ソードアート・オンライン ── 血盟の剣豪 ──   作:Syncable

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Ep.39 廻

──なにが、起きた?

 

全身を満たしていたはずの、暴力的な生命力が消えていくのを感じた。

 

 

力が入らない・・・<拳闘士>のステータス補助が切れたのか、体が鉛のように重く引き寄せられるように地面が近付く。

 

思考がまとまらない・・・<超回復>が発動していないのか、不死身と思えた体は斬り刻まれたまま再生しない。

 

意識が遠のいて行く・・・<修羅眼>を無意識に使っているのか、時間がコンマ単位で過ぎていく。

 

 

漆黒の剣を二本携えた”剣豪”と目が合う。底のない深淵のように黒く、どこか憐れみを含んだその目はゆっくりと閉じられ、剣豪は事切れたように倒れた。ふと視界左端に表示されたHPバーが目に入る。久しぶりに見たそれには色がなかった。

 

そして察した。オレは負けた、死ぬんだと。

 

<拳闘士>と<修羅眼>をもつオレの反応速度を超える速さに<超回復>が間に合わない威力の剣技。ありえない、そんなものは存在しないはずだ。オレは殺せない、不死身だ。こんな所で死ぬわけにはいかない。まだ殺し切れていない。オレはまだ・・・

 

受け入れ難い”死”という事実に頭がどうにかなりそうだった。否定を続けるオレに、光を帯び始めた体が現実を突き付ける。

 

 

『死ぬ時くらいは、ほんの少しでもこの世界に来て良かったと思えるようにしよう』

 

 

かつての遠い記憶、デスゲームが始まったその日に三人で誓った約束。なぜ、今これを思い出す?殺された二人は良かったなんて微塵も思っていないだろう。二人がいなくなってから、オレにそう思える日は永遠に来ない。だからせめて、この苦しみを他のヤツらにも──

 

「・・・あァガッ、まダ・・・まだ、終わらねぇ、必ず、全員、殺し・・・オレは、死なねェ──」

 

より一層強まる憎悪を吐露し、オレは意識を手放した。

 

 

 

 

 

♦️

 

 

<アスナside>

 

 

何が起きたのか、目の前の状況を説明することはアスナには出来なかった。

 

漆黒に染まった二本の剣を構えたサツキに、全てを破壊するかの鬼気を爆発させた”不滅”が攻撃を仕掛けたところまでは見えていた。しかし、瞬き一回の間に”不滅”の四肢と頸は斬り飛ばされ、その不死に近い身を爆散させた。

 

生き残ったみんなが歓喜の声を上げる中、倒れた彼の元へ駆け寄る。頬に浮かんでいた()は消え、漆黒に染まっていた目と髪そして剣は本来の姿に戻っている。

 

あの時と、亡霊王と戦った時と同じ現象だ。

 

「サツキくん・・・」

 

あの技は何なのか、彼は何者なのか、過去に何が、相棒と呼ぶ人とは─?自分の中に生まれた、彼についてもっと知りたいという感情に戸惑いながら、辛そうに唸させれているサツキの頭を優しく撫で続けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

♦️

 

 

<サツキside>

 

 

身を切り裂くような、鋭い後悔。

底が見えない深海のような、深い悲しみ。

全てを焼き尽くすかのような、激しい怒り。

 

 

()()()()()()()()()()()()()、とても強い感情だ。

 

だが不思議なことに、これほど強い感応現象を引き起こしている彼らの記憶は、俺に流れて来なかったのだ。いや、正確には見たことを覚えていないだけかもしれない。あの激闘の後に目覚めた俺は、とても長い夢を見たような気がしたからだ。それがどんなものだったのか、思い出せない以上知ることは出来ない──。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・以上で、本作戦の報告を終わります」

 

「うむ、ありがとう」

 

副団長の簡潔丁寧な事後報告を受けて尚、ヒースクリフは眉一つ動かさずに頷いた。

 

いつもは団長殿の威を借りてふんぞり返っている幹部たちは一人もおらず、だだっ広く感じる大広間で顛末を知らない俺とヒースクリフへの報告が行われていた。あの夜から丸二日経過している。俺は配られた資料に視線を落としながら呟いた。

 

「ラフコフは6人、俺たちは14人か・・・」

 

それは犠牲になった者の数。6人は俺が殺め、14人はユニークスキル持ちの幹部に殺された。二十五、五十層のボス戦に次ぐ被害だ。重い沈黙をヒースクリフの声が切り裂く。

 

「犠牲は出た。しかし、これでアインクラッドの秩序は少なからず良くなるだろう。今はただ、彼らが安らかに眠れるよう祈ればよい」

 

「・・・はい」

 

「そうだな」

 

ヒースクリフの言葉に頷く俺は、その言葉とは裏腹に氷のように冷めきったヤツの目に、言いようのない違和感を感じていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おっす、調子はどうだ?」

