ソードアート・オンライン ── 血盟の剣豪 ──   作:Syncable

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今回は短いですが続きすぐに投稿します!


Ep.32 作戦前夜

<アスナside>

 

 

 

作戦を数時間後に控えた夜、アスナはギルド本部の自室から外を眺めていた。

 

他のメンバーはすでに眠りについているはずだが、ベッドに入ってから一時間が経過してもアスナは眠れずにいた。準備したアイテムや装備の点検をしたり、すでに暗記してある作戦概要を見直して眠気を待つが時間だけが過ぎていく。

 

キリトの元を訪れてから一日が経ったが、未だに彼から連絡はない。

 

ふと、自分がリーダーを務めるA班の編成に目が止まった。サツキを始めとする血盟騎士団メンバーの名が連なる中、一番下に新しく書き加えられたキリトの名。彼も参加するかもしれないと伝えた時は微妙な空気になったが、心強い助っ人が来てくれるという認識で収まっていた。なぜ自分の班に加えたのかはアスナ自身も分からない。

 

夜空を照らす蒼い月を見上げる。

 

サツキがみんなに吐露した覚悟は、向き合わなければと分かっていながらアスナが目を逸らしてきたものだった。殺人に手を染めた人間を相手にして、こちらの思い通りの状況になるわけがない。様々なパターン、最悪を想定しなければ。

 

消えない不安を紛らわすため、アスナは月明かりに反射したイアリングにそっと触れる。覚悟を決めた彼は、今どうしているのか少しだけ気になった。

 

 

 

 

♦️

 

 

 

<キリトside>

 

 

 

 

サツキとアスナが去ってからも、部屋は沈黙に包まれていた。いつもなら一日の振り返りで賑わう時間だが、今はとてもそんな空気じゃない。俺は天井を仰いで考える。

 

ラフコフの殲滅は確かに必要だと思う。このまま放置しておけば確実に犠牲者は増え続ける、その前に止めなければならない。以前の俺なら何の躊躇もなく討伐隊に加わっただろう。しかし今は──

 

「キリト」

 

ケイタに呼ばれて視線を戻すと、心配そうに俺を見つめる五人の仲間が映る。

 

そうだ、今の俺は独りじゃない。大切な仲間、帰る場所ができたんだ。今までの全てを捨ててこの五人を守ると決めた。

 

そう、守りたいから。だから俺は──

 

「みんな、俺は・・・行くよ」

 

「・・・そっか」

 

サチは頷いた。彼女だけじゃない、みんなもただ頷いた。否定の声はなかった。

 

「反対しないのか?」

 

「しないよ、キリトが決めたことだから」

 

「俺たちじゃあ力になれないしな」

 

サチが瞳に強い意志を宿しながら俺に言った。

 

「キリト、二つだけ約束して。絶対生きて帰ってくること、そして・・・何があったか正直に話して。例え最悪な結果だったとしても、私たちは受け入れるから」

 

「サチ・・・」

 

みんなが頷く。もう、迷いはなかった。

 

 

 

 

♦️

 

 

 

 

 

[期待の新人 史上最速で全国ツアーへ!]

 

大手ネットニュースサイトのトップに大きく掲載された見出しに、私は複雑な気持ちになっていた。

 

一度は諦めた幼い頃からの夢──歌手になってから半年余り。右も左も分からないまま、ただ我武者羅に活動を続けてきた。自分が思ったこと、感じたこと、考えたことを込めた歌はネットを通して広がり多くの反響を呼んでいる。今や注目の新人歌手としてテレビ出演も珍しくない。

 

だが世間が私に注目する度、忘れられているように感じる。死者が3000人を超え、未だに7000人近くが仮想世界に囚われている《SAO事件》のことを。忘れてはいけないのに忘れようと、目を背けているのではと思ってしまう。

 

私一人の力ではどうすることも出来ないのは分かってる。だから、せめて私だけは忘れないようにと毎日願う。

 

「・・・頑張って、咲月(さつき)

 

自分の夢を応援し続けてくれた彼に、もう一度会いたい。その想いが全身を満たしていた。

 

 

 

 

 

 

 

♦️

 

 

 

 

「私たちも、攻略組になろう」

 

「「・・・は?」」

 

テーブルを囲んで夕食を食べていた時、彼女が突然言ったことに俺と()()は間抜けな声を揃えた。彼女は至極真面目な表情で続ける。

 

「今まで考えてきたけど、やっぱり私たちの力はゲームクリアに使うべきだと思うの。本当は二人もそう思ってるんでしょ?」

 

否定は出来なかった。

 

デスゲーム開始から八ヶ月、俺たちは与えられたスキルを自分達の為だけに使って中層ゾーンで安定した生活を送っていた。行ったことがないが、最前線でも十分に通用する自信がある。攻略組に、と考えたことがないわけでないが、生還することを第一に考えるとやはりそんな考えは霞んでしまう。てっきり二人も同じだと思っていたので、彼女からの進言には本当に驚いた。

 

「──、なんで急にそんなこと言うんだ?」

 

親友が食事の手を止めて彼女に聞いた。俺も手を止めて彼女の回答を待つ。

 

「・・・最近仲良くしてる子が、怖いんだって」

 

「いつも話してる子?」

 

「うん」

 

いつの間に知り合ったのか、彼女は最近はじまりの街で閉じこもっている女の子と仲良くなっていた。俺と親友は直接会ったことはないが、彼女が毎日その子について話すのでだいたいの人物像は把握している。

 

「いつか突然モンスターが街に入って来て殺されるんじゃないか、ゲームクリアまで現実世界の体が耐えられないんじゃないか・・・ってね」

 

「まぁ、その不安は分かるよ」

 

二つとも考えられることだ。でも今の俺たちにどうこう出来る問題ではない。

 

「なぁ──、今の攻略ペースだとどれくらいで百層までいけると思う?」

 

「え?そうだなぁ、今のペースを維持できれば早くて一年、長く見積もっても二年でいけると思うけど」

 

「人間って寝たきりで二年も持つのか?」

 

「植物状態でも二年以上生きた人もいるから、多分大丈夫だと思う。そこから普通の生活に復帰した人はいないから、何とも言えないけど」

 

親友は珍しく頭を回転させているようで、難しい顔をして黙った。話題を切り出した彼女も同様に黙りこくっている。

 

 

らしくない二人を見ていたからか。

 

「・・・じゃあ、試しに行ってみる?最前線」

 

俺らしくない判断をしてしまったのは。




そういえばプログレッシブもアニメ化ですね!

正直アインクラッド編が一番だと思ってるので過去一テンション上がりました。ツンツンしてるアスナを早く見たい。。。

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