ソードアート・オンライン ── 血盟の剣豪 ──   作:Syncable

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Ep.42 葛藤

<サツキside>

 

 

 

リンドの血塗られた告白が終わり、室内はより一層重苦しい沈黙に包まれていた。

 

想像するだけでも身震いする惨たらしく残酷なその内容に、俺はどう反応すれば良いかわからなかった。副団長とシュガーも同じだろう。だが唯一、ノノだけはその小柄な体を小さく震わせていた。

 

「・・・・・・最悪」

 

絞り出されたのは計り知れない嫌悪を含んだ声。リンドの顔がさらに引き攣るのとほぼ同時に、彼の首元に雷光の如く閃いたノノの手が伸びた。

 

「よくも・・・!人殺し!返してよ!チグネさんを返してよ!!」

 

「ノノちゃん!」

 

リンドに掴みかかったノノをシュガーが引き剥がす。椅子が乱雑に倒れる音は、ノノの悲痛な叫びに掻き消された。

 

「なんで!殺すこと、ないじゃん・・・!アンタたちに何かした!?チグネさんが、あの人たちが殺されるほどの事をしたの!?ただ、ゲームクリアを、みんなで生きて現実に還ろうって・・・そのために、なのに・・・」

 

後半は涙で言葉にならなかった。

 

これ以上は無理だと判断したらしいシュガーが、大粒の涙を流すノノを連れて部屋を出て行った。俺と副団長も放心状態のリンドに背を向けて出て行こうとした時、蚊の鳴くような声で呼び止められた。

 

「・・・サツキさん、忘れ物だ」

 

訝しげに振り向いた俺の目に映ったのは、机の上に置かれた神秘的な結晶アイテムだった。この世界唯一の蘇生アイテムである《還魂の聖晶石》。相棒を生き返らせようと死にもの狂いで手に入れ、しかし蘇生は叶わず、当時俺と同じように探し求めていたリンドに高額で売り付けたものだ。当時は何とも思わなかったが、3人を生き返らせようとしたのだろう。

 

「金はいいから持って行ってくれ。俺が持ってて良い資格なんて、ないからな」

 

「・・・そうか」

 

聖晶石を受け取り、俺と副団長は今度こそ部屋を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

♦️

 

<ノノside>

 

 

 

「ねぇねぇ聞いて!なんとね私、DDAに仮入団することになったよ!」

 

「DDAにですか?スゴいですね・・・おめでとうございます」

 

追いかけていた夢を達成し笑顔を輝かせるチグネさんに、私は嬉しさの反面心配をした。攻略組でも屈指の勢力であるDDAだが、良くない噂も聞く。だがいつもより一段と目を輝かせるチグネさんを前に、その不安は徐々に消え嬉しさが勝っていった。

 

あの時に止めていれば、こんなことにはならなかったのだろうか?

 

私は攻略組にならず、様々な冒険譚を話しに来てくれるチグネさんを圏内で待ち続ける日々を、今でも送れていたのだろうか。

 

いや、違う。

 

あの時に、わずかに抱いていた本当の気持ちを伝えていれば良かったのだ。

 

──私も一緒に、チグネさんと冒険がしたい。

 

その一言が言えていたらと、後悔が濁流となって私を押し流していく。

 

毎日毎日、目が覚めれば涙で視界がぼやけている。心臓が握り潰されそうな苦しさに襲われ、立ち上がる気力すらなくなってしまった。

 

リンドから話を聞いた日から、私は過去の思い出に縋る日々を送り始めた。もう攻略組の、KoBとしての(ノノ)は死んでいた。

 

 

 

 

 

♦️

 

<サツキside>

 

 

 

「ノノが心配か?」

 

「それはもちろん、心配ですよ」

 

薄暗い通路を警戒して進む中、俺はシュガーに問いかけた。返答の声にはいつもの元気はない。

 

あの日からノノは戦意を完全に喪失し、無期限の休養を余儀なくされていた。副団長やギルドの女性隊員が面倒を見ているが、回復する兆しは1ヶ月近く経った今でも見えていない。面倒見のいいシュガーにとって、それなりの付き合いがあるノノの一時離脱を心配しないわけがないだろう。

 

「まぁ、俺たちにどうこう出来る問題じゃない。今は信じて待つしかないさ」

 

「・・・そうですね」

 

複雑な迷宮区を進みながら、ノノの回復をただ願うばかりだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・では明日、予定通り第67層ボスの偵察を行います。各人準備を怠らないように。解散」

 

