ソードアート・オンライン ── 血盟の剣豪 ──   作:Syncable

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映画主題歌に合わせました


Ep.49 往け

<ミトside>

 

 

 

「・・・少し、速度を上げるぞ・・・」

 

「ええ!」

 

立ち塞がる屍人(モンスター)たちを無視して薄暗い迷路を走る。

 

初見ではとても出来ないことだが、全容が表示されたマップがそれを可能にしている。アルゴから最前線迷宮区のマップ情報を無償譲渡されたのは、20分ほど前のことだ。

 

 

 

 

「──とにかく、今はレイドに情報を伝えるのが最優先ダ!」

 

焦りの声を上げるアルゴは、ウインドウを操作しながら続けた。

 

「2人はボス部屋に急行してクレ!これはマップ情報ダ!」

 

「ちょ、ちょっと待ってよ!」

 

差し出された半用紙アイテムを、私は受け取れなかった。

 

「無理よ、私には・・・ボス戦なんて・・・」

 

「頼む、今行けるのは2人だけなンダ!」

 

「私、私は・・・」

 

かつて痛感した自分への失望と、打ち勝てなかった恐怖が全身を硬直させる。

 

──今から駆け付けたところで、状況が変わるとは思えない。

 

──行くならもっと、大勢でないと。

 

──街で有志を募れば、きっと他の誰かが。

 

あの時と同じ、逃げる選択肢が頭を埋め尽くしていく。

 

私の濁流のような思考は、ルナの口から出たその名で塞き止められた。

 

「・・・ここで攻略組を、特に・・・剣豪サツキや、閃光のアスナを喪うのは、確かに痛手だろう・・・」

 

「──え」

 

忘れられないその名に、時が止まったような気がした。脳裏に焼き付いた親友の笑顔がフラッシュバックする。私は震えた声を発した。

 

「アスナ・・・いま、アスナって言った・・・?」

 

ルナは知らないのかという様子で確かに言った。

 

「・・・閃光のアスナ、血盟騎士団の副団長にして・・・細剣(レイピア)の名手・・・」

 

「っ・・・あぁ、嘘・・・」

 

私は脱力しその場に膝をついた。あの日から張っていた糸が切れ、同時に安堵と新たな罪悪感が全身を満たす。混ざりあった感情が涙となって頬を伝った。

 

「・・・生きて、たんだ・・・アスナ・・・!」

 

「アーちゃんの知り合いカ?」

 

「・・・ええ、親友だった。今となっては、恨まれてるかもしれないけどね」

 

「・・・そうカ」

 

目を見開いたアルゴだったが、深くは触れなかった。代わりに再びマップデータが記された半用紙を差し出してきた。

 

「アーちゃんは簡単に死ぬほど弱くナイ、まだ間に合うヨ」

 

「・・・少なくとも、全滅はない、だろう・・・」

 

「・・・ええ、そうね」

 

完全なビキナーだった彼女が、今や攻略組ギルドの副団長だ。あの日から今までどんな経験をしてきたのかは、裏切り見捨てた私には分からないし知る権利もない。でも、そんな彼女が簡単に負けるとは思わない。

 

私は半用紙を受け取り、涙を拭って立ち上がる。

 

「オレっちは急いで増援を集めるカラ、アーちゃんを、みんなを頼んダヨ」

 

「分かった・・・私一人だと心もとないから、ついて来てくれる?」

 

ルナは小さく笑みを浮かべて言った。

 

「・・・付き合おう・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「──見えた!」

 

一本道の最奥に異質な存在感を放つ巨大な扉が見えた。間違いなくボス部屋だ。微かに、しかし確かに絶望に染まった悲鳴が聞こえてくる。

 

「間に合え・・・!」

 

雑魚たちを引き離した速度のまま、私とルナはボス部屋に突入した。中は、まさに地獄絵図だった。

 

「うわぁぁぁ!」

 

「やめ──」

 

目の前で男がその体を呆気なく爆散させた。男の命を奪ったのは、部屋の奥に鎮座した人型モンスターが伸ばした()だ。HPがすでにゼロになっているソイツは、混乱するレイドに向かって縦横無尽に鋭利な髪を振り回している。

 

到着した直後に”死”を目の当たりにし、長年私を苦しめていた親友(アスナ)が死ぬ光景がフラッシュバックする。それを振り払って私は地獄を見回した。

 

「──あ」

 

そして見つけた。

 

