ソードアート・オンライン ── 血盟の剣豪 ── 作:Syncable
<サツキside>
「アーちゃんこれもなかなかダヨ」
「本当だ、美味しい!」
「しかも美味しいだけじゃナイ、なんと敏捷力にバフが─」
「・・・」
なんだこの状況。
副団長が合流してどんな修羅場になるかと思えば、いきなり俺そっちのけで女子会が始まった。2人ともケーキやらパフェやらで盛り上がっている。
アルゴはともかく、副団長にもこんな女の子みたいな一面があるとは正直なところ意外だった。"攻略の鬼"なんて可愛くない呼ばれ方をしていてデザート的なものには興味がないと思っていた。
「・・・何か今、失礼なこと考えてるでしょう?」
「とんでもございません」
心読むとかエスパーなの?
「にゃはは!サー坊はすぐ顔に出るからナ、今のはオレっちでも分かるゼ!」
「そんなに分かりやすいのか・・・」
昔から心理戦が弱い原因がわかった気がする。
「さて、では本題に入りましょうか」
食べ終えた皿をNPC店員が回収したのを見届けて、副団長はいきなり切り出してきた。さっきまでの和やかムードはどこへやら、俺は無意識に姿勢を正す。
「サツキくん、いくつか質問があります。できる限り話してもらいたいのですが、渋るようでしたらアルゴさんから聞きます」
「アルゴには口止めしてるぞ」
「だろうと思いました。アルゴさん、サツキくんはいくら払いましたか?」
「この位だナ」
アルゴがウインドウを可視化して副団長に見せる。それを見た副団長は耳を疑うことを言った。
「なるほど・・・ではこの倍を払います」
「は!?」
「良いヨ」
驚愕する俺と普通な対応のアルゴ。副団長がウインドウを操作し始めたので慌てて止めに入る。
「ちょちょちょちょっと待て」
「何か?」
「何か?じゃなくて、そんなに出して大丈夫なのか?」
ちょっとしたマイハウスが買える位の値段なのだがなんの躊躇いもなく払おうとする副団長。俺がどうこう言うことではないが流石に心配になる。
だが副団長はそんなことかと言わんばかりの様子だ。
「ご心配なく。まだまだ余裕がありますから」
「誰かさんと違って無駄使いしないからな、アーちゃんは」
「わかったわかった、だからちょっと待て」
副団長の手を下げさせて俺は続ける。
「お金はいいよ。副団長には教えておいた方が良いと思うし」
「なんダ?オレっちの時は随分渋ったくせにアーちゃんには素直なんダナ」
「あんたに話すのとは訳が違うからな」
「では話してください」
「ああ、でも言葉で説明するより実際に見てもらった方が早いし分かりやすいだろ?」
会計を済ませて俺たちは店を出た。
♦️
<アスナside>
場所は変わって第五十層迷宮区。
すでに攻略済みだけどここの敵はまだまだ手強い。私はソロでも十分戦えるが、今はアルゴさんもいるのでいつも以上に周りに警戒している。
「この辺りで良いわ」
「だな」
松明が多く設置され外ほどではないが明るい広場で立ち止まり、モンスターが湧くのを待つ。その間シンプルなデザインである愛剣の感覚を確かめていた彼に、私は一つの疑問を聞いた。
「・・・あなたって元βテスター?」
「いや、ニュービーだよ」
「一人でここまで強くなったの?」
「いや、βテスター・・・じゃなくて"ビーター"とコンビを組んでた。かなり前だけど」
「・・・そう」
私と全く同じだった。
キリトくんと出会ってコンビ組み、数えきれないほどの技と知識を教えてもらった。今の私があるのは間違いなくキリトくんのおかげだ。絶望に囚われていた私に希望を、この世界で生きる意味を与えてくれた。
彼もそうなのだろうか?
その疑問を解消すべく発しようとした声を、アルゴさんが遮った。
「来たゾ!」
私たちの前方10メートルにモンスターがポップする時特有のエフェクトが発生した。ポリゴンが徐々に形を形成していく。
現れたのはこの迷宮区でかなりの強敵である人型モンスターだった。阿修羅に扮した姿で一振の刀を武器とするそいつは、見た目に反して敏捷力が凄まじく使うソードスキルも類を見ないカスタマイズを施されていて攻略組でも少なくない犠牲者を出した。
「じゃあ、改めて説明するけど」
話しながら彼は前へ進む。
「俺のユニークスキル<剣豪>は、装備している武器と関係なく全てのソードスキルを使えるようになるスキルだ。だから片手剣を装備している今でも片手剣カテゴリ以外の、例えば細剣のリニアーやカタナの辻風なんかも使える」
背中の鞘から愛剣を引き抜くと、それに気付いた敵が彼をターゲティングする。
「さらに、ソードスキル使用後の硬直時間がない。なのでソードスキルを繋げての連続攻撃ができる」
殺気立った敵が無言で刀を握る。
「あとは、なんだろうな・・・」
彼が考える素振りを見せた瞬間、敵が仕掛ける。
カタナカテゴリ・ソードスキル"緋扇"
一瞬で中距離程度の間合いを詰めて3連撃を繰り出す厄介な技だ。一気に彼との距離が縮まり、高速の連続技が─
「あぶな」
彼を捉えることはなかった。
片手直剣カテゴリの基本技・ホリゾンタルで敵の一撃目を弾いて体勢を崩し、ソードスキルそのものを無効化した。致命的な硬直時間が課せられて完全な無防備となった敵の心臓部に、片手槍カテゴリ・ソードスキル"アクシス"を見舞う。こちらも基本技だが、強敵のHPは目に見えて減少する。
「あっそうそう、ソードスキルの威力とクリティカル発生ボーナスもあるな」
敵が吹き飛んで転がる様を見ながら彼は言う。ずっと下層のモンスターと戦っていると錯覚するほど圧倒的だった。
「サー坊!一つ聞いても良いカ?」
「なに?」
静観していたアルゴさんが突然口を開いた。
「ソードスキルを全部使えるのは凄いガ、一つ一つ発動モーションは違うダロ?全部覚えてるノカ?」
「ご名答。全カテゴリ全ソードスキルの威力、射程、発動モーションを覚えてる。ちゃんと使い物になるまで随分かかったけどな」
それがどれだけ大変なことか私は知っている。
無限にも等しい数が設定されているソードスキル。それらの動きを覚えるだけでもかなりの時間が必要だが、彼はさらに自分が使えるようにまでなったと言う。私も使用率が高い武器種のソードスキルは覚えているが、とても動きを再現できるとは思えない。
「どうダ?アーちゃん。少しはサー坊のこと見直したカ?」
「・・・」
何やら楽しげなアルゴさんが言う。
確かに彼は凄い。
でもそれを認めることを拒む気持ちがある。
なぜ?
初めて見た片手斧と両手戦棍、両手鎌のソードスキルの連続技で敵を屠る彼を見つめながら、どんなに思考を巡らせてもそれが分からなかった。
ちなみに今の<剣豪>スキルは熟練度500くらいです。