ソードアート・オンライン ── 血盟の剣豪 ──   作:Syncable

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最近忙しくてほとんど執筆できてませんでした!
気長にお待ち頂けると幸いです!


Ep.35 因縁

♦️♦️♦️

 

 

 

 

あの人と出会ったのは、デスゲームが始まってから半年以上が過ぎた頃だった。

 

圏内で外部からの助けを待っていた私は、その日も太陽が昇る前にある場所へ足を運んでいた。毎朝、一部のプレイヤーの善意により配給される食料アイテムを受け取るためだ。私のようにフィールドに出ない人はコルを稼ぐことが出来ず、毎日の食事を摂ることが困難になっている。この世界で餓死の心配はないが、どうしても我慢できずに私も朝食分だけ受け取るようになった。廃れきった私の一日の中での、唯一人間らしい行動だ。

 

配給時間の二時間も前に会場となる広場に着いた私は、休憩用ベンチの端に腰掛けて時間を待った。時間帯もあって他のプレイヤーはいない。耳鳴りのする静寂の中、死ぬ時もこんな風に独りで静かなんだろうと考えていた私は、突然背後からかけられた声で心臓が止まりかけた。

 

「あの、なにしてるの?」

 

声の主は、思考も体も停止した私を見て心配そうに首を傾げていた。

 

 

これが(ノノ)とチグネさんの出会いだ。

 

 

 

 

 

♦️♦️♦️

 

 

 

<サツキside>

 

 

 

 

「よぉよぉよぉよぉ、こんな愉しそうなことしてんならオレも呼べよ」

 

最悪な状況を目の前に、俺は頭をフル回転させた。

 

四人目の幹部を拘束すれば終わると思われた作戦も《不滅》の乱入で振り出しに戻ったと言っても過言ではない。俺は最善の案を導き出すため各人の状態を把握しようとした。

 

その俺を、背後から冷たい声が呼んだ。

 

「サツキ、アイツは私に任せて」

 

聞いたことのない底冷えする声。ノノは愛刀を手に《不滅》を睨め付けながら言った。その瞳は冷たく、または何かが燃え盛るように揺らめいていた。

 

「何言ってんだ、一人で勝てる相手じゃ──」

 

今にも飛び出しそうなノノの肩を掴もうと手を伸ばすが、それを払いのけてノノは言った。

 

「いいから!アンタはあっちの相手してて」

 

「馬鹿言え、一度アイツと戦ったことのある俺が相手するのが定石だろ!」

 

こんな時まで反りが合わないのに気が立つが、ノノがここまでカグマに執着する真意も分からない。研ぎ澄まされた殺気に近いオーラが肌を撫でる。そんな俺たちを見つけたカグマが、歪んだ笑みを一層深めて言った。

 

「お、久しぶりだなぁ剣豪。また会えて嬉しいぜ」

 

「こっちは全然だけどな」

 

「連れねぇこと言うなよ、お前のために俺もそれなりに鍛えたんだぜ?」

 

得意気に拳を鳴らしながら俺に近付いて来るカグマ。その間にノノが割って入った。

 

「なんだお前?オレとサツキのリベンジマッチを邪魔すんな」

 

「・・・あら、奇遇ね。じゃあ私もリベンジしても良いかしら?」

 

愛刀に手を添えたノノはカグマを見据えて静かに言った。それが、何かが爆発する寸前の声音であることが俺には分かった。

 

「何わけのわからんこと言ってんだ・・・邪魔すんなら、お前から消してやるよ」

 

言った瞬間、カグマの姿が霞んだ。流石の速度だ。

 

だが俺は見逃さなかった。カグマよりも先に閃いた一筋の光を。

 

「・・・あ?」

 

カグマはノノのすぐ前で動きを止めていた。ノノの心臓を狙って放った一撃は届くことなく、突き出された拳が宙を舞っていたのだ。一瞬のタイムラグの後、派手なダメージエフェクトが血のように吹き出した。

 

「がら空き」

 

「──チッ!」

 

再び一瞬の閃がノノの手元で閃いた。それを察知したカグマが反射的に上体を反らすが、胸部に三本の剣痕が刻まれる。もはや間違えようのない、ノノの攻撃だ。

 

距離を取ったカグマは、自らのHPが全快するのを見届けてノノを睨めつけた。

 

「お前、なんだ?」

 

「そっくりそのままお返しするわ、カグマ。いえ──」

 

ノノは《不滅》に告げる。

 

「──()()()さん」

 

初めて聞く名前に俺は困惑したが、カグマは違った。一瞬の驚愕から疑惑、そして怒りの表情に変わった。ノノを睨めつける眼には明らかな殺意が宿り、軋む声が発せられた。

 

「・・・てめぇ、何者だ?」

 

「あら、久しぶりに()()()()()で呼ばれて驚いた?」

 

挑発するノノに、カグマは何かを抑え込むようにしながらも激昴する。

 

「その名で呼ぶな!俺は”カグマ”だ・・・」

 

「まったく哀れね。いつまでそうやって縋るつもりなのかしら?もう二人は死んでしまったのに・・・ああ、ごめんなさい。()()()()()()()()()()()()()()

 

「ッ!?テメェェェェェッ!!!」

 

先ほどよりも速く強い一撃がノノに迫るが、彼女は避けようとせず愛刀を握った。そして三度の剣閃。

 

