ソードアート・オンライン ── 血盟の剣豪 ── 作:Syncable
<サツキside>
暖かい光を感じて、俺は目を覚ました。
温もりの残る寝袋から這い出て立ち上がると、遥か向こうに連なる山々から太陽が顔を覗かせていた。広大な景色に光が差し込んでいくのを、俺は黙って見届けた。
「うわぁ・・・」
「朝も絶景ね」
シリカとリズも起きたようで、昨夜とは違った光景に声を零す。
太陽が完全に姿を顕にしたところで、俺は大きく背伸びをした。
「う〜ん、良い目覚めだな」
「最高の野宿でしたね」
「そのうち絶景スポットとして有名になるかもな」
「ここを登る物好きは少ないでしょうけど・・・本当に何もないのね」
当初の目的を思い出してリズが肩を落とす。そう、これからが本番だ。
「んじゃ、飯食ったら隅々まで探しますか」
「もうアスレチックは懲り懲りよ・・・」
「コツさえ掴めれば楽しいですよ!」
昨日を思い出して憂鬱になるが、探さなければ見つかる物も見つからない。
「そんじゃあ飯は──」
余り物で簡単な朝食を作ろうとした俺は、目に入った光景に動きを止めた。
「え?」
昨日までは枯れていた樹が、陽光に照らされて神々しいまでの輝きを放っていたのだ。まるで息を吹き返したように桜色の花を一杯に咲かせ、あっという間に一面に広がる。
「うわぁ!綺麗ですね」
シリカが声を上げ、リズも黙って咲き誇る花を見上げた。
「前はこんなこと無かったなぁ、クエスト限定のイベントか」
俺の考えが正しいことを証明するものを、リズが見つけた。
「あ!あそこ見て」
リズが指さしたのは垂れ下がった一本の枝先。そこには金色に輝く球体、いや果実が実っていた。シリカが吸い寄せられるように近付いてもぎ取ってみると、それでも果実は輝かしい光を放っている。同時に、クエストの進行を示す効果音が鳴った。
「これが目的のモノか」
「どう見てもそうでしょうね」
「<陽果>って名前ですね。食材アイテムみたいですよ」
「食ってみるか」
「持って帰らないとクエストクリアにならないでしょうが」
「一個くらい良いだろ。苦労した分、俺たちに食う権利はある」
そう言ってシリカから果実を受け取ろうとした時、輝きを放っていた樹がその光をより一層強くして、次の瞬間には最初の様に枯れた姿になっていた。
「・・・え?なんで?」
突然の現象で零れた俺の声に、シリカが思い付いたように言う。
「もしかして、一つしか実らないのでしょうか・・・?」
「たぶんそうだろうな・・・数時間かけて登って来たのに一個しか手に入らないってマジか」
「ま、良いじゃない。探す手間が省けたんだし」
クエストの難易度に改めて肩を落とすが、リズはどこか嬉しそうだった。
「そうだな。何はともあれ目標達成ってことで、帰るか」
「降りるだけなら楽だから良いわ」
「大丈夫って分かってても、落ちるのは怖いですけどね」
「でも眺めは最高だぜ?」
俺の言葉に二人は首を傾げた。そんな二人に構わずメニューウインドウを操作していると、リズが口を開く。
「眺めって、中は何も無かったじゃない」
「中はな。目の前にあるだろ?最高の景色が」
俺はそう言って視線を絶景を見渡した。数秒かけて意図を理解した二人が素っ頓狂な声を上げる。
「ここから飛び降りるんですか?」
「大丈夫なの?」
「いや、ここは救済措置ないから普通に死ぬ。だからコイツの出番だ」
俺は青と白を基調とした装衣を実体化させて二人に渡した。
「何これ?」
「街で買っといた<飛翔の装衣>だ。これを着てれば、こんだけ高い場所からでも落下ダメージを無効化できる。これで一気に降りよう」
俺は早速装衣を羽織って頂上の端に足をかけた。同じようにしてシリカが下をのぞき込むと、不安の声を零した。
「うぅ・・・やっぱり怖いです」
「大丈夫大丈夫。俺が言ったタイミングで装衣広げて、あとは景色見てれば良いから」
