ソードアート・オンライン ── 血盟の剣豪 ── 作:Syncable
<サツキside>
「うわぁ、本当に高いですね」
天高く聳え立つ塔を見上げながらシリカが言った。
上層へと繋がる迷宮区タワーにも引けを取らない塔の入口に到着した俺たちは、改めてその高さに圧倒されていた。建ってから長い年月が経過しているようで所々の外壁が崩れ、草木や蔓があちこちに巻き付いている。
「登るの大変そうね」
「だな、サクッと登ろうぜ」
モンスターが湧かない分、いつもより気楽に俺たちはダンジョンへと足を踏み入れた。
「中は思ったより普通なのね」
ダンジョン内を見回したリズは意外そうだった。たしかに外観と比べると中はそんなに荒れていない。よくある塔型ダンジョンだ。親切に上へ続く階段もあるので、今のところアスレチック要素は一つもない。
「そう言えば聞きそびれてたけど」
先頭を進む俺に後ろからリズが話しかけてきた。
「アンタ、ここ来たことあるの?」
「まぁな、結構前だけど」
「そうだったんですね」
「じゃあ、何か心当たりないの?レアなアイテムが手に入るとか」
「うーん、それがなぁ・・・」
俺は立ち止まって2人に向き直った。
「なーんにも、
俺の言葉に二人はフリーズした。先に再起動したリズは、素っ頓狂な声を出した。
「は、はぁ!?何にも?」
「そう」
「見落としは?」
「隠しエリア込みで踏破率100%だぜ?」
「じ、時間の条件とか」
「丸2日探索したよ」
考えついた可能性をことごとく否定され、リズは再びフリーズした。
「で、でもそれならクエストは・・・」
「そう、それだよ」
俺は歩き始めながら続けた。
「俺が来たのはあくまで前の話、クエストもなくただ気まぐれで訪れた時の話だ。その時とは状況が違う。ここを舞台としたクエストがあって、ここにあるモノを取って来いって明言されてる。だったら、前に無かった何かがあるはずだ。そして──」
俺は後ろ歩きをしながら、2人にドヤ顔で言った。
「そのモノがあるであろう場所だが、俺はすでに見当が付いている」
途端にシリカは笑顔を咲かせ、リズは何かを察したように顔を引き攣らせた。
「流石サツキさんです!どこなんですか?」
「まさか・・・」
「そう、そのまさ──」
かさ!と言おうとした瞬間、後ろ歩きしていた俺の足が階段にぶつかって体勢を崩し、勢いそのままに尻・背中・頭を強打した。
「がっ・・・」
「だ、大丈夫ですか?」
「アホね」
HPが減っていないことを確認して、俺は気を取り直して続けた。
「えーっと、まぁブツの場所なんだけど・・・頂上だな。確実に」
「ならさっさと登りましょう。道は分かるんでしょう?」
「ああ。道って言うより
「どういうことですか?」
疑問符を浮かべる2人を連れて、俺は階段を上がった。
「要はここからが、このダンジョンの本番ってわけだ」
階段の先は解放感のある大広間。今までの何も無い廃れた内装とは打って変わって、一面が水に満たされていた。
「なに、これ?」
「見ての通り、こっからは普通の道がない」
俺は水面に浮かぶ丸太や巨大な水性植物を指差しながら続ける。
「アレを足場にして水に落ちないように進むんだ。落ちたらここに強制転移させられて、最初からやり直し。落ちてもHPは減らないけど、ゴール直前でのやり直しはかなりの精神的ダメージだから、気を引き締めろよ」
「前はどれくらい掛かったんですか?」
「一時間もしないでクリア出来たよ。
「ここは・・・?」
何やら勘がいいリズに俺は現実を突き付けた。
「こんなの序の口だよ。上に行くほどギミックが難しくなるから、ここはさっさと突破していこう」
そう言って俺は最初の丸太にジャンプした。が、勢いがあり過ぎたのかバランスを崩し、豪快な水しぶきをあげながら冷たい水の中へ落っこちた。
「・・・とまぁ、こんな感じになるから。最初は武装解除して身軽にした方が良いぞ」
びしょ濡れ状態で強制転移させられた俺は、肩を震わせる二人にアドバイスを送った。
「ほら、ラスト慎重に来い!」
「ファイトです、リズさん!」
アスレチック開始から一時間と少しが経過し、最初の水面エリアは残すところリズの一歩だけとなった。
短剣を主武器とするシリカは流石の身のこなしで水渡りを攻略できたが、そもそもフィールドに出る機会が少ないリズはそれなりに苦戦している。リスタート回数はダントツの7回。その内の4回が、最初に忠告していたゴール直前での悲劇だった。
「動かないで水の流れを読むんだ。必ず止まるタイミングがあるから、そこで一思いに飛んで来い」
「うぅ、こんなに敏捷力が欲しいと思ったのは初めてよ」
「防具も脱いだらどうだ?モンスターは居ないし、少しはマシになるぞ」
「誰がアンタの前で脱ぐもんですか!」
「失礼な!そんな不純な理由じゃないわ!」
「二人とも落ち着いてください!」
ガミガミ言い合ってしまい水面がなかなか落ち着かない。リズのじっとしていられない性格と、俺の余計なことを口走る癖が悪い意味で噛み合ってしまう。
「仕方ない。これ以上長引かせるのも面倒だし、秘策を使うか」
俺はここに来る前に買っておいた耐久力マシマシ極太ロープを取り出した。それを瞑想しているリズに向かって投げる。
「リズー!それを体に巻いてくれ」
訝しげにしながらも言う通りにリズはロープを自分の腰に巻いた。
「これで良いの?」
「ああ、しっかり掴まってろよ!」
「どうするんですか?」
俺はロープを握ったままリズに背を向け、ニヤリと笑った。
「こうするんだ、よっ!」
掛け声とともに俺は肩越しにロープを思いっ切り引っ張った。確かな重みが宙に浮かぶ手応え、そして──
「ぎゃぁぁぁっ!?」
乙女に似つかわしくない絶叫が塔に響き渡った。
「オーライオーライ」
ロープを手放して上を見上げ、ジタバタ暴れながら落下して来るリズを真下で受け止める。想像よりも強い衝撃が加わるが、床に落とすことなく踏みとどまった。
「わぁ!スゴいですサツキさん!」
「秘技・一本釣り。マグロのやつ見てから一回やってみたかったんだよなぁ」
「だ・れ・が・マグロですってぇ!?」
「ごふっ!」
怒ったリズの右アッパーが顎に炸裂し、俺は堪らず膝をついた。これで攻撃判定にならないからSAOのシステムは信じられない。
「とまぁ、これでこのステージはクリアなわけだ」
「もう少しマトモな方法があったでしょうが」
「これが一番手っ取り早い」
「このためにロープを買ってたんですね」
俺は上へ続く階段を登りながら首を振った。
「いや、本当は別の使い道を考えてたんだ」
登り切った先は、先ほどと同じ大きさの広場。しかし水は無ければ上へ続く階段も見当たらない。ジト目を向けたリズが思い口を開く。
「・・・で、次の種目は何かしら?」
「行けそうなところはないですけど・・・」
「まぁ、パッと見はな」
俺は二人を連れて東側の壁に向かった。
「それじゃあ続きまして第二種目・・・<
鳩が豆鉄砲を喰らったようなという例えは、こんな顔なんだろうと二人の顔を見て俺は思った。