簡潔に述べたシュガーはそのまま部屋を出て行く。今までの彼なら飯の誘いに来るのだが、最近はそういったことは無い。時間があればノノの元を訪れているようだ。

 

少し寂しさを感じつつも、俺は何も言わずに一人で夜の街に出た。

 

ちょうど夕食の時間帯だったらしく、街の広場や通りは人混みで溢れている。合間をすり抜けながら良さげな店を探すが、空腹の今はどの店にも惹かれてしまう。こういう時の優柔不断さはいつまでも変わらないなと思っていると、不意に後ろから肩をツンツンとつつかれた。

 

「はい──え?」

 

振り向いた俺が見たのは、暗い赤色のフードを目深に被った少女だった。わずかに覗くヘイゼルの瞳が俺を射抜く。

 

「副団長?」

 

「ええ」

 

「ええって・・・どしたの?そんな格好で」

 

副団長は周囲を気にしながら抑え目の声で言った。

 

「あなたが寂しそうに出て行くのを見てね、しょうがないからご飯くらい付き合ってあげようかなって思ったのよ」

 

「寂しそうって・・・否定は出来んな。付き合ってくれるのはありがたいけど、なんで変装みたいなことしてんの?」

 

俺の問いにそっぽを向き、やや言いづらそうに副団長は言った。

 

「誤解されて変な噂が流れるかもしれないじゃない」

 

「まぁ一理あるな。なら俺も目立たない格好にしとこ」

 

俺は赤と白で目立ちまくる血盟騎士団の制服から、夜の闇に溶け込む真っ黒なコートに装備を変更した。久しぶりに着る、攻略組になる前に愛用していた一張羅だ。副団長と同じようにフードを目深に被ると、俺は比較的空いている店を指さした。

 

「んじゃ、行こうか。あそこで良い?」

 

「ええ、任せるわ」

 

「あいよ」

 

俺が先導し少し間を空けて副団長が付いて来る。着替えたからか、先ほどまで感じていた周りからの畏敬の視線は消えていた。

 

空いている割には良さげな雰囲気の店内の一番奥の席に座り、置かれていたメニューを机上に広げる。料理名からどんなモノかを予測していると、対面に座った副団長がずいっと半身を寄せてきた。必然的に顔が近くなるが、副団長の視線はメニューに向けられていて他意はないようだ。俺もメニューに視線を戻すと、やや元気の無い声。

 

「サツキくんは・・・相棒さんを亡くした時、どう立ち直ったの?」

 

「んえ?」

 

予期せぬ質問に変な声が出る。しかし至極真面目な副団長の雰囲気に、俺はその真意を汲み取り答えた。

 

「んー・・・立ち直ってはないかな」

 

「え?」

 

気になった料理をいくつか選び、注文を済ませてから俺は続けた。

 

「今でも相棒が死んだのを受け止め切れてないよ。でも”約束”を守るために、悲しんでいる暇なんてないからな」

 

「”約束”?」

 

「ああ」

 

現実では有り得ない速度で料理を運んで来た店員NPCを見送り、俺はあの日を思い出す。

 

「『君を必要とする人を、助けてあげて』。それまで誰かの為に戦うなんて微塵も考えなかった相棒が、なんで最期にそんなことを言ったのかは分からん。まぁ、おかげで俺は攻略組っていう新しい居場所を見つけてこうして生きてるわけだ。いつか天国で会うことがあったら聞いてみるさ」

 

俺の様子と話の内容が違い過ぎたのか、副団長は一瞬固まった後に口を開いた。

 

「そう、なのね。ごめんなさい、何も知らずに」

 

「いやいや・・・ノノの件だが、俺たちは信じて待つことしか出来ないんだから、あまり思い詰めることは無いぞ」

 

「・・・ええ」

 

一向に快復に向かわないノノの状態に、副団長は要らない負い目を感じているのだろう。こればっかりはどうしようもない問題だ。何とかしたいと思う気持ちも分かるが、それで自分を追い詰めるのは間違っている。

 

「大丈夫、ノノは強い。人間としてな。必ず帰ってくるから気長に待とう」

 

「・・・ありがとう」

 

副団長は小さく笑みを浮かべた。その美しく可愛げな姿に思わずドキッとなり、誤魔化すように料理に手を付ける。そんな俺に続いて副団長も料理を食べようとして、その手を止めた。入口に向けられた彼女の視線を辿ると、そこに見知った姿を見た。

 

「お、キリト」

 

「サツキ・・・アスナ」

 

あの作戦以来の再会となるキリトと、サチが驚いた様子で立っていた。




9月まで忙しいので亀更新です。
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