ソードアート・オンライン ── 血盟の剣豪 ──   作:Syncable

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また1ヶ月空きました。


Ep.56 予感

<サツキside>

 

 

 

「前から思ってたけど、アンタってバカなの?」

 

「失礼な──と言いたいとこだけど、これに関しては否定できない」

 

「良かった。まだ自覚あるバカだった」

 

「うおぉい!人の話を聞け」

 

「ここを、登るんですか・・・?」

 

どう見たって登れそうにない壁を前に、二人は困惑していた。俺も初見の時は同じリアクションだったから、その気持ちは分かる。

 

「じゃあこの種目の説明をしよう。ここを登るのに足りないものは何だ?」

 

「アンタの脳みそかしらね」

 

「黙らっしゃい」

 

「はい!足場がないです」

 

「正解だシリカ。見ての通り足場も掴まれそうなとこもない」

 

俺は頭上にわずかに見える上階への階段を指差した。

 

「ここをあそこまで地道に登って行く」

 

「だからどうやってよ?まさか、壁走り(ウォールラン)とか言うんじゃ・・・」

 

「試したけど、半分くらいが限界だったな」

 

「あ、やったんだ」

 

「ちなみに、ここでも死ぬ心配はない。前と同じように落下中に強制転移させられるから。まぁ、分かっててもかなり怖いけど」

 

以前の経験を思い出して胸がヒュっとなる。

 

「それで、どうやって登るんですか?」

 

「これを使うのさ」

 

俺はストレージから簡素な石の棒を実体化させた。

 

「コイツを壁に刺してって足場を作るんだ」

 

「だからアホみたいな本数買ってたのね」

 

「そゆこと」

 

来る前に街で大量購入していたこの棒は、耐久力がやたら高く設定されている。武器としては使えないが、足場にするのには最適だ。というか、ここで使うための物だろう。俺は早速一本目を構えて壁に向かって大きくジャンプした。

 

「よっと」

 

ガキィンと音を立てて突き刺さった棒に、逆上がりで体を上げてゆっくりと足を乗せる。安定さを確認して同じ要領で二本目に到達した後、下で待つ二人にロープを垂らした。

 

「二人ともー!このロープを体に巻いて登ってきてくれ!」

 

二人がロープを巻き終えたのを確認し、俺は三本目に取り掛かった。ロープで体を繋いだのはロスを防ぐためだ。誰かが落ちても残りが踏ん張ればリスタートは避けられるし、引き上げることも出来る。

 

「途中で休憩しながら行くから、ノーミスで行こうぜ。ゆっくり行っても二時間は掛からないから」

 

「分かりました!」

 

「安全第一でお願いね」

 

「あいよ」

 

俺は最短ではなく安定重視のルートを選び、棒を突き刺して進んだ。

 

 

 

 

 

 

 

「サツキー!あとどんくらい?」

 

「ん〜・・・7.8本ってとこだな」

 

下からのリズの声に、ゴールまでの距離を目測した俺は言った。

 

水面ステージよりも目に見えて分かる恐怖心からか、当初の予定ギリギリの二時間近く掛かったがノーミスでゴール目前まで来ていた。しかし休憩を挟んでいたとは言え、長時間の緊張状態で疲れが溜まってきている。

 

「・・・このくらいなら行けるか?」

 

「ちょっとー!変なこと考えてないわよね」

 

上を見上げたまま零れた呟きにリズが反応する。前から思ってたが、意外にも勘が鋭い。俺はわざとらしい笑みを浮かべて、下の二人を見て言った。

 

「この距離なら行けそうだから、駆け上がって引き上げるよ」

 

「だ、大丈夫ですか?」

 

「フラグにしか聞こえないんだけど」

 

「大丈夫大丈夫、任せとけって」

 

言って俺はジャンプして棒を突き刺し、その勢いに乗ってさらに跳躍した。その間に次の棒を実体化させ、突き刺し、跳躍。目測通り7本目のジャンプでギリギリ頂上に手が届いた。

 

「おおーやるじゃん」

 

「スゴいです!」

 

「こんなん朝飯前よ」

 

賛美の声に気持ち良くなりつつ最後のひと登りをする。

 

「はぁぁ、やっと終わ──」

 

達成感で満たされたため息を吐いた瞬間。

 

ブワッという衝撃とともに、俺の体は浮き上がった。

 

「・・・は?」

 

