ソードアート・オンライン ── 血盟の剣豪 ── 作:Syncable
<サツキside>
突如現れた大鎌使いに、俺は驚きを隠せなかった。
一撃死しかねない攻撃の前に躍り出て防ごうとするなど、余程の胆力がなければ出来ることではない。さらに目を見張るのは、武器の取り扱いだ。アインクラッド広しと言えど《鎌》を主武器にしている者は少ない。他武器と比べて扱いが難しいからだ。しかし彼女は、身の丈ほどもある大鎌を軽々と自在に扱い、降りかかった毒すらも吹き飛ばした。
攻略組で彼女を見たことはない。しかし、かなりの実力者であることは明らかだった。
「────」
攻撃を防がれたことに腹を立てたのか、俺には目もくれずラバリィは鎌使いの元へ向かって行った。ヤツのソードスキルを喰らったことで《失聴》の状態異常になった俺に周りの音は一切聞こえないが、依然として切迫している状況なのは目に見えている。
俺がポーションを飲み終えて走り出すのと同じタイミングで、ラバリィが鎌使いを目掛けてダッシュした。
振り上げられた禍々しい鎌を見て、鎌使いは二連撃技・”ベネディクション”を発動させた。初撃の斬り上げでラバリィの攻撃を受け流すと、横薙ぎの二撃目が腹部にヒットしHPを減らす。わずかに出来た隙を見逃さず、さらに二連撃技・” ライテスネス”で追撃する。
「はああぁっ!」
怯んだラバリィに追い付いた俺は短剣カテゴリ単発技・” ラピッドバイト”で背中を抉る。確かな手応えを感じ、さらに片手鎌カテゴリ・” ウッドペッカー”を見舞う。反撃を喰らう前に俺と鎌使いは意図せず同じタイミングで大きく後退した。
のらりとした動作で毒塗りの鎌を拾うラバリィを警戒しながら、俺たちは固まったままの副団長に近付いた。鎌使いがポーチから取り出した《咳止めポーション》を手渡すと、副団長は一息に飲み干す。
「────」
次いで俺に何か話していたが、失聴状態の俺には何も聞こえない。ジェスチャーでそれを伝えると幸いにも意味が伝わったらしく、薄ピンク色の《感音ポーション》を差し出してくる。通常時に使えば一時的に<聞き耳スキル>の効果が得られ、失聴状態時にはそのデバフを打ち消す。ありがたくそれを受け取って飲み干すと、静寂から一転、阿鼻叫喚の地獄へと引き戻された。
「──聞こえる?」
「ああ。助かった、ありがとう」
凛としたその声はどことなく副団長に似ているように思えた。
「・・・ミト、ミトだよね・・・?」
消え入りそうな、か細い副団長の声。ミトと呼ばれた鎌使いの少女は何かを言いたげにするが、沈黙でも喰らったかのように何も言えずにいた。ワケありと思われる2人の関係を知りたいと思う気持ちを押し留め、俺は無理やり本題に入った。
「悪いんだけど、もう少しだけ協力してくれないか?」
「・・・もちろんよ。そのために来たんだから」
「心強いな。まぁ見ての通り”詰み”な訳だけど・・・もしかして、ボスについて何か知ってる?」
「・・・」
ラバリィとサッドを一瞥した鎌使い─ミトは、希望とも絶望とも言える答えを口にした。
「・・・アイツらは、
♦️
<ミトside>
「・・・ミト、何かあったか・・・?」
目にも留まらない速さで残党を処理したルナに、私は握っていた紙を差し出す。古びたそれに書かれていた事は、私の予想通りならば最悪の結果を予兆していた。
哀しき呪縛に囚われた者
死して尚、城を彷徨う命を救わんと、全てを奪う醜き者
そのエモノを潤す血毒は、生者の万物を侵す
輝石の光は、彼の者には眩しい
両者の間には、何者も入らん
堕ちた魂は、二つで一つ
断たんとするなら、共に滅ぼせ
「・・・これは・・・」
「多分、67層ボスの攻略ヒントじゃないかな。情報屋が最近、躍起になって探してたんだ。偵察で何か違和感があるって」
必要最低限の用事でしか街中を出歩かない私でも、ボスの情報を求める声は耳に入っていた。しかし自分が生き残るために必要なこと以外には一切目を向けていなかったので、攻略に役立つ情報を知っているはずがなかった。
しかし偵察で判明していたボスの名が、最初の一文である哀しき者と一致している。二文目からは何を指しているのか分からないが、これこそ偵察隊が感じていた”違和感”の答えとなるのではないか。
「どうしよう・・・もうボス戦は始まってるはず」
「・・・伝えに、行けばよかろう・・・」
「私がボス部屋まで?無理よ、私は・・・」
レベル的には問題ではない。でも私には出来ない。
もし間に合わなかったら、かつて犯した過ちを繰り返してしまうから。
深刻な顔をしていたのだろう。ルナは私に一つの提案をしてきた。
「・・・直接、伝えられないのなら、誰かに依頼、すると良い・・・」
「そんな危険なこと、引き受けてくれる人いるかな?」
少し間を置いて、ルナは言った。
「・・・攻略組に、信頼され、いち早い伝達が、可能なのは・・・情報屋の《鼠》だろう・・・」
「よくオレっちがここにいると分かったナ。どうやって調べたンダ?」
「勘よ」
ニシシと笑う小柄な女性──《鼠》と呼ばれる情報屋アルゴに私は簡潔に答えた。
嘘は言っていない。日夜アインクラッド中を走り回っているであろう彼女とあっさり会うことが出来たのは、ルナの驚異的な勘の良さによるものだ。ドンピシャで現在地を言い当てて急行したのが幸いし、こうしてコンタクトを取ることができた。
「そっちのおニーサンも初めましてだナ。これからご贔屓に」
「・・・ああ、何かあれば、頼もう・・・」
さすが攻略組とも顔見知りなだけあり、ルナの風格にも彼女は動じない。頼もしさを感じつつ私は本題を切り出した。
「緊急の用件だから、手短に言うわ。67層ボスのものと思われる情報を手に入れました」
アルゴの顔から笑みが消えた。
「本当カ?」
「ええ、間違いないと思う」
私は古びた紙片をアルゴに渡した。内容を一瞥した彼女の顔に緊張が走る。
「コイツは不味いナ、もしかしなくてもボスの情報ダ。しかも二体カ・・・?最後の文は──」
「──ボスの、同時討伐を、示唆している・・・」
ルナの呟きで空気が重くなる。
「ボスが二体だったことは過去にも・・・でも同時討伐なんて条件は初めてダナ。それにこの”血毒”って言葉は、毒を使うってことカ?」
「”万物”っていうのが気になるわね」
「・・・通常の毒に非ず、全ての・・・状態異常といった、ところか・・・」
ルナの推察に、私とアルゴに戦慄が走った。最悪のシナリオが脳内で組み立てられていく。
「っ!ボス戦なら、ポーションやクリスタルも持って行っているんでしょう?」
「当たり前ダ!各種ポーションはもちろん
「・・・それは、危険だ・・・」
「どういうこと?」
ルナは顎に手を添えながら、鋭いかつ恐ろしい予測を述べた。
「・・・”輝石の光”が指すのは、おそらく