ソードアート・オンライン ── 血盟の剣豪 ── 作:Syncable
♦️
「・・・大丈夫、か・・・?」
本物の侍の様な威厳がある声に、無意識に体が硬直する。私を一瞥した侍は身を翻すと、部屋の奥に開かれた
「待って!」
その背中に私は声をかけ、束ねた長髪を揺らして振り向いた侍に駆け寄った。
「その、助けてくれてありがとう」
「・・・いや、私こそ、すまなかった・・・近くに、居たことに、気付かなかった・・・」
「どういうこと?」
謝罪の意味が分からないでいると、侍は信じられないことを言った。
「・・・先ほどの、
「鍛錬って、あんな危険なやり方しなくても」
私の言葉に侍は仮面の下で自虐的に嗤った。
「・・・こうでも、しなければ・・・あの高みに、達せられぬ・・・」
あの群れを一瞬で掃討する実力があるのに、さらに強くなろうとしている彼に私はある種の恐怖を感じた。それでいて攻略に参加していないのだから、彼の行動原理が分からない。
いやもしかしたら、私と同じなのかもしれない。
「・・・そなた、名前は・・・?」
「ミトよ。あなたは?」
「・・・ルナ・・・ミト、一つ、頼まれて、くれないか・・・」
「命の恩人だもの、私に出来ることなら」
そう言うとルナは部屋の奥、意味深に設置された
「・・・あの中を、調べてほしい・・・私はここで、湧いてくる、ヤツらの相手を、する・・・」
「まだ湧いてくるの?」
「・・・この部屋に、いる限りは・・・無限に、湧いてくる」
「わかった」
ルナは入り口に向き直り私は
「これは・・・」
書かれていた文字は所々が掠れているが、その内容に私は血の気が引くのを感じた。嫌な予感が全身を駆け巡った。
「もしかして・・・そんな・・・!」
私は紙を握りしめてルナの元へ走った。
♦️
<サツキside>
2つに分かれた体が爆散するのを見て、ボス部屋は阿鼻叫喚の地獄と化した。
その様を見て、感情のないはずの2体のボスが卑しい笑みを浮かべたように俺には見えた。
楽勝と思われたボス戦は、突如として現れた
「なんで、HPはないはずなのに・・・!」
初めて見るHPが0で動き続けるモンスターに、シュガーと副団長でさえ混乱と恐怖に包まれている。俺は止まりそうな頭を無理矢理加速させて考える。
嫌な予感は的中した。ボスが2体、更にはHPが0でも死なないとなれば何か特別な条件があるはずだ。絶対に勝てない、なんて理不尽な仕様はSAOでは有り得ない。
考えろ!何か見落としているはずだ・・・!
おそらくボス攻略のヒントである何かが抜けている。だがそんなことを悠長に考えている暇なんてない。崩れた陣形に、今まさに2体のボスが牙を剥こうとしている。
「落ち着いて!陣形を立て直して防御と回避に集中!隙を見てG班から
焦燥に駆られた副団長の指示に、各班は震えながらも動き出した。しかしそれは、嬉々とした様子のボスの前ではあまりに遅過ぎる。
「アァアァアアァァ・・・」
無造作に、しかし確実にラバリィの鎌は逃げ惑うレイドメンバーの命を刈り取っていく。一つ、二つと命の破砕音が奏でられていく。心做しか、サッドの長髪による攻撃の速度と威力が増しているようにさえ思えた。
恐怖で腰を抜かした1人に、ラバリィが鎌を振り上げたところで俺は堪らず駆け出した。
ラバリィの前に躍り出て両手の剣をクロスに合わせ、振り下ろされた鎌を受け止める。途方もない衝撃に大量の火花。押し戻そう、などと言う次元の話ではない。押さえつけるのに精一杯で、少しでも力が抜ければ真っ二つにされてしまう。
「ッ!ああぁッ早く離脱しろ!」
俺の叫びに反応した数人が、転移結晶を取り出す気配を感じた。
だが直後、俺にのしかかっていた鎌の重さが消えた。
「ッ!?」
顔を上げると、眼前に迫っていた鎌が、いやラバリィ自体が消えていた。どこに行ったと視線を巡らせた先で、無情にも鎌に両断されたメンバーと目が合った。その手には転移結晶が握られている。これは──