「最初から広げれば良いじゃない」
「あんまり上で広げれば突風で飛ばされるから逆に危険だ。滞空時間が長ければ飛行モンスターにタゲられるしな」
「なるほどね・・・なら任せるわ」
「まぁ怖いのは最初だけだ。行くぞー!」
不安げな二人と対称的に気分が高揚した俺は勢いよくジャンプし、広大な景色に身を躍らせた。リズとシリカが続く気配を感じながら、俺は重力に従って落下するのに身を任せる。
「きゃぁぁぁっ!!」
「わぁぁぁぁっ!!」
「いぇーい!」
三者三様のリアクションをしながら塔の半分を過ぎた辺りで、俺は風の音に負けない声を上げた。
「今だ!」
両手を大きく広げると装衣が風を捉え、強烈な浮遊感とともに落下速度が弱まる。揺れるようにゆっくりと降下し始めたのを感じて視線を上に向けると、リズとシリカも成功したようで安堵した目と合う。俺が顎で二人の視線を前へ誘導すると、途端に目を輝かせた。
「・・・綺麗」
頂上と変わらないはずなのに、興奮からかより美しく見える景色に見送られながら俺たちは地上に着地した。絶景の余韻に浸りながら顔を合わせると、自然に笑いが込み上がってくる。
「とまぁ、そんなわけで攻略完了だな。お疲れさん」
「お疲れ様。どうなるかと思ったけど、何だかんだ楽しかったわ」
「そうですね!サツキさん、改めてありがとうございました!」
「ああ、俺も良い暇つぶしになったよ。今度は最速クリアRTAでもやるか」
「絶っっっ対に嫌よ」
今回の冒険を振り返りながら俺たちは歩き出した。
そのまま帰路に着き、街まで二人を送ったところで俺たちは別れた。何度も礼を言うシリカと、こまめなメンテの約束を取り付けてきたリズの姿が見えなくなると、途端に寂しさを感じる。<陽果>を依頼主に届けるまで付き合おうとしたが、シュガーからノノが復活したとメッセージが来ていたためすぐに向かうことにしたのだ。
遅めの朝食を屋台で買い食いしながら、冷めない興奮とノノ復活の喜び、俺の攻略組復帰への期待で胸を膨らませていた。
♦️
<アスナside>
「彼女、元気になって良かったわね」
「ええ、本当に良かった」
KoB本部の中庭でリハビリをするノノと、それに付き合うシュガーを見てアスナとミトは安堵していた。
復帰が絶望的と思われた数ヶ月前が嘘だったように、ノノは以前のような明るさを取り戻していた。この調子ならレベルとプレイヤースキルも直ぐに取り戻すだろう。
「んんん、もう一回!」
「はい!」
どこか元気のなかったシュガーも、ノノの復活を心から喜んでいるのが見て分かる。無邪気に、されど真剣に剣を交える二人は以前のそれと変わらない。
「──やぁぁっ!」
手元が霞む速度の一閃に剣を弾き上げられたシュガーは、さすがに大きく後退して仕切り直した。
友人としての喜びはもちろん、攻略組としてもノノの復活は喜ばしいことだった。
<
彼らにも引けを取らない<
「おっ、早速やってんな」
久しぶりに感じる声に振り向くと、炭のような真っ黒に焦げた物体が刺さった串を持ったサツキがいた。なんて声を掛けるべきか思考停止していると、ミトが呆れた様子で言った。
「また変なモノ買って・・・」
「失礼な、ちゃんとした食い物だわ」
「なら、もうちょっと美味しそうなの買いなさいよ」
「見た目だけで判断してると損するぜ」
残りを平らげたサツキは、一段落した様子のノノに向き直った。
「まだ本調子ってわけじゃなさそうだな」
「まぁね。そういうアンタもじゃないの?」
「俺はもう絶好調よ。あとは副団長の判断次第ってとこだ・・・もう大丈夫なんだな?」
「ええ。心配と迷惑をかけた分、これから貢献していくわよ」
「・・・そうか」
サツキの反応が、どこかノノに不信感を抱いているようにアスナは感じられた。
構想はできているんですが書く時間が足りないです。