攻略組にも被害が出るかもしれない。
この判断は、とても一人では下せない。
「・・・正直、信用できないナ。しっかりウラを取ってから、攻略組に話すか判断するヨ」
「まぁそれが妥当だろうな。俺のことが信用できないならラフコフが解散するまでの間、黒鉄宮に入っててもいいぜ?」
「・・・考えておくヨ」
そう言い残してアルゴは早足にその場を去った。去り際に見た男は、笑っていた。
「思ったより用心深いな・・・まぁ、あの様子だと時間の問題か」
♦️
「すっげー!これがゲームかよ、信じらんねぇ!」
キラキラと目を輝かせた
「わっ!」
すぐ後ろで馴染みの声が聞こえた。振り向くと、小柄な少女がほんのわずかな段差にツマづいて転んでいる。
「大丈夫か?」
「う、うん!平気だよ」
「ははっ!──は相変わらずドジだなー!」
「もうっ!からかわないで!」
いつもと変わらない、他愛なく下らない会話だ。
「よし!さっそくモンスターと戦いに行こうぜ!」
「その前にスキルを選ばないと。武器は決めた?」
「いや、男は黙って拳で語るだろ」
「”ソードアート”なんだから剣使おうぜ・・・」
「私は・・・魔法使いがいいな」
「剣しかないよ」
「「えっそうなの?」」
「お前らゲーム説明読んだ!?」
二人がここまでアホだったのは初めて知った。
「そんじゃあ、とりあえずテキトーに選ぶか」
右手を振ってメインメニューを呼び出す。確か初期レベルでもスキルは二つ選択できたはずだ。
「「「ん?」」」
今度は三人の声がハモる。
「なぁ、もうスキル一個埋まってんだけど」
「私も!」
「俺もだ」
ウインドウを可視化して互いに見せ合う。
「えーと・・・<拳闘士>?」
「・・・<超回復>」
「俺のは・・・」
この時、俺はまだ知らなかった。
知る由もなかった。
与えられた力の意味を。