「ッ!クソッ!ダメだ、転移結晶を使うな!」
血反吐を吐くかの俺の警告は遅過ぎた。ラバリィは、その巨体に似つかわない速度で次々と鎌を振るう。ターゲットされた者は全て、離脱のために転移結晶をその手に持っていた。
無数の種類いるモンスターには、特殊な特性を持つものがいる。動物型なら火を怖がり、聴覚が発達したヤツは大きな音に弱い等だ。プレイヤー側が有利になるものもあれば逆に、厄介な特性を持つものいる。
それが《攻撃優先》だ。ヘイト値に関係なく、条件を満たすプレイヤーがいれば最優先で攻撃するもので、状態異常になった者、レベルが一番低い者、女性であること等様々な種類がある。
初見で気付くのは難しく、戦線が崩れて全滅したなんで珍しいことではない。
今までのボスでこの特性を持ったヤツはいなかった。ましてや、結晶を持つ者を優先するなど初めてだ。即死級の攻撃力のボスに狙われるため結晶が使えない。実質、ここは《結晶無効化エリア》と同じだ。
全滅──という言葉を頭から叩き出して、俺は悲鳴と絶叫をかき消すほどの大声を出した。
「全員聞け!結晶を使おうとするとタゲられる!攻撃を躱しながらゆっくり扉まで後退するんだ!近くのヤツと隊形を作り直せ!」
言い捨てて俺はラバリィの元へ走る。こちらに気付いたヤツがゆっくりとその醜い顔を向けてくる。込み上げてくる恐怖を押し殺しながら、俺は心の中で強く念じる。
──守る!これ以上、誰も死なせない!
俺の決意に呼応してか、2本の愛剣がその刀身を黒色に染めた。視界がモノクロームになり、ラバリィの姿をくっきりと映し出す。恐怖に打ち勝つように強く、優しい力が全身を包み込んだ。
「アアァァァ・・・」
持ち上げられた鎌がモノクロームの世界で真紅に染まるのを見て、俺は漆黒のカタルシスを構えた。
「はぁぁぁっ!」
斜めに斬り上げる両手剣カテゴリ・”サイクロン”で鎌を受け止める。大音響とともに二つはせめぎ合い、俺は間髪入れずに
<暗黒剣>連撃技・”常闇剣舞”
通常のソードスキルはシステムがプレイヤーを半強制的に動かしてくれるが、この技は俺の動きに合わせてシステムがアシストをしてくれる。言わば型のない自由自在なソードスキルだ。俺が意図的にキャンセルするか、被弾するまでアシストは継続される。
黒閃がラバリィの腹部を捉え、初めてそのHPを減らした。
一撃喰らわせ、回避し、捌き、また一撃見舞う。強力なシステムアシストとモノクロームの視界のおかげで、俺は単身でラバリィを足止め出来ていた。
──このまま・・・早くみんな、離脱しろ!
死闘の片隅で俺は祈った。
だがこの世界で祈りが通じたことなんて、一度もなかった。
「・・・ァアー、アアアァアァァァァア!」
今までと違う呻き声を上げて、ラバリィは両手の鎌を高々と掲げた。新たな攻撃を警戒する俺の目は、ヤツの鎌に現れた変化を見逃さなかった。
禍々しい形状に変化はない。
だが、放つ輝きが違うのだ。
何かに濡れたような、独特な光の反射。俺はアレを見たことがある。
そうだアレは・・・SAO最初期の頃、
「──ッ!」
ズキリと頭痛がした直後、ラバリィは両手の鎌を無茶苦茶に振り回し始めた。
読めない連続の攻撃をどうにか捌いていく。
そして俺は、猛攻の中で部屋全体に飛び散るように広がっていく雨粒のような物を見た。モノクロームの世界でそれは、まるで赤い雨の様だった。
「ダメだ!
鎌の回避に徹しながら警告する。だが雨の様に降り注ぐソレを避ける事など不可能だ。サッドの攻撃を防ぎながら後退していたメンバーたちは、状況が分からないままソレに触れる。
直後、メンバーのプレイヤーネーム横にアイコンが追加された。それは俺の視界左上に小さく表示された副団長とシュガーも例外ではなかった。2人のそれを見た俺は、戦慄とともに息を呑む。
表示されたのは、一定時間声が出せなくなる《沈黙》と、視力を失う《盲目》のデバフアイコン。
数ある状態異常でも最悪と言われるものだった。
サクサク(?)いきます