突然の浮遊感の中で見たのは、階段がある広場の壁に大きく開いた()だった。外と繋がっているそこから舞い込んだ風が俺を浮き上がらせたと理解した時には、すでに俺は広場からも壁からも引き剥がされていた。そのまま重力に従って落下が始まる。

 

「ちょっと!」

 

「サツキさん!」

 

驚愕した二人に瞬時に言えたことは一つ。

 

「踏ん張れぇぇぇぇぇ!」

 

リスタート防止のためにロープで体を繋いでいたが、この勢いで落ちれば道連れも有り得る。三人仲良くリスタートという最悪な結果は避けたい。

 

それを二人も察したのだろう。余った棒を取り出して手元に突き刺し、衝撃に備えてしっかりと掴まった。

 

「ぐえっ!」

 

一番下のシリカを過ぎた直後に腹に巻いたロープが締められ、俺は無様に宙吊りになって止まった。

 

「本当に、アンタってヤツは」

 

呆れたリズの声を聞きながら俺は二人に引き上げられた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「──と言うわけで、若干ロスしたけど無事に壁登り終了。お疲れさん」

 

「お疲れ様でした!」

 

「本当に疲れたわよ」

 

自分の失態を誤魔化すように階段広場で座り込む二人を労う。あれからリズを先頭に慎重に進み、無事登り切る事が出来た。突風は初見殺しのギミックだったらしい。

 

「前はあんなの無かったんだけどなぁ」

 

「油断したわね」

 

「また何かが変わってるかもしれませんね」

 

「だな。慎重に行こう・・・っても、最難関が終わったから後は楽勝よ」

 

「あら、そうなの?」

 

「それは良かったです!」

 

朗報を聞いて疲れが吹っ飛んだ様子の二人を連れて上へ上がる。攻略の日々とは違う仲間との純粋な楽しさを俺は感じていた。

 

 

 

 

 

♦️

 

 

<アスナside>

 

 

 

「決めるよ、ミト!」

 

「ええ!」

 

声を合わせ、アスナは親友と共に駆ける。

 

狙いは、腹の弱点を顕にした巨大な体躯の蜘蛛型モンスター。一時間近くの戦闘で瀕死となった第73層ボスだ。

 

「せやぁぁぁ!」

 

リズベットの最高傑作の細剣と、最上位ソードスキル”フラッシング・ペネトレイター”が組み合わさった威力は、ボスの残りHPを余さず消し飛ばした。

 

ボスが爆散し、歓喜の声が響く中でアスナはミトとハイタッチを交わした。

 

「お疲れ、アスナ」

 

「ミトもお疲れ様。楽勝だったね」

 

「このくらいの相手なら、このメンバーでも充分でしょ」

 

「そうね・・・」

 

戦闘前と変わらない顔ぶれを見回して、アスナはようやくボス戦の緊張が解けるのを感じた。67層の惨劇以来、犠牲者は出ていない。偵察隊と情報屋による事前の調査が徹底され、ボスに関する僅かな情報も逃していないおかげだろう。

 

その偵察隊と今この場にサツキが居なくなって、もう2ヶ月になる。戦力の低下を覚悟しての休暇命令だったが、新しくKoBに入ったミトが代役を十分過ぎるほど務めていた。

 

「お二人とも、お疲れ様でした!」

 

疲労を感じさせない声の主は、満面の笑みを浮かべたシュガーだ。

 

「お疲れ様、いつもありがとうね」

 

「いえ!お役に立てて光栄です」

 

「最近休めてないでしょ?しばらくゆっくりしたら?」

 

「大丈夫です!今の攻略ペースを維持したいので、死なない程度に頑張ります!」

 

「マジメね・・・」

 

すっかり仲良くなった二人と共に上への階段を上がりながら、アスナは以前から考えていたことを口にした。

 

「サツキくんのことなんだけど・・・そろそろ復帰してもらおうと思うの」

 

「あら、良いんじゃない?復帰させろってうるさかったもんね」

 

「何か理由があるんですか?」

 

74層に繋がるレリーフが施された扉を前に、アスナは固い声を発した。

 

「・・・もうすぐ第75層(クウォーター・ポイント)でしょう。サツキくんの力は、必要になるから・・・」

 

精鋭揃いの攻略組レイドですら半壊させる強さのボス。かつての死闘を思い出すアスナとシュガーはもちろん、ミトも二人の様子から体が緊張する。

 

アスナが触れると、重厚な扉は自動的に開き始めた。

 

新たな層の景色が、希望と絶望への一歩が、勝利の余韻を掻き消していった。

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