糸が切れたかのようにへたり込む彼女は、血盟騎士団の象徴でもある赤と白の隊服を着ている。栗色の長いストレートヘアは見間違うはずもない。

 

およそ2年ぶりに見たアスナは、あの時よりも弱々しく今にも消えてしまいそうだった。そしてそれは、ただの予感ではなかった。小さく表示された彼女のHPバー横には《沈黙》のデバフアイコン、そして──

 

「ッ!」

 

アスナを見据える、醜悪な異形のモンスター。掲げられた鎌が鈍く光るのを見て、私はヤツが2体目のボスであることを確信した。

 

「逃げろ!アスナ!!」

 

ヤツの後ろで漆黒の剣士が叫んだ。単身相手にしていたのか、ボロボロの状態でも必死に動こうとしているが、間に合わないだろう。

 

怒号と絶叫が遠ざかり、世界がスローモーションになる。

 

あの時と同じだ。

 

トラップに掛かり、大量の雑魚たちに行く手を阻まれ、表示されたHPが減っていくのを見ていることしか出来なかった、あの時。

 

 

でも、今は違う。

 

私は武器を構え、走り出すために足に力を込めた。

 

それを察知したかのように、鋭利な髪が高速で私に迫る。

 

しかし、それが届くことはなかった。

 

「──往け、ミト」

 

視認できない神速の斬撃で髪を斬り伏せたルナが、私に言う。

 

「うん!」

 

あの時感じた恐怖はなかった。今度こそ助ける。ただそれだけの為に走った。

 

軽々しく投げられた鎌がアスナに迫る。

 

「──はぁぁぁぁぁぁッ!」

 

私はアスナの前に躍り出て、飛来した禍々しいそれを弾き飛ばした。衝撃で刀身に塗られていた毒が飛散するが、それもまとめて切り払う。

 

驚きが込もった視線を背中に感じたが、私は振り返らずに長らく言えなかった言葉を口にした。

 

「・・・ごめん、アスナ」

 

赦してもらおうなんて思わない。ただの自己満足だ。どれだけ罵倒されようが嫌悪されようが、全てを受け入れる。それが私に出来る唯一の償いだから。

 

「アアアァァアァアッ!」

 

おぞましい声を上げながらボスが迫って来る。アスナを巻き込まないよう、私は武器を構え直してボス目掛けてダッシュした。

 

振り下ろされた鎌を二連撃ソードスキルで迎撃・反撃し、生まれた隙に追撃のソードスキルを見舞う。ボスが怯んだ瞬間、ヤツの背中に漆黒の剣士の剣戟がヒットし、残り7割ほどのHPが目に見えて減少した。

 

漆黒の剣士と同じタイミングで後退した私は、転がった鎌を拾うボスの隙を見てアスナに《咳止めポーション》を手渡した。

 

「酷い状況ね」

 

次いで漆黒の剣士に話し掛けるが応答はない。私の意図を察してか、彼は耳を指差すジェスチャーをした。よく見るとHPバーの横に《失聴》のデバフアイコンが表示されている。私が《感音ポーション》を手渡すと、漆黒の剣士は一気に飲み干した。

 

「聞こえる?」

 

「ああ。助かった、ありがとう」

 

少し大人びた声だった。

遠くからでは分からなかったが彼の右頬の蠢く痣を見て、私は以前どこかで聞いた話を思い出した。中層のプレイヤーだったか、命の恩人を探しているという話で、その剣士の頬に痣があったという。彼がそうかは分からないが、一人でボスの相手をしていた実力を鑑みれば可能性は高いだろう。

 

そんな考察を頭から追い出して、私は早速ボスの情報を伝えようと口を開きかけた時、懐かしく消え入りそうな声が聞こえた。

 

「・・・ミト、ミトだよね・・・?」

 

信じられないといったその声に、怒りや憎しみは感じなかった。本音を言えば今すぐに向き直って謝りたい。しかし今は一秒を争う状況だ。私の刹那の葛藤を感じてか、漆黒の剣士が口を開いた。

 

「悪いんだけど、もう少しだけ協力してくれないか?」

 

「・・・もちろんよ。そのために来たんだから」

 

「心強いな。まぁ見ての通り”詰み”な訳だけど・・・もしかして、ボスについて何か知ってる?」

 

「・・・」

 

私は2体のボスを一瞥して言った。

 

「・・・アイツらは、2()()()()()()()()()()()()()

 

底のない闇色の目が、驚愕で見開かれた。




ようやく反撃です
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