ソードアート・オンライン ── 血盟の剣豪 ──   作:Syncable

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Ep.44 虚ろな光

<サツキside>

 

「「「スイッチ!!」」」

 

不気味な冷たさに包まれた戦場に、一寸違わない号令が響く。

 

俺は霊剣(レーヴァ=テイン)で眼前に迫った鋭利な()を払い退け大きく後退した。と同時に、偵察隊で一二を争う筋力自慢の槍使いが俺の前に飛び込み、なぎ払われた()を力任せに押さえつける。

 

「キィィィッ!」

 

どこか苛立ちを含んだ絶叫を上げるのは、恐ろしくも美しい()()を武器とする人型の第67層ボス<哀者(ザ・サッド)>だ。

 

「右側方、来ます!」

 

「あいよ!」

 

俺はシュガーの警告に合わせて二連撃技”バーチカル・アーク”を放ち、長く伸びた髪を斬り伏せた。しかし斬られた髪はすぐに再生する。

 

偵察戦を始めてから約一時間、特に危険を感じることもなく順調にボスの情報は集まっていた。長髪による遠距離攻撃は厄介ではあるが、対処に慣れてしまえばどうと言うことは無い。ボスのHPはすでに黄色に染まっている。特徴のない層のボスなんてこんなものだろう。偵察のベテランである面々は、おそらくそう思っているはずだ。

 

しかし、俺にはどうしても気になることがあった。

 

ボス部屋の奥に建つ祠のようなもの。位置を考えると、次の層への螺旋階段の入口だろうが、そのデザインが今までとは少し違う。クエストのキーアイテムやキーポイント特有の存在感を感じるのだ。確証はない。だが俺のゲーマーとしての勘が、あの祠に目を引かせる。

 

「シュガー!どうする?もうちょい続けるか?」

 

陣形の後方で同じく長髪の処理をしていたシュガーも、祠の存在を無視出来ずにいるようだ。しかし流石の判断力でシュガーは指示を飛ばす。

 

「陣形を変更します!B・C班は更にボスに接近して攻撃を引き付けてください!A班は迂回してボスの後方へ!」

 

「「「了解!」」」

 

各人が瞬時に行動に移り陣形を変えていく。A班を先導するシュガーが例の祠に向かうのを見て、俺は彼の思惑を悟った。

 

B・C班の牽制を掻い潜って伸びてきた髪を班員に任せ、俺とシュガーは祠までたどり着いた。

 

「どうだ?」

 

「見たところ普通のオブジェクトみたいです。開けられないので、やっぱり階段の入口なんでしょうか?」

 

「如何にも何かありそうなんだけどなぁ」

 

古びた祠に鍵穴などはなく、無理やりにでも開けるのは難しそうだ。戦況が大きく変わる節目であるボスのHP半減でも変化がないので、本当にただの杞憂だったのか。

 

「とにかく、一度戻りましょう」

 

「だな」

 

余裕とは言え、ボスを相手にしてる中いつまでも考えているのは危険だ。

 

二十分かけて少しずつ後退し、俺たちは死亡者ゼロで偵察を終えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「だから言っタロ、ボスに関係ありそうなクエは無いっテ」

 

「あんたの腕を疑うわけじゃないが、本当に無いのか?見落としてる可能性は?」

 

6()7()()()()()全NPCを調査済みダ。分かったのハ、悲惨な最期を遂げた女性が恨み怒りでモンスターになったってコトだけダヨ。実際にそうだったンだロ?」

 

「そうだけど、何か気になるんだよなぁ」

 

偵察明けの昼下がり。どうしても祠の違和感が消えず、報告はシュガーに任せて俺はアルゴと会っていた。事前に入手していたボスの情報に間違いは無く、祠に関するものは一つもない。

 

「でもサー坊の言う通り、気にはなルナ」

 

「だろ?」

 

「そんな明らかなオブジェに仕掛けがないとも思えナイしナ」

 

少し考えた素振りのあと、アルゴは頷いた。

 

「わかっタ。もう少し調べてみルヨ」

 

「助かる。何か掴んだら教えてくれ」

 

「報酬は高級ディナーのフルコースで良いゾ?」

 

「任せろ、とびっきり美味いヤツ食わせてやるよ」

 

雑踏にまぎれて行くアルゴを見送り、俺は副団長にメッセージを飛ばした。アルゴに追加調査を依頼した事と本戦の延期を提案した内容への返信は、了解の旨とお疲れ様の一言だった。

 

空を見上げながら、俺は胸に残った嫌な予感を無理やり押し殺した。

 

 

 

 

 

♦️

 

<アスナside>

 

 

 

「じゃあボス戦は延期したのね」

 

「うん、少しだけね」

 

出された紅茶に手を伸ばしながらアスナは答える。ひと仕事終えて休憩に入ったリズベットは、よっこらしょと女子に似つかわしくない声とともに椅子に腰掛けた。

 

