ソードアート・オンライン ── 血盟の剣豪 ──   作:Syncable

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最近知ったのですが『67』のエンジェルナンバー(?)は「自分の直感を信じて」だそうです。


Ep.47 ホープフル・サイス

♦️

 

 

 

「・・・素晴らしい」

 

ヒースクリフは世界の支配者として感嘆の声をこぼした。

 

管理者用ウインドウに映し出された剣豪(サツキ)最凶(ラバリィ)の戦いを鑑賞していた彼は、自分の思惑が現実であったことを確信していた。

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()に急遽追加した《奪者(ザ・ラバリィ)》は、クウォーターポイントのボスに匹敵する強さをしている。体格やHPは大きく差があるが、その厄介さは今までのボスとは比較にならない。

 

プレイヤー側が不利になる各種の状態異常をランダムに付与する()が、ラバリィの鎌に塗られているのだ。直接攻撃を受けることはもちろん、鎌が振られ飛び散ったものに触れるだけで状態異常に陥る。

 

広範囲の状態異常攻撃という類を見ない仕様だが、解除アイテム以外にも救済の措置はしっかり用意してある。それに気付くためには隠されたヒントを得る必要があったのだが、その前にボス戦が始まってしまったので”詰み”の状態だ。

 

良くて半分死に、最悪の場合だと全滅を考えていたヒースクリフ。しかしその予想を良い意味で裏切ったのは、サツキだった。

 

 

全てのソードスキルを使えるようになるユニークスキル<剣豪>

 

全ての、と言ってもそれは()()()()()()()()()()()()()話だ。だからヒースクリフの<神聖剣>やノノの<抜刀術>などは例外となる。

 

 

・・・はずだった。

 

 

最初にそれを確認したのは、クリスマスの日。

 

次は《亡霊王》との戦闘。

 

その次は、”笑う棺桶(ラフィン・コフィン)”討伐作戦の時。

 

 

バグだと思われたその現象は、世界の理を超越してサツキが引き起こしていた”奇跡”とも言えるものだった。

 

右頬に蠢く痣が浮かび、本来の色を塗り潰すように漆黒に染まったサツキが、()()()()()()()()の姿と重なる。

 

ヒースクリフに自然と笑みが浮かんだ。歓喜の笑みが。

 

「期待しているよ、サツキ君」

 

叶わないと思っていたかつての”最強”との戦いを思い描きながら、ヒースクリフは67層ボス戦を鑑賞し続けた。

 

 

 

 

♦️

 

 

<アスナside>

 

 

──声が、出ない。

 

自分の身に起きた異常にアスナは混乱した。

 

そしてその異常は、目の前でバタバタと倒れていくレイドメンバーたちにも起きていることは明らかだった。

 

「なんだよ、これ!」

 

「どうなってんだ!いきなり、体が・・・」

 

表示されたプレイヤーネームの横に、先ほどまでは無かったアイコンが追加されていた。毒、麻痺、火傷、凍傷・・・メンバーそれぞれが、あらゆる状態異常に陥っている。

 

「あ、アスナさん!みなさん!」

 

声の方を向くと、両手剣を構えながら辺りを探るシュガーがいた。ネーム横のアイコンは《盲目》。アスナが喰らった《沈黙》よりも危険なものだ。視界ゼロの彼とは声でしか意思疎通が出来ないが、それを封じられたアスナには何も出来ない。

 

再び崩れた戦線を見回しながら、アスナは思考を加速させた。

 

この状態異常は間違いなくボスによるものだ。しかしアスナはもちろん、全員が回避に徹していたので攻撃を受けていない。単身でラバリィを食い止めているサツキは、今のところ状態異常になっていない。

 

ふと、自身の団服の肩に何かが付着しているのにアスナは気が付いた。

 

ただの汚れエフェクトではない。よく見ると、状態異常になった全員にも同じものが付着している。考えられるのは一つ。

 

()()に触れたから・・・!?)

 

サッドの攻撃に集中していたせいで、アスナを含むほとんどが気付かないうちに何らかの攻撃を受けていた。いや、正確には攻撃と呼べるものではない。

 

声を出せないもどかしさを抑え、アスナは考える。

 

(サッドが特殊な攻撃をしたとは思えない。フィールドのギミックでもなければ、あとは──)

 

核心に迫った時、左上に表示されたサツキのHPが大きく減少した。反射的に見ると、パリィに失敗したのか肩に真っ赤なダメージ痕を刻んだサツキが大きく後退してラバリィと距離を取っていた。

 

HPを3割ほど減らしたラバリィに対し、サツキは危険域(レッド)寸前だ。いくら彼でも、このままでは・・・

 

全滅──という言葉が全身を支配する。恐怖と混乱の声が遠ざかる。

 

(これで、終わり・・・?)

 

あの時と、50層ボス戦と同じくアスナは動けなかった。

 

全身から力が抜け、アスナはその場にへたり込んだ。

 

不思議と落ち着いていて、恐怖はなかった。何時かはこの時が来るだろうと予感はしていた。覚悟は出来ていた。

 

 

 

『明日奈、もうすぐ模試でしょう?大丈夫なんでしょうね』

 

『頑張ってるならいいんだ。心配させないでくれよ』

 

『大丈夫、お前はよくやってるよ』

 

今となっては遠い、家族の記憶を思い出す。厳しい家だったが、求められたことに応えようと必死になっていた。必死に還ろうとした。

 

 

『大丈夫。私が、守るから・・・絶対にアスナを危険な目に合わせない』

 

焼けるような夕焼けに染まった草原で、そう約束してくれた親友。それが果たされることはなかったが、恨んだことは一度もない。突然の別れから再会することはなかったが、彼女ならきっと大丈夫だ。

 

 

 

回想にふけていると、ソードスキルでサツキを退けたラバリィがその醜悪な顔をアスナに向けた。

 

冷たい戦慄が走る。

 

明確な殺意をもって、ラバリィは鎌を掲げた。

 

それを見たサツキが必死に何かを叫んでいるが、アスナには届かなかった。黒く染まった瞳が何かを訴えている。全てを包み込む夜の闇のように深く、優しい瞳。

 

ラバリィは躊躇なくその腕を振るい、鎌を投擲した。

 

近付く死の瞬間に、アスナは目を瞑って身を任せる。

 

 

 

 

「──はぁぁぁぁぁぁッ!」

 

直後に聞こえた声を、アスナは幻聴だと疑わなかった。

 

聞こえるはずのない、この場にいるはずのない人の、懐かしい声だったから。

 

ガキィィィンッ!と甲高い音とともにアスナは目を開いた。

 

 

アスナの命を刈り取るはずだった禍々しい鎌は、対称的に優美な輝きを放つ()に弾かれていた。その衝撃で禍々しい刀身から何かが飛び散る。アスナは瞬時にそれこそが状態異常の元凶なのだと直感するが、声に出すことが出来ない。

 

しかしアスナの意図を見透かしているかのように、乱入者は雨の様に降りかかるそれを、()を高速で振り回して弾き飛ばした。

 

薄紫色の長髪が揺れ、アスナは今度こそ息を呑んだ。

 

「・・・ごめん、アスナ」

 

親友(ミト)は一言そう言うと、アスナを守るようにラバリィに向き直る。

 

アスナはその背中に、かつて抱いていた以上の安心と頼もしさを感じていた。




ようやくミト登場回でした。
なるべくキャラ崩壊しないように頑張ります。
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