ソードアート・オンライン ── 血盟の剣豪 ── 作:Syncable
<サツキside>
「前から思ってたけど、アンタってバカなの?」
「失礼な──と言いたいとこだけど、これに関しては否定できない」
「良かった。まだ自覚あるバカだった」
「うおぉい!人の話を聞け」
「ここを、登るんですか・・・?」
どう見たって登れそうにない壁を前に、二人は困惑していた。俺も初見の時は同じリアクションだったから、その気持ちは分かる。
「じゃあこの種目の説明をしよう。ここを登るのに足りないものは何だ?」
「アンタの脳みそかしらね」
「黙らっしゃい」
「はい!足場がないです」
「正解だシリカ。見ての通り足場も掴まれそうなとこもない」
俺は頭上にわずかに見える上階への階段を指差した。
「ここをあそこまで地道に登って行く」
「だからどうやってよ?まさか、
「試したけど、半分くらいが限界だったな」
「あ、やったんだ」
「ちなみに、ここでも死ぬ心配はない。前と同じように落下中に強制転移させられるから。まぁ、分かっててもかなり怖いけど」
以前の経験を思い出して胸がヒュっとなる。
「それで、どうやって登るんですか?」
「これを使うのさ」
俺はストレージから簡素な石の棒を実体化させた。
「コイツを壁に刺してって足場を作るんだ」
「だからアホみたいな本数買ってたのね」
「そゆこと」
来る前に街で大量購入していたこの棒は、耐久力がやたら高く設定されている。武器としては使えないが、足場にするのには最適だ。というか、ここで使うための物だろう。俺は早速一本目を構えて壁に向かって大きくジャンプした。
「よっと」
ガキィンと音を立てて突き刺さった棒に、逆上がりで体を上げてゆっくりと足を乗せる。安定さを確認して同じ要領で二本目に到達した後、下で待つ二人にロープを垂らした。
「二人ともー!このロープを体に巻いて登ってきてくれ!」
二人がロープを巻き終えたのを確認し、俺は三本目に取り掛かった。ロープで体を繋いだのはロスを防ぐためだ。誰かが落ちても残りが踏ん張ればリスタートは避けられるし、引き上げることも出来る。
「途中で休憩しながら行くから、ノーミスで行こうぜ。ゆっくり行っても二時間は掛からないから」
「分かりました!」
「安全第一でお願いね」
「あいよ」
俺は最短ではなく安定重視のルートを選び、棒を突き刺して進んだ。
「サツキー!あとどんくらい?」
「ん〜・・・7.8本ってとこだな」
下からのリズの声に、ゴールまでの距離を目測した俺は言った。
水面ステージよりも目に見えて分かる恐怖心からか、当初の予定ギリギリの二時間近く掛かったがノーミスでゴール目前まで来ていた。しかし休憩を挟んでいたとは言え、長時間の緊張状態で疲れが溜まってきている。
「・・・このくらいなら行けるか?」
「ちょっとー!変なこと考えてないわよね」
上を見上げたまま零れた呟きにリズが反応する。前から思ってたが、意外にも勘が鋭い。俺はわざとらしい笑みを浮かべて、下の二人を見て言った。
「この距離なら行けそうだから、駆け上がって引き上げるよ」
「だ、大丈夫ですか?」
「フラグにしか聞こえないんだけど」
「大丈夫大丈夫、任せとけって」
言って俺はジャンプして棒を突き刺し、その勢いに乗ってさらに跳躍した。その間に次の棒を実体化させ、突き刺し、跳躍。目測通り7本目のジャンプでギリギリ頂上に手が届いた。
「おおーやるじゃん」
「スゴいです!」
「こんなん朝飯前よ」
賛美の声に気持ち良くなりつつ最後のひと登りをする。
「はぁぁ、やっと終わ──」
達成感で満たされたため息を吐いた瞬間。
ブワッという衝撃とともに、俺の体は浮き上がった。
