ソードアート・オンライン ── 血盟の剣豪 ── 作:Syncable
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『君もここを知ってたの?』
それが彼女の第一声だった。
人気のない路地裏にひっそりと居を構える武器屋。目的を決めずにぶらぶらと歩いてるうちに辿り着いただけの俺だったが、他の店よりも値段が安かったので品定めしていたところだった。それを伝える。
『そうなの?てっきり私と同じかと思ったー』
そう言う彼女は店主に話しかけると何の迷いもなく初期装備の片手剣を売り払い、代わりに新しいモノを買った。次いで真っ黒なコートが彼女を包み、フードを目深に被るとこちらに振り向いた。
『せっかくだから教えてあげる。ここの武器は安い上に初期装備よりも強いんだよ。今のうちに買い替えておいたら?あと、このコートは3着しか売ってないレア物なんだ』
にこにこと楽しそうに喋る彼女。アドバイスをありがたく受け取って彼女に倣う。全く同じ出で立ちになった俺を見て、うんうんと頷いた彼女は納得した様子だ。
『お揃いだね。ここで会ったのも何かの縁だし、これからフィールドに出ない?初心者だから分からないことあるだろうし』
断る理由がないので了承する。
『よし!じゃあまずは自己紹介だね。私は─』
彼女の名前を、俺は一生忘れないだろう。
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<サツキside>
「ではこれより、第五十一層ボスモンスターの"偵察戦前会議"を始めます」
シュガーのその一言でザワついていた室内が静寂に包まれる。ピリッとした空気で息が詰まりそうだ。
集まったのはKoBの偵察隊に所属する20名だ。装備と雰囲気からそれなりの実力と覚悟があるように見える。俺たちを一瞥したシュガーは話を進める。
「事前に連絡した通り、昨日ボス部屋を発見した。前回のボス戦からそんなに日は経っていないけど僕たちのやることは変わらない。会議終了後速やかにボスの偵察を始める。何か意見は?」
誰も何も言わない。
シュガーに意見はないようだ。そう
「隊長、一ついいか?」
静寂を破ったのはめっちゃデカい盾を背負った大男だ。おそらくタンク役だろう。低く落ち着いた声が彼の真反対にいる俺にもよく聞こえる。
「何かな?」
「知らないヤツが混じっててな。気になってんだ」
一人また一人と遠慮がちに俺に視線を向けてくる。彼らの気持ちは分かる。知らないヤツが自分たちの命に関わる大事な会議に当たり前の顔をしていたら気にならないわけがないだろう。
「あっ、そういえば紹介してなかったね」
ごめんごめんとシュガーは俺の隣に立つ。
「一昨日にKoBに入団して、昨日ウチに配属となった剣豪のサツキさんです!みんな仲良くしてね!」
「よろしく」
一応軽く頭を下げるが、皆はポカーンとして盾男は納得してない様子だ。彼は静かに立ち上がると俺に正対して続ける。
「隊長、あんたの目を疑うわけじゃないが・・・その男の実力は本物なんだよな?」
「うん、本物だよ。この目で見た僕が保証する。それにヒースクリフ団長のお墨付きでもあるからね」
ヒースクリフの名にわずかな反応を示した彼は、それ以上何も言わずに座った。最強たる団長の名が出るだけで説得力がまるで違う。
他の隊員も異論がないことを確認したシュガーは、全員に一枚ずつ半用紙を配った。偵察隊全員の位置取りと役割、ローテーションやパーティー編成などが細かく書かれている。
「じゃあ改めて、今回の偵察手順を説明します。前回の五十層ボスの偵察では危うく犠牲を出すところでした。再三言っている通り、生きて帰ることが第一優先任務であることを各員認識してください」
本戦では甚大な被害を出した五十層ボスの偵察を犠牲なしで完遂した彼らには驚きを隠せない。が、顔には出さないようにしてシュガーの話に耳を傾ける。
「まずは編成についてです。いつも通り、ABCDの四班に分かれてスイッチ、ローテ、ヘイト管理、回復、サポートを行います。各班にタンクを二人配置していますが、ボスの攻撃パターンによって編成を急遽変更する場合があるので柔軟な対応をお願いします」
「前回の二の舞いにはなりたくないな」
「大混乱だったもんね」
「まあ、クウォーターポイントじゃないから大丈夫だと思うけど」
「おいやめろ、フラグになりかねん」
「はいはーい、みんな静かに!」
冗談が言い合えるほどには余裕があるらしい。これもシュガーが隊長だからできる事だろう。
「当初の目標をHP一本とします。削り切る前に攻撃パターン、弱点部位、有効なソードスキルを特定。一本削った時の行動パターンの変化を確認後、即撤退します」
