ソードアート・オンライン ── 血盟の剣豪 ── 作:Syncable
気長にお待ち頂けると幸いです!
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あの人と出会ったのは、デスゲームが始まってから半年以上が過ぎた頃だった。
圏内で外部からの助けを待っていた私は、その日も太陽が昇る前にある場所へ足を運んでいた。毎朝、一部のプレイヤーの善意により配給される食料アイテムを受け取るためだ。私のようにフィールドに出ない人はコルを稼ぐことが出来ず、毎日の食事を摂ることが困難になっている。この世界で餓死の心配はないが、どうしても我慢できずに私も朝食分だけ受け取るようになった。廃れきった私の一日の中での、唯一人間らしい行動だ。
配給時間の二時間も前に会場となる広場に着いた私は、休憩用ベンチの端に腰掛けて時間を待った。時間帯もあって他のプレイヤーはいない。耳鳴りのする静寂の中、死ぬ時もこんな風に独りで静かなんだろうと考えていた私は、突然背後からかけられた声で心臓が止まりかけた。
「あの、なにしてるの?」
声の主は、思考も体も停止した私を見て心配そうに首を傾げていた。
これが
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<サツキside>
「よぉよぉよぉよぉ、こんな愉しそうなことしてんならオレも呼べよ」
最悪な状況を目の前に、俺は頭をフル回転させた。
四人目の幹部を拘束すれば終わると思われた作戦も《不滅》の乱入で振り出しに戻ったと言っても過言ではない。俺は最善の案を導き出すため各人の状態を把握しようとした。
その俺を、背後から冷たい声が呼んだ。
「サツキ、アイツは私に任せて」
聞いたことのない底冷えする声。ノノは愛刀を手に《不滅》を睨め付けながら言った。その瞳は冷たく、または何かが燃え盛るように揺らめいていた。
「何言ってんだ、一人で勝てる相手じゃ──」
今にも飛び出しそうなノノの肩を掴もうと手を伸ばすが、それを払いのけてノノは言った。
「いいから!アンタはあっちの相手してて」
「馬鹿言え、一度アイツと戦ったことのある俺が相手するのが定石だろ!」
こんな時まで反りが合わないのに気が立つが、ノノがここまでカグマに執着する真意も分からない。研ぎ澄まされた殺気に近いオーラが肌を撫でる。そんな俺たちを見つけたカグマが、歪んだ笑みを一層深めて言った。
「お、久しぶりだなぁ剣豪。また会えて嬉しいぜ」
「こっちは全然だけどな」
「連れねぇこと言うなよ、お前のために俺もそれなりに鍛えたんだぜ?」
得意気に拳を鳴らしながら俺に近付いて来るカグマ。その間にノノが割って入った。
「なんだお前?オレとサツキのリベンジマッチを邪魔すんな」
「・・・あら、奇遇ね。じゃあ私もリベンジしても良いかしら?」
愛刀に手を添えたノノはカグマを見据えて静かに言った。それが、何かが爆発する寸前の声音であることが俺には分かった。
「何わけのわからんこと言ってんだ・・・邪魔すんなら、お前から消してやるよ」
言った瞬間、カグマの姿が霞んだ。流石の速度だ。
だが俺は見逃さなかった。カグマよりも先に閃いた一筋の光を。
「・・・あ?」
カグマはノノのすぐ前で動きを止めていた。ノノの心臓を狙って放った一撃は届くことなく、突き出された拳が宙を舞っていたのだ。一瞬のタイムラグの後、派手なダメージエフェクトが血のように吹き出した。
「がら空き」
「──チッ!」
再び一瞬の閃がノノの手元で閃いた。それを察知したカグマが反射的に上体を反らすが、胸部に三本の剣痕が刻まれる。もはや間違えようのない、ノノの攻撃だ。
距離を取ったカグマは、自らのHPが全快するのを見届けてノノを睨めつけた。
「お前、なんだ?」
「そっくりそのままお返しするわ、カグマ。いえ──」
ノノは《不滅》に告げる。
「──
初めて聞く名前に俺は困惑したが、カグマは違った。一瞬の驚愕から疑惑、そして怒りの表情に変わった。ノノを睨めつける眼には明らかな殺意が宿り、軋む声が発せられた。
「・・・てめぇ、何者だ?」
「あら、久しぶりに
挑発するノノに、カグマは何かを抑え込むようにしながらも激昴する。
「その名で呼ぶな!俺は”カグマ”だ・・・」
「まったく哀れね。いつまでそうやって縋るつもりなのかしら?もう二人は死んでしまったのに・・・ああ、ごめんなさい。
「ッ!?テメェェェェェッ!!!」
