ソードアート・オンライン ── 血盟の剣豪 ── 作:Syncable
<アスナside>
”最強”と謳われる血盟騎士団に対して、”最大”と言われるのが聖竜連合だ。
団長が選出した少数精鋭のKoBとは違い、それなりの実力と装備が揃っていれば加入可能なため、攻略組ギルドの中ではトップの規模を誇る。攻略初期に《軍》と並んで攻略組を率いていた
曰く、効率の良い狩場を秘匿・独占している。レアアイテムのためならば一時オレンジ化も辞さない、と。
彼らとの関係は、良くもなければ悪くもないとアスナは思っている。攻略の方針で多少のズレはあるものの、大きなトラブルが起きたことは一度もない。しかし彼らの活動は、攻略よりも自分たちが最強であることに注力されているのも事実だ。
大きくなる不信感を抱きながら、アスナはサツキたちと共に聖竜連合の本部に向かった。
「相変わらず大きいですね・・・」
「だな。バカみたいなコル使ったんだろうな」
サツキとシュガーが見上げるのは、天高く聳える巨大な建物だ。逞しい竜のギルドフラッグが靡く、聖竜連合の本部。血盟騎士団の新しい本部もかなりの大きさだが、それよりもさらに大きい。総額コルは想像しただけで恐ろしくなる。
「・・・」
はしゃぐ男二人に対して、ノノは静かに視線を向けていた。サツキに諭されここまでやって来たが、アスナにはまだ彼女が迷っている様に見えた。
言い方は厳しかったが、サツキの言うことは正しい。アニマを凶行に趨らせた元凶が聖竜連合なら、真に裁くべき相手は彼らだ。攻略組がプレイヤーを殺めたのが事実なら、見過ごすわけにはいかない。
「行くか」
「ええ」
先行したサツキに並んで、アスナは本部前で門番をしていた二人に話しかけた。
「こんにちは。私たちは血盟騎士団の者ですけど、今お時間よろしいですか?」
「KoB!?こんちゃーす!誰かに用事ですか?っても、最前線行ってるんでほとんど人いないですけど」
「リーダーは?」
「リーダーも幹部も全員出てってるっす」
「どうしましょう?上の人じゃないと話せないですよね」
「帰って来るの待つのもなぁ・・・」
ギルドの名誉に関わることだ。下手に話が広まってしまえば面倒なことになるのは目に見えている。どうしたものかと考える三人と、事情を知らずに首を傾げる門番二人。
「・・・リンド」
漂っていた微妙な空気の中、ノノが囁くように零したその名前はひどく耳に残った。サツキとシュガーは疑問符を浮かべていたが、門番の二人とアスナはその名前に心当たりがあった。
「リンドさんっすか?」
「あの人なら今日は残ってるはずだ。呼んでこようか?」
アスナたちが答えるより先にノノが頷き、門番の一人が本部の中へ入って行った。
「誰だ?リンドって」
「DKB・・・聖竜連合の元となったギルドのリーダーをしてた人よ。最近は攻略に参加していないみたいだけど・・・ノノちゃん、彼を知ってるの?」
アスナの問いに、ノノは視線をそのままに淡々と答えた。
「チグネさんをDDAに誘った人」
その声は酷く冷め切っていた。
♦️
<サツキsids>
戻って来た門番に案内されて通された部屋は、外観からは想像できないほど小さく薄暗い一室だった。SAOの環境再現度がもう少し高ければクモの巣でも張ってそうなそこに、簡素な木の椅子に腰掛けた一人の男がいた。
「・・・お久しぶりです、リンドさん」
「ああ・・・久しぶり、アスナさん」
ぎこちなく副団長と挨拶を交わした男──リンドは、淡い青髪を揺らしながら俺たちを一瞥した。
とてもじゃないが、攻略ギルドに所属しているとは思えないほどに弱々しい。闘志どころか生気もなく、やつれているように見える。
「こんな場所ですまないね。遠慮しなくていい。汚いが、楽にしてくれ」