 

「サツキさん・・・あなたこそ、もう大丈夫なんですか?」

 

「ああ、ぶっ倒れるのには慣れてる」

 

冗談混じりの返答にシュガーは苦笑いする。それがどこかぎこちないのは、彼の後ろで窓の外をじっと見つめるノノが原因だろう。ベットの上で石像になったかのように微動だにしない。丸二日間、食事も摂らずにこの状態らしい。あの血戦を境に魂が抜けてしまったようだ。

 

「ノノちゃん、体に障るわ。何か食べましょう?」

 

副団長が優しく話しかけても反応はない。俺はこのような状態のプレイヤーを下層で腐るほど見てきた。生きる希望・目的を無くしたが故に陥る、抜け殻の状態。ノノにとってのそれは、不滅(アニマ)への復讐だったのだろう。

 

だがヤツが死んだ今、自分は何のために生きればいいのか分からないのだ。彼女の心情は苦しいほど分かる。本音を言えば、俺だってこのままそっとしておいてやりたい。

 

しかしそれは出来ない。彼女の持つ<抜刀術>はこれからの攻略において必ず力になる。それだけでない、彼女の攻略組としての経験、判断力、胆力は随一だ。たとえそれが復讐のためだけに磨かれたものだとしても、ここで失うわけにはいかない。俺はベット脇まで近付き、その名を口にした。

 

「チグネさん、DDAに殺されたんだってな」

 

反応はない。それでも俺は続けた。

 

「ヤツらの事だ、ユニークスキル持ちを仲間にして戦力強化を狙ったんだろうが・・・ネットゲーマー特有の嫉妬かなんかで目障りになり、他に渡すくらいだったら──ってところだろ」

 

「サツキくん」

 

副団長が咎めるが、俺は止まらない。

 

「チグネさんの仲間だったカイトさんも殺されてる。MPK(モンスター・プレイヤー・キル)でな。アニマはその光景を見せつけられ、そしてどういう訳か、死んだ二人のユニークスキルを受け継いだ」

 

「・・・何が言いたいの」

 

ここでノノが囁き程度の反応をした。二日ぶりの声に副団長とシュガーは驚いたようだが、この話には必ず反応すると俺は思っていた。

 

「お前は、アニマがチグネさんを殺したと思い込んでヤツに復讐しようとした。そしてアニマは、大切な人を殺したこの世界──アインクラッドで生きるプレイヤーたちに復讐をしていた。多少は違えど、復讐に取り憑かれたって意味では、お前たちは同じだよ」

 

「・・・ふざけないで」

 

怒りに染まった声。窓の外から俺に視線を向ける。

 

「あんな人殺しと、一緒にしないで」

 

「人殺し、ね。じゃあ俺もヤツと同類ってわけか」

 

「動機が違うでしょう。あなたは()()()()()で殺した。私もね」

 

「殺人に正しい動機なんてあるかよ。殺しはどうあっても、一生背負わなければならない罪だ・・・俺には、お前にそんな”覚悟”があるようには見えないんだがな」

 

「・・・ええ、そうね。最初から覚悟なんてしてないわ」

 

「それなら──」

 

「アイツを殺したら、死ぬつもりだったから」

 

冷たく吐き捨てるように放たれた言葉に、副団長とシュガーはもちろん俺も思わず息を呑んだ。重たい沈黙の中、ノノは続ける。

 

「私が今まで生きてこれたのは、アイツに復讐するっていう目的があったから。そのためなら、どんな事でも苦にならなかった。攻略組になったのも、ただの気まぐれ。最前線で戦っていればもっと強くなれるし、腕利きの情報屋に接触しやすいと思ったから。ゲームクリアとか、現実世界に還るためなんて思ったことは、一度もないよ」

 

息苦しさえ感じる中、俺は密かに()()した。今のノノなら、俺が伝えたかった本題に食い付いてくれるだろうと思ったから。

 

「じゃあお前は今、死にたいと思っているのか?」

 

「そうよ」

 

「そうか。まぁ、良いんじゃないか?」

 

即答したノノに、俺は冷たく言い放つ。予想外の返答だったのかノノは固まり、空気が張り詰める。

 

「死ぬな、なんて言うと思ったか?俺はそんな聖人じゃないからな。お前が苦悩した末の決断なら俺は止めないよ。理不尽なこの世界だ、最期くらいは自分の思うままにしたらいい。でもな」

 

冷たい声色に若干の怒りが込められる。

 

「お前にはまだ、やり残したことがあるだろ」

 

「・・・アイツは死んだでしょ」

 

「違うな。お前はアイツに囚われ過ぎで、本当の敵が見えていない」

 

俺はこの悲劇の確信をつく。

 

「DDA・・・<聖龍連合>に行くぞ。アイツらにもツケを払ってもらう」

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