「ガッ・・・!?」

 

カグマの頸にクリティカルヒットのエフェクトが輝き、HPが一気に四割近く減少した。頭を抑えて後退したカグマをノノが追撃する。

 

「ねぇ、どんな気分だった?大切な人を自分の手で殺すのは?」

 

「ッ!?黙れ!」

 

「教えてよ、それを聞くために私はここまで来たんだから」

 

カグマを超える速度で次々と剣戟を見舞うノノ。それを唖然と見ていた俺はある違和感に気付く。それは《剣豪》たる俺にとって久方ぶりの、()()()()()()()()()を見た時の感覚だった。

 

現在判明している全カテゴリの全ソードスキルを自在に扱えるほど熟知している俺でも、ノノが繰り出すソードスキルは初めて見るものだった。考えられるのは一つ。

 

「ノノ、お前も・・・?」

 

困惑しながらも切り替えて加勢しようとした俺は、後ろから聞こえたシュガーの声に足を止めた。

 

「サツキさん!後ろです!」

 

「ッ!」

 

振り向きざまに構えたレーヴァ=テインに衝撃が加わる。火花を散らすのは赤紫色の刀身──

 

「忘れてたぜ、お前もいたんだったな!」

 

「・・・」

 

無言の幹部は俺を斬らんと体重を乗せてくる。その虚ろな瞳がわずかに見開かれたその瞬間、横から流星の如き一閃が放たれた。反応が間に合わなかった幹部の肩に命中し、勢いそのままに大きく吹き飛ばされた。

 

「大丈夫!?」

 

「やっと来たか、こっちは大盛り上がりだよ」

 

「そんなこと言ってる場合じゃないでしょう!」

 

駆け付けた副団長は俺を引っ張り立たせると、最悪な状況を前に表情を歪めた。

 

「まさか彼が乱入して来るなんて・・・」

 

「完全に想定外だったな。何やらノノと因縁がありそうだし」

 

「ノノちゃんと・・・?分からない、どうすればいいの」

 

「早々にケリを付けるしかない、だろ?サツキ」

 

もう一人の声に振り向くと、キリトが若干の疲れを顔にしながら立っていた。

 

「終わったのか?」

 

「ああ、遅くなって悪い。あとはあの二人だけだ」

 

見ればラフコフの残党は全て拘束されていた。討伐隊の面々が監視しながら、こちらの状況を遠巻きに窺っている。

 

「どうする?」

 

「・・・」

 

俺に判断を迫るキリトと副団長。答えはもう出ていた。

 

「俺が幹部の相手をする。お前たちはノノに加勢してくれ」

 

「一人でなんて無茶よ!何か仕掛けがあるのか分からないけれど、普通の攻撃じゃないわ」

 

「アスナの言う通りだ。麻痺を喰らったら終わりだぞ」

 

「ああ、間違いなく普通じゃないな。あの幹部もノノも、()()()()()()()()()()()()

 

俺の発言に二人は目を見開く。俺は構わずに続けた。

 

「幹部の方は大丈夫だ、一瞬でケリを付けれる。問題はカグマだ。拘束は無理だから・・・殺す」

 

「・・・どうやって?」

 

「・・・」

 

俺は前回の戦闘から推測した《不滅》の倒し方を二人に話した。成功する可能性が限りなく低いその作戦は、俺に全てがかかっていると言ってもいいものだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

♦️♦️♦️

 

 

 

 

『私のとっておきを教えてあげる!』

 

新たなスキルを試していた俺に、相棒は突然声高らかに言った。ドヤ顔で胸を張る相棒に呆れながら俺は言う。

 

『いや、アンタのソレも世界唯一(ユニーク)だろ?俺には使えんよ』

 

『わかんないじゃん!だって全部のソードスキルを使えるんでしょう?』

 

『本当に全部だったらチートだよ』

 

『まぁまぁ、とりあえずやってみよー!』

 

いつも通り俺の意見などガン無視で話を進めた相棒は、心底楽しそうに愛剣を振るい始めた。仕方なく俺も続いてカタルシスを抜いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

『いやー無理だー!』

 

乱れた呼吸のまま俺は芝生に倒れ込んだ。空を仰いで呼吸を落ち着かせている俺を覗き込む相棒は、息一つ上げずに笑っていた。

 

『惜しいなぁー、形は出来てるんだけどね。やっぱり気持ちだよ気持ち!』

 

『気持ちって言ったって、じゃあ──はどんな気持ちでやってんの?』

 

『おっしえなーい!』

 

『斬るぞ?』

 

『まだ()()()()H()P()()()()()()()()()()()()の初めてを奪うの?でも、君ならいいよ』

 

『変な言い方をするな』

 

もうすっかり慣れてしまった相棒とのやり取りを交わし、俺は起き上がった。理解していたはずの相棒との圧倒的な差、改めて直面するとやはりそれなりのダメージがある。そんな俺を察してか、相棒は穏やかに言った。

 

『まぁ大丈夫だよ。君なら必ず使えるようになる、私が保証するよ』

 

『・・・だといいな』

 

何の根拠もない。

 

でも相棒の言葉だけで、俺は誰よりも強くなれる気がした。

 

 

 

♦️♦️♦️




書ける時に一気に進めます。

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