促されるまま用意された椅子に座る。俺たちの正面に座るリンドは、視線を落として何も無い机を見つめていた。まるで、死刑宣告を待つ囚人のように。
その様子を見て俺は確信した。アニマの件、リンドは確実に絡んでいると。
しかしこうなると、どう話を切り出すか迷う。単刀直入に、お前が殺したのか?と聞くのは気が引ける。かと言って回りくどく聞いて曖昧になるのは避けたい。シュガーが気まずそうに目を向けてくるので、俺は副団長にアイコンタクトを飛ばすが、彼女もどう切り出すのか迷っているようだ。
自分の評判を落してストレートに聞こうかと画策していると、小さく、しかし確かな意思が込められた声が発せられた。
「なんで来たか、わかるでしょう?」
ノノのその声にびくりと体を震わせたリンドは、口を強く結び顔を引き攣らせた。何かに怯えるような素振りとは裏腹に、必死に何かを伝えようとする。その様子をノノは何も言わずに黙って見つめていた。
数十回の葛藤の末、リンドは消え入りそうな声を絞り出した。
「・・・すまない」
「話して、全部」
詰め寄る彼女の心情は読み取れない。
真っ直ぐ向けられたノノの視線を正面から受け止め、リンドは今度こそ話し始めた。
♦️
<リンドside>
あの三人と出会ったのは、レベル上げのノルマを終わらせて街に戻って来た時だったんだ。
ギルドの規模に合わない小さな本部に入ろうとした時、不意に後ろから声をかけられた。元気な、希望と期待に満ち溢れた声を今でも覚えてる。
「あの!俺たちをDDAに入れたください!」
「お、お願いします!」
振り返れば、土下座する勢いで頭を下げる二人と、それを見て苦笑いする一人がいた。突然の入団希望者でぽかんとする俺たちに、苦笑いをしていた少年が話し始めた。
「いきなりすみません。少しだけお時間いいですか?」
彼の話、三人がユニークスキル持ちだと言うのは信じ難いものだった。しかし後日、実際にその力を目の当たりにして信じざるを得なかった。
重力を感じさせない、軽やかで俊敏な体捌き。
あらゆる攻撃を無意味にする、不死に近い回復力。
全てを見通す、全能の眼。
異質なそのスキルは、攻略組でも十分に通用するほど強力な代物だった。三人が攻略組に、いや、DDAに加われば”最強”の代名詞に近付ける・・・そう思った。
少し話が逸れるが、当時のDDAは二つの派閥に別れていた。
俺が率いる《攻略重視派》と、現在のリーダーが率いる《最強重視派》だ。ゲームクリアを最優先とする俺たちに対して、一方は最強と言うなの名声を欲していた。レベル、装備、スキル・・・全ての質を上げることに固執していて、攻略はそのための手段に過ぎなかった。噂されている
そうした背景もあって、三人の存在は大きなものだった。彼らを《攻略重視派》に加えれば、ギルドの方針も変わると思ったからだ。俺は《最強重視派》のヤツらに気付かれないように三人と接触を重ねた。俺を支持してくれていた同志たちも交流を深め、計画は順調だった。
だが、予想していなかった誤算があった。
今まで最前線で戦い、死闘と仲間の死を乗り越えて強くなってきた自分たちでさえ、遠く及ばないほどに三人は強かった。たった一つのスキルによって埋まらない力の差。日に日に焦りは積もり、やがて醜い嫉妬へと変化した。
なぜスキル一つでここまで違うのか?
俺たちの今までは何だったのか?
このままでは、三人は俺たちに見切りをつけるだろう。そして最強派に入る、もしかしたら血盟騎士団に行ってしまうかもしれない。そうなればKoB最強の座は絶対になり、《最強重視派》はますます攻略から離れていく──
抑え切れない負の感情とグルグル回る想定は、いつしか俺たちを最悪の道へ導いた。
現状維持のために、なかったことにしよう。
三人を殺して、ゲームバランスを崩すユニークスキルを消してしまおう。