「・・・は?」
突然の浮遊感の中で見たのは、階段がある広場の壁に大きく開いた
「ちょっと!」
「サツキさん!」
驚愕した二人に瞬時に言えたことは一つ。
「踏ん張れぇぇぇぇぇ!」
リスタート防止のためにロープで体を繋いでいたが、この勢いで落ちれば道連れも有り得る。三人仲良くリスタートという最悪な結果は避けたい。
それを二人も察したのだろう。余った棒を取り出して手元に突き刺し、衝撃に備えてしっかりと掴まった。
「ぐえっ!」
一番下のシリカを過ぎた直後に腹に巻いたロープが締められ、俺は無様に宙吊りになって止まった。
「本当に、アンタってヤツは」
呆れたリズの声を聞きながら俺は二人に引き上げられた。
「──と言うわけで、若干ロスしたけど無事に壁登り終了。お疲れさん」
「お疲れ様でした!」
「本当に疲れたわよ」
自分の失態を誤魔化すように階段広場で座り込む二人を労う。あれからリズを先頭に慎重に進み、無事登り切る事が出来た。突風は初見殺しのギミックだったらしい。
「前はあんなの無かったんだけどなぁ」
「油断したわね」
「また何かが変わってるかもしれませんね」
「だな。慎重に行こう・・・っても、最難関が終わったから後は楽勝よ」
「あら、そうなの?」
「それは良かったです!」
朗報を聞いて疲れが吹っ飛んだ様子の二人を連れて上へ上がる。攻略の日々とは違う仲間との純粋な楽しさを俺は感じていた。
♦️
<アスナside>
「決めるよ、ミト!」
「ええ!」
声を合わせ、アスナは親友と共に駆ける。
狙いは、腹の弱点を顕にした巨大な体躯の蜘蛛型モンスター。一時間近くの戦闘で瀕死となった第73層ボスだ。
「せやぁぁぁ!」
リズベットの最高傑作の細剣と、最上位ソードスキル”フラッシング・ペネトレイター”が組み合わさった威力は、ボスの残りHPを余さず消し飛ばした。
ボスが爆散し、歓喜の声が響く中でアスナはミトとハイタッチを交わした。
「お疲れ、アスナ」
「ミトもお疲れ様。楽勝だったね」
「このくらいの相手なら、このメンバーでも充分でしょ」
「そうね・・・」
戦闘前と変わらない顔ぶれを見回して、アスナはようやくボス戦の緊張が解けるのを感じた。67層の惨劇以来、犠牲者は出ていない。偵察隊と情報屋による事前の調査が徹底され、ボスに関する僅かな情報も逃していないおかげだろう。
その偵察隊と今この場にサツキが居なくなって、もう2ヶ月になる。戦力の低下を覚悟しての休暇命令だったが、新しくKoBに入ったミトが代役を十分過ぎるほど務めていた。
「お二人とも、お疲れ様でした!」
疲労を感じさせない声の主は、満面の笑みを浮かべたシュガーだ。
「お疲れ様、いつもありがとうね」
「いえ!お役に立てて光栄です」
「最近休めてないでしょ?しばらくゆっくりしたら?」
「大丈夫です!今の攻略ペースを維持したいので、死なない程度に頑張ります!」
「マジメね・・・」
すっかり仲良くなった二人と共に上への階段を上がりながら、アスナは以前から考えていたことを口にした。
「サツキくんのことなんだけど・・・そろそろ復帰してもらおうと思うの」
「あら、良いんじゃない?復帰させろってうるさかったもんね」
「何か理由があるんですか?」
74層に繋がるレリーフが施された扉を前に、アスナは固い声を発した。
「・・・もうすぐ
精鋭揃いの攻略組レイドですら半壊させる強さのボス。かつての死闘を思い出すアスナとシュガーはもちろん、ミトも二人の様子から体が緊張する。
アスナが触れると、重厚な扉は自動的に開き始めた。
新たな層の景色が、希望と絶望への一歩が、勝利の余韻を掻き消していった。