ソードアート・オンライン ── 血盟の剣豪 ──   作:Syncable

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Ep.41 懺悔

<リンドside>

 

 

 

最悪の道を選んだ俺たちは、三人をある場所に連れて行った。巨大なアリ地獄のようなすり鉢状のフィールド、DDAが秘匿している高効率狩場の一つだった。無数の牙を連ねた口を持つイモムシ型モンスターの巣で、フィールドにいる間は無限に湧いて出てくる。一歩間違えば集中攻撃される危険はあるが、攻撃を受けずに倒し続ければかなり効率が良い。ここを独占しているおかげで、俺たちはKoBに大きくレベルを離されずに済んでいた。

 

周辺に同志たちしかいないのを確認し、俺は傍で控える仲間三人に目配せした。

 

「今日はここか?」

 

「変わった所だね」

 

「下手したらヤバそうだけど、大丈夫なのか?」

 

流石の観察力でアニマが警戒するが、俺はいつも通りの()()()を演じた。

 

「大丈夫大丈夫!君たちなら楽勝だって!かなり効率良くレベルアップできるよ」

 

先に巣の中で戦闘しているメンバーを見本にして俺は戦い方を教えた。その最中に心のどこかで何かが軋む音が聞こえた気がしたが、気にせずに続ける。

 

「OK!んじゃ、いっちょやるか!」

 

「うん!」

 

説明を聞き終えたカイトが拳を握り、チグネも短剣を構える。アニマはフィールドを見たまま何かを考えているようだった。

 

──今しかない

 

三人の意識が逸れているその瞬間、俺の合図と同時に三本の短剣が彼らの背中に突き刺さった。

 

「・・・え」

 

「な・・・に」

 

ガクッとその場に倒れた三人を見下ろす。HPバーは黄緑色に染まっており、麻痺状態を表していた。俺は間髪入れずに指示を出す。

 

「縛れ」

 

簡潔な指示に控えていた一人が動き、チグネの手足を拘束アイテムで縛る。

 

「なに、やめて!やめてよ!」

 

バタバタと暴れて抵抗するチグネを三人がかりで押さえ付け、拘束アイテムを取り付けていく。ものの数秒で麻痺状態が解除されたようだが、これを想定しての作戦だった。

 

「おいてめぇら!なんのつもりだ!」

 

「チグネから離れろ!」

 

麻痺状態のままカイトとアニマが叫ぶ。巣の中にまだ数匹湧いているのを見て、俺は口を開いた。

 

「すまない・・・君たちには気の毒だが、こうするのが最善なんだ」

 

「何の話だ!早く解放しろ!」

 

「てめぇら、タダで済むと思うなよ!」

 

二人の怒号を聞きながら巣の中の戦闘を見守る。数分後、群れの湧きがピタリと止んだ。巣の中にいるメンバーが一斉にその場から走り出し、アリ地獄から脱出する。

 

「・・・来た」

 

地響きを鳴らしながら地中から現れたのは、今までのヤツらより何倍も巨大な個体だった。群れを一定数倒すと現れる親玉的存在で、その強さはフィールドボスに匹敵する。その巨体以上に厄介かつ危険なのは、体液に即効性の麻痺毒と猛毒が含まれていることだ。触れたら最後。体が動かなくなり、猛毒によってHPが減っていくのをただ見ていることしか出来ない。そんな格好の獲物を見逃すはずがなく、無数の牙を連ねた口で擦り裂くように捕食する──

 

「ああッ!クソッ!」

 

()をもつアニマは気付いたのだろう。これから行われる殺戮を、大切な仲間のその姿を。

 

全身にありったけの力を込めているが、その意思に反して体は動かない。絶望に染まるその眼に心の軋む音が大きくなるが、俺は無言で同志に合図した。同志たちがチグネを持ち上げる。

 

「いや!やめて、放してよ!」

 

「おい!やめろ!!」

 

「これがテメェら攻略組のやり方か!?」

 

声を無視して、チグネは拘束されたまま無造作にアリ地獄へと放り投げられた。止まる術もなく転がり、巣の一番下まで落ちていく。

 

それを感知した巣のヌシ──地獄の長虫(ヨルムンガンド)が地中から再び姿を現し、ゆっくりと恐怖に震える姿を楽しむようにチグネにその大口を開いた。

 

「やめろ、やめろぉぉぉぉ!!」

 

「ああぁぁぁ!!ダメだダメだ!!」

 

「いや、助け──」

 

小柄な体はいとも簡単に大口に呑み込まれ、形容しがたい不協和音を奏でた。その瞬間、俺の心は後悔と恐怖で粉々に砕け散った。

 

ヨルムンガンドの捕食攻撃は、脱出するまで猛毒と牙による継続ダメージを与え続ける。しかし麻痺によって自力での脱出は不可能であり、他の者が攻撃して怯ませるしかない。この特性を利用することで、ヨルムンガンドは対象を確実に殺すことの出来る処刑道具となる。

 

<超回復>を上回る継続ダメージで、チグネのHPは目に見えて減少していく。止まない恐怖の絶叫に防具と短剣が砕かれる音が重なる。あまりの惨たらしい光景に、俺たちは身動き一つ取れなかった。

 

「クソッ!クソクソクソクソクソがぁぁ!!」

 

「あ・・・あぁ・・・」

 

アニマは激昂し麻痺を解こうと暴れ、カイトは絶望し震えていた。

 

そんな地獄の光景に、一筋の光が煌めいた。

 

ヨルムンガンドの口から引かれたその光は、放物線を描いて地面に落下し軽い金属音を響かせる。

 

「・・・ぁ」

 

俺にはそれが何か見えなかったが、アニマはそれを見て固まった。直後、白く反射する光にヨルムンガンドの体液が覆い被さり、アイテム消滅時特有のエフェクトが爆散した。

 

同時にそれよりも儚く、しかし確かな破砕音がポリゴン片とともにヨルムンガンドの口から溢れ出した。

 

「ぁあ・・・アあアアあァァぁッッッッ!!!」

 

チグネの死を目の前にカイトは呆然とし、アニマは狂ったように叫び出した。

 

その絶叫はカイトが同じようにして死ぬまで続き、自らがヨルムンガンドに呑み込まれるその瞬間には、俺たちに対する憎悪と憤怒に染まっていた。

 

 

殺してやる・・・一人残らず、()()()

 

 

ヨルムンガンドを一瞬で屠り体内から生還したアニマは、その身に失なわれたはずの3つのユニークスキルを宿していた。その圧倒的な力の前に為す術なく蹂躙され、同志たちを犠牲に俺は一人でその場から逃げ出した。

 

逃げ帰った俺は<最強派閥>に尋問された。二十人近くが行方不明になったんだから当然だ。俺はアニマたちのことを伏せ、レベリング中にPK集団に襲われたと言った。<生命の碑>の同志たちの死因がPKになってたからだ。俺は責任を問われ、ギルド追放まではいかなかった─俺の人脈を手放したくなかったからだろう─が、攻略チームからは除外されギルドの運営に回ることになった。

 

あの日から今日まで、自分の犯した罪を後悔しなかった日はない。永遠に解くことの出来ない呪い。唯一の償いは、彼ら以上の苦しみを受けて死ぬことしかないだろう。

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