ソードアート・オンライン ── 血盟の剣豪 ──   作:Syncable

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お久しぶりです。
映画を見てやる気が再燃したので、またぼちぼち投稿していきます。


Ep.61 青眼の悪魔

<サツキside>

 

 

 

「カッコつけたは良いけど、どうしたものか」

 

明確