シュガーから報告を受けたアスナは、予定外の空き時間をリズベットの元で過ごしていた。突然の来訪にも関わらずリズベットは快く歓迎し、遅めの昼休憩を取った。

 

「まぁ慎重になるに越したことはないわ。誰も死なないことが一番よ」

 

「うん。偵察隊のみんなが、サツキくんの言うことだから何かあるんだと思うの」

 

何気なく言ったアスナの言葉に、リズベットは目を丸くした。

 

「へぇ、アスナも変わったわね」

 

「そうかな?」

 

「そうよ。最初の頃はスピード重視で、寝ても覚めても攻略!って感じだったのに。最近は落ち着いたっていうか、周りの意見をよく聞くようになったわ」

 

「確かに、前よりは慎重になったかも」

 

リズベットに指摘されアスナは自身の変化を感じた。”攻略の鬼”とまで呼ばれた頃の面影はいつの間にか消えている。いつからだろうと考えていると、リズベットが答えを出した。

 

「サツキが攻略組に入ってからかな、だいぶ丸くなったわよ。キリトとコンビ組んでた時もそうだったけど」

 

デスゲームに囚われ自暴自棄になっていた時に、ゲームクリアの道を示したキリト。

 

己の無力さに打ちのめされていた時に、道を示す新たな光となったサツキ。

 

この世界でアスナという人間を救い、変えた二人の存在は間違いなく大きい。

 

「で、どっちがいいの?」

 

「え?」

 

リズベットの問いに今度はアスナが目を丸くした。

 

「だ・か・ら!あの二人でイケてるのはどっちよ?あ、もちろん男としてね」

 

「な、なに言ってんのよ!そんなんじゃないわ」

 

首をブンブンと振ってアスナは否定するが、それがかえって裏目になりリズベットはニヤニヤと笑みを浮かべて詰め寄る。

 

「えぇ〜なんだかんだお似合いだと思うけど。でもキリトはもう相手がいるんだっけ?じゃあサツキかな〜」

 

「だから違うってば!なんでそうなるのよ」

 

「だって、ここ最近アスナが話すことってサツキのことばっかだもん。自覚なかった?」

 

言われてみれば、リズベットに話すことといえばサツキの話題がほとんどだった。攻略の時はもちろん日常の他愛ないことも。今さら気付いたアスナは思わず沈黙する。より一層ニマニマと笑みを深めたリズベットは、何も言わずにアスナの答えを待っている。絶対逃がすまいとするその視線に負け、アスナは消え入りそうな声をこぼす。

 

「確かに、少しは意識してるかもしれないけど・・・攻略組として頼りになる仲間ってだけで別に、好きとかそんなんじゃ・・・」

 

「──ほほう、これが俗に言うツンデレってやつか」

 

背後からすっかり聞きなれた声がして、アスナは反射的に振り返った。いつの間に入ってきたのか、声の主はどこか納得したように頷いている。

 

「さ、サツキくん!?」

 

「おっす副団長、奇遇だな」

 

偵察の疲れを感じさせないサツキは、背中に提げていたカタルシスをリズベットに手渡した。

 

「んじゃ、頼むわ」

 

「相変わらずボロボロね。もうちょっと優しく扱いなさいよ」

 

「これでも慈愛の心で使ってんだけどな」

 

肩をすくめるサツキに、アスナは高鳴る鼓動を抑えつつ聞いた。

 

「サツキくん、いつから聞いてたの・・・?」

 

「え?ずっといたわけじゃないぞ。少し意識してる、頼りになる、好きってわけじゃないってとこからかな」

 

「なっ!?」

 

一番聞かれたくなかったところをピンポイントで言い当てられ、アスナは顔が急速に熱を帯びるのを感じた。したり顔のサツキと必死に笑いを堪えているリズベットに弁明するも、はいはいと流される。

 

結局その日は、調子に乗ったサツキの<ツンデレ副団長>呼びに、アスナの本気の拳が閃いてお開きになった。

 

 

 

 

 

 

♦️

 

 

 

 

右へ、左へ、薙ぎ払う。

 

単純なこの動作を、かれこれ一時間は続けただろうか。

 

両手に握った身の丈ほどもある鋼鉄の()は、凍り付くように冷たい。長時間の戦闘で高揚した体温とは真逆に、襲ってくる屍人(モンスター)を斬り伏せるほどその冷たさは増しているように思える。死神の鎌のような不気味な武器だが、()()()()()()()()()()()にはお似合いだろう。

 

後悔と自分への嫌悪が渦巻く頭に、派手なファンファーレが響く。聞き飽きたレベルアップを知らせるそれを合図に、私はソードスキルを発動させた。周辺に紅の軌跡が無数に刻まれ、一斉に飛び掛ってきた群れを消し飛ばす。

 

開かれた道を脇目も振らず走り抜け、戦線から離脱する。後ろから聞こえる数体の声を無視して、ひたすらに走り続ける。

 

あの日、親友を見捨てた時のように。

 

今日も私は、恐怖と絶望から逃げ続けている。




やっぱりSAOと言ったらアインクラッドです
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