ボスにもよるが、この人数でHPを一本削るのは簡単なことではない。でも隊員たちは当たり前のように了解の意を伝える。彼らに頼もしさを感じつつ、俺は気になっていたことを口にした。
「シュガー、俺の配置が書かれてないんだが」
何度見返しても紙に俺の名がない。
「サツキさんは自由に動いてもらって構いません。色んなソードスキルを色んな箇所に当ててみてください」
「遊撃ってことか。まぁその方がやりやすいけど」
パーティー戦は今回が初めてではないが、長いことソロだったので連携やスイッチなどに正直なところ自信がない。なのでシュガーの配慮はありがたい。
その後も会議は順調に進み、最後に携行アイテムの確認を終えた俺たちはボス部屋に向かった。
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<アスナside>
「いらっしゃいませ!リズベット武具店へよう─って、アスナじゃない。珍しいわね平日に来るなんて」
「うん、今日はお休みになったの」
この世界で数少ない女友達のリズベット。彼女が経営する武具店へ私は足を運んでいた。
「あーそう言えばボス部屋が見つかったって今朝の新聞に書いてたわね。今日は偵察に行ってるの?」
「うん。二時間くらい前に出発したよ」
リズは慣れた手つきでコーヒーを淹れて私に差し出す。お礼を言って受け取り、息を吹きかけて適温に冷ます。
しばらく他愛のない会話をしていた。普段からいろんな人と関わるリズとの会話は、最前線に篭もりっぱなしの私にとって唯一普通の女の子でいられる時間だ。この時間が何よりも楽しい。
話が一段落したころでふと、壁に吊るされていた一振りの片手剣が目に入った。前に来た時はなかったので新作だろうか。黒一色でシンプルなデザインとは裏腹に強烈な存在感を放っている。
「あの片手剣スゴいね。リズが作ったの?」
「え?あっ、それはね・・・」
リズが言葉を詰まらせるなんて珍しい。そう思っていた私に、リズは意を決したように言った。
「・・・キリトが、持ってきたの。俺には必要ない、使う資格がない。リズが認めた人に渡してほしい、って」
「・・・そう」
予想外の名前が出てきて思わず沈黙してしまう。
キリトくんが最前線を去ったことをリズは知っている。ただ攻略組を抜けるとだけ伝えられ、リズは何も聞かなかった。そっか、とだけ。
なぜ問い詰めなかったのかリズに聞いてみた。
『最初は聞こうと思ったわよ・・・でもね、あいつの目を見たら聞いても無駄だなって。何を言っても折れないだろうなって思ったの』
そう言って笑ったリズだったが、寂しさを隠そうとしているのが私にはわかった。
楽しい時間のはずなのに、なんだか気まずい雰囲気になってしまった。
今日は解散しよう、そう思って席を立った瞬間。
バンッ!と店の扉が乱暴に開けられ、次いで大音量の声が室内に響いた。
「アスナさぁぁぁぁん!!大変です大変です大変ですよ!!!」
何事かと見てみれば、血盟騎士団の隊服に身を包んだ小柄な少女が目を涙を浮かべながらわーわー叫んでいた。
「相変わらず騒がしいわね・・・いつものことだけど」
「ごめんね、リズ」
彼女はKoB所属のカタナ使い・ノノ。その姿からは想像できないほど戦闘能力が高い。が、何かある度に今のように騒ぎ出すので見た目も相まって小学生扱いをされている。本人曰く成人しているらしいが。
「それでノノちゃん?どうしたのかな〜アイスでも落としちゃったの?」
「落としてないもん!ってそうじゃなくて、本当にビッグニュースなんだから!」
ダンッと机を叩いて興奮気味に続ける。
「ボスが!五十一層のボスが倒されたの!」
「「・・・え?」」
素っ頓狂な声がリズとハモる。
「もう!私もボスと戦いたかったぁ!何で倒しちゃうかなー!偵察隊だけで!」
偵察隊だけ?
「ちょ、ちょっと待ってノノさん」
理解が追いつかないが、彼女の発言が間違いでないかを確認する。
「えっと、ボスを倒したの?偵察隊だけで?」
「そう!」
「撤退したんじゃなくて?」
「うん!もう五十二層の主街区の転移門も
「・・・」
ノノさんが嘘やデタラメを言っている様には見えない。そもそもそんな人ではない。なら、信じ難いけど本当にボスを?
「信じられないなら本部に行きなよ!シュガーいるから!あと隊服着てない異端児も!」
その言葉に従い、私はリズにまた来ると伝えて店を出た。人並みを避けて進み本部を目指す。
この時、私はまだ知らなかった。
<剣豪>たる彼に秘められた可能性を。
お気に入りが増える度にモチベ上がってます。