ソードアート・オンライン ── 血盟の剣豪 ──   作:Syncable

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SAOアニメもクライマックスですね。

今作は一つの山場に入るところです。


Ep.29 笑う棺桶

♦️

 

 

 

「・・・予想よりも、だいぶ、早かったな・・・」

 

「そうだね・・・でも想定内ではある」

 

ルナの問いに、ヒースクリフは目を細めながら応えた。すでに太陽は沈み、代わりに蒼い月が静かな夜を照らしている。

 

「君は参加しないのか?彼らも探しているようだったが」

 

手元の資料に目を落としながらヒースクリフが言う。ルナは窓から蒼い月を見据えたまま応えた。

 

「・・・私が、私たちが介入、すべきモノではない、だろう・・・」

 

「そうだね。今回の件に関しては、関わるべきではないね。不安事項はあるが、彼らなら上手くやるだろう」

 

手元の資料──『”笑う棺桶(ラフィン・コフィン)”殲滅作戦概要』を捲りながら、ヒースクリフは不敵な笑みを浮かべた。

 

時は、3日前に遡る。

 

 

 

♦️

 

 

 

<サツキside>

 

 

「・・・みんな、急な招集に応えてくれて感謝するゾ」

 

「なんだ?改まって」

 

いつもの陽気な態度とは違った真剣な表情で頭を下げるアルゴに、反射的に声が出てしまった。

 

KoB本部の大会議室には俺と副団長、シュガーやノノを筆頭とする団員の他に《聖龍連合》《風林火山》といった攻略組の主力メンバーが集まっていた。昨日、64層のボスを倒した後アルゴから要請を受けた副団長が集めたらしい。

 

集められた理由がわからず疑問符を浮かべている俺たちの前で、アルゴは一度大きく深呼吸してから意を決したように口を開いた。

 

「これから言うことは、極秘情報だということを肝に銘じてほシイ。ここに集めたメンバーは、オレっちが最大の信頼をよせているからってことを覚えていてもらいタイ」

 

「なんだぁ?美味しいクエストでも見つけたか?」

 

普段なら絡むクラインの茶化しもスルーし、アルゴは少し震えた声でそれを言った。

 

「ラフコフの・・・”笑う棺桶(ラフィン・コフィン)”のアジトを、見つけタ」

 

「・・・・・・は?」

 

その言葉の意味を理解するのに時間がかかった。実際は数秒だろうが、おそろしく長い沈黙が場を支配した。そして、理解が追い付くと同時にそれは、とてつもない衝撃となって俺たちを襲った。

 

「なっ・・・!」

 

「ラフコフ!?」

 

その名を知らないプレイヤーはいないだろう。

 

アインクラッド最大にして最凶の殺人ギルド”──笑う棺桶(ラフィン・コフィン)”。通称・ラフコフ。

 

今年の元旦に結成が宣言された後、分かっているだけで既に3桁に上る犠牲者を出している。ある意味ボスモンスターよりも俺たちの敵と言える最悪の存在だ。これまで幾度となく撲滅のために動いてはいたが、肝心のアジトの場所を特定出来ずにいた。厳しさのこもった声色でシュガーが問う。

 

「どこで情報を入手したのですか?」

 

「ラフコフのメンバーが接触して来たンダ。罪悪感に負けて・・・潰してほしいってナ」

 

「嘘に決まってるじゃない!絶対に罠よ」

 

「イヤ、情報は間違いナイ。オイラがこの目で確認済みダ」

 

「っ!?お前まさか──」

 

「一人で偵察に行ったの!?」

 

「何考えてるの!?そんな危険なこと!」

 

ノノと副団長がアルゴに詰め寄るが、アルゴは二人を制しながら続けた。

 

「言いたいことは分かってるヨ、でもこれはオイラの戦いダ。裏が取れないまま情報を流して、みんなに万が一のことがあってはならナイ」

 

「さすがの情報屋魂だな・・・で、どこだ?」

 

俺の問いで場に緊張が走る。静寂の中アルゴは確かな声で言った。

 

「第七層迷宮区の安全圏(セーフティエリア)、そこがヤツらのアジトだ」

 

ざわつきが起こった。

 

「七層、そんな下の迷宮区に?」

 

「それじゃ見つからないわけね」

 

「でも各層の迷宮区は調べ尽くしてるんだよな?」

 

「もちろんダ。密告者の話によると、ヤツらは定期的にアジトの場所を変えているらしイ」

 

「なるほどな。どーりで見つけられなかったわけだ」

 

ヤツらの周到ぶりには無駄な感心を抱く。そこまでして殺人に手を染めるなんて、やはり危険な連中だ。

 

「でもよぉ、それなら早いとこケリを付けないとマズくねぇか?また見失うかもだぜ」

 

「だな。どうする?副団長」

 

今この場で最も発言力のある彼女は、少し考えてから口を開いた。

 

「・・・早急に討伐隊を編成し、アジトを襲撃します」

 

その言葉に異を唱える者はいなかった。ボス戦前のミーティングのような、しかしそれよりも空気が張り詰めているのを感じる。

 