先ほどよりも速く強い一撃がノノに迫るが、彼女は避けようとせず愛刀を握った。そして三度の剣閃。
「ガッ・・・!?」
カグマの頸にクリティカルヒットのエフェクトが輝き、HPが一気に四割近く減少した。頭を抑えて後退したカグマをノノが追撃する。
「ねぇ、どんな気分だった?大切な人を自分の手で殺すのは?」
「ッ!?黙れ!」
「教えてよ、それを聞くために私はここまで来たんだから」
カグマを超える速度で次々と剣戟を見舞うノノ。それを唖然と見ていた俺はある違和感に気付く。それは《剣豪》たる俺にとって久方ぶりの、
現在判明している全カテゴリの全ソードスキルを自在に扱えるほど熟知している俺でも、ノノが繰り出すソードスキルは初めて見るものだった。考えられるのは一つ。
「ノノ、お前も・・・?」
困惑しながらも切り替えて加勢しようとした俺は、後ろから聞こえたシュガーの声に足を止めた。
「サツキさん!後ろです!」
「ッ!」
振り向きざまに構えたレーヴァ=テインに衝撃が加わる。火花を散らすのは赤紫色の刀身──
「忘れてたぜ、お前もいたんだったな!」
「・・・」
無言の幹部は俺を斬らんと体重を乗せてくる。その虚ろな瞳がわずかに見開かれたその瞬間、横から流星の如き一閃が放たれた。反応が間に合わなかった幹部の肩に命中し、勢いそのままに大きく吹き飛ばされた。
「大丈夫!?」
「やっと来たか、こっちは大盛り上がりだよ」
「そんなこと言ってる場合じゃないでしょう!」
駆け付けた副団長は俺を引っ張り立たせると、最悪な状況を前に表情を歪めた。
「まさか彼が乱入して来るなんて・・・」
「完全に想定外だったな。何やらノノと因縁がありそうだし」
「ノノちゃんと・・・?分からない、どうすればいいの」
「早々にケリを付けるしかない、だろ?サツキ」
もう一人の声に振り向くと、キリトが若干の疲れを顔にしながら立っていた。
「終わったのか?」
「ああ、遅くなって悪い。あとはあの二人だけだ」
見ればラフコフの残党は全て拘束されていた。討伐隊の面々が監視しながら、こちらの状況を遠巻きに窺っている。
「どうする?」
「・・・」
俺に判断を迫るキリトと副団長。答えはもう出ていた。
「俺が幹部の相手をする。お前たちはノノに加勢してくれ」
「一人でなんて無茶よ!何か仕掛けがあるのか分からないけれど、普通の攻撃じゃないわ」
「アスナの言う通りだ。麻痺を喰らったら終わりだぞ」
「ああ、間違いなく普通じゃないな。あの幹部もノノも、
俺の発言に二人は目を見開く。俺は構わずに続けた。
「幹部の方は大丈夫だ、一瞬でケリを付けれる。問題はカグマだ。拘束は無理だから・・・殺す」
「・・・どうやって?」
「・・・」
俺は前回の戦闘から推測した《不滅》の倒し方を二人に話した。成功する可能性が限りなく低いその作戦は、俺に全てがかかっていると言ってもいいものだった。
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『私のとっておきを教えてあげる!』
新たなスキルを試していた俺に、相棒は突然声高らかに言った。ドヤ顔で胸を張る相棒に呆れながら俺は言う。
『いや、アンタのソレも
『わかんないじゃん!だって全部のソードスキルを使えるんでしょう?』
『本当に全部だったらチートだよ』
『まぁまぁ、とりあえずやってみよー!』
いつも通り俺の意見などガン無視で話を進めた相棒は、心底楽しそうに愛剣を振るい始めた。仕方なく俺も続いてカタルシスを抜いた。
『いやー無理だー!』
乱れた呼吸のまま俺は芝生に倒れ込んだ。空を仰いで呼吸を落ち着かせている俺を覗き込む相棒は、息一つ上げずに笑っていた。
『惜しいなぁー、形は出来てるんだけどね。やっぱり気持ちだよ気持ち!』
『気持ちって言ったって、じゃあ──はどんな気持ちでやってんの?』
『おっしえなーい!』
『斬るぞ?』
『まだ
『変な言い方をするな』
もうすっかり慣れてしまった相棒とのやり取りを交わし、俺は起き上がった。理解していたはずの相棒との圧倒的な差、改めて直面するとやはりそれなりのダメージがある。そんな俺を察してか、相棒は穏やかに言った。
『まぁ大丈夫だよ。君なら必ず使えるようになる、私が保証するよ』
『・・・だといいな』
何の根拠もない。
でも相棒の言葉だけで、俺は誰よりも強くなれる気がした。
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書ける時に一気に進めます。