「アルゴさん、アジトにはどれくらいの人数が?」

 

「およそ40人くらいダナ」

 

「わかりました・・・迷宮区内での戦闘、それに奇襲作戦となると大人数では行けません。討伐隊は少数精鋭とします」

 

一度言葉を区切り、全員を一瞥したあと副団長は続けた。

 

「討伐隊と言いましたが、あくまで拘束を目的とします。しかし、相手はプログラムされたAIではありません。私たちと同じ、生きた人間です。ですが相手は命を奪うことに一切の抵抗がありません。生半可な気持ちでは戦えないでしょう」

 

「・・・」

 

「強制はしません。どうするかは各人の判断に任せます・・・明日の昼、有志の方はここに集まってください。以上です」

 

様々な心境をのぞかせる表情でぞろぞろと退室して行くのを見送り、5人になった会議室は重い空気に満たされた。アルゴもシュガーもノノも副団長も、そして俺も何も言わない。沈黙を破ったのは、いつもの声を取り繕った副団長だった。

 

「私、団長に報告してくるね」

 

「一緒に行こうか?」

 

「・・・ううん、大丈夫。ありがとう」

 

それだけを言い残して副団長は出て行った。俺は冗談まじりに肩を竦める。

 

「フラれちゃった」

 

「・・・おめでと」

 

「おいこら」

 

ノノは呆れ顔から至極真面目な顔になって言った。

 

「・・・で、アンタは参加するの?」

 

「当たり前だろって俺は言うけど、お前らは無理しなくていいからな?」

 

「何よ、柄にもなく心配してるの?」

 

「柄にもないってのが心外だが、まぁそうだな」

 

「大丈夫ですよサツキさん、前からラフコフを止めたいと思ってましたし・・・覚悟もできてます」

 

「そうね、今回で終わらせましょう」

 

そんな会話をする俺たちの横でアルゴが暗い顔をしていた。何かを悔いているような、葛藤しているような顔だ。

 

「アルゴ、どうした?」

 

「いヤ、今更だガ・・・怖くなってナ」

 

聞いたことの無い消え入りそうな声でアルゴは言った。

 

「何か、嫌な予感がするンダ・・・こんなことは初めてダ。とても、悪いことが起きそうナ・・・」

 

「おいおい、縁起でもないこと言うなよ」

 

「そ、そうですよ!らしくないですよアルゴさん」

 

普段とは明らかに違う様子からタチの悪い冗談ではないことが分かる。ラフコフが関わっている以上、俺たちもボス戦並の準備と覚悟をするが、この世界に絶対はない。

 

「大丈夫よ、必ず成功させるわ」

 

そう言うノノの声にも、隠し切れていない不安の色が表れていた。

 

 

 

 

♦️

 

 

 

「ふざけんじゃねぇぞ!出せよ!おい!」

 

紅に染まった仮想の空に向かって()()が怒鳴り声を発した。

 

だが、それを遥かに上回る大音量の”声”が一瞬にして掻き消す。

 

怒号と絶叫、怒りと恐怖に呑まれたここは、アインクラッド第一層・はじまりの街。のべ一万人のプレイヤーが集められた大広場で、つい数秒前に宣言されたのは、おそらく世界初である死の遊戯(デスゲーム)の開幕だった。

 

クリアするまで脱出不可能、HPの全損は現実世界の死に直結するという、小説や”ゲーム”なら大いに盛り上がる設定だ。

 

だがこれは、紛れもない現実。

 

視界左上に表示されたHPバーがなくなれば、俺は本当に死ぬ。すでに死者は200人を超え、現実世界でも大変な騒ぎになっていると報道されているらしい。タチの悪い冗談でもなんでもない。

 

ヤツは、茅場晶彦は本気なのだ。

 

本気でこのデスゲームのためだけにナーヴギアとSAOを創り、地位や名誉を全て捨て、この剣の世界の神となった──。

 

酷く冷静になった頭でそう結論した時、左手を控えめに引かれた。

 

「ねぇ・・・どうなっちゃうの?私たち、死んじゃうの?もう、帰れないの・・・?」

 

目に涙を溜めて震える声で縋る彼女に何も返してやれない。俺は黙って彼女と喚き散らす親友の手を引いて人の輪を離れた。

 

 

細い路地裏まで二人を連れて来ると、少し落ち着いた様子の親友が口を開いた。

 

「なぁ──、どうすればいい?オレは馬鹿だから分かんねぇ」

 

「・・・」

 

後先考えずに思うがままに突っ走る親友と、それに勢いよく続く彼女。何かあれば二人の保護者的存在となっている俺がアレコレ考えるようになっている。

 

二人が無言で見つめてくる中、俺は決断を下した。

 

自分と世界を呪い、取り返しのつかない過ちへと繋がることになる決断を。

 

「・・・大丈夫、俺たちは”普通”じゃない。何かに選ばれた存在だから、この世界でも生きていける。死なない程度に、冒険してみよう。俺たち三人なら大丈夫だ」

 

二人は安心した顔で頷いた。




アニメ放送日に間に合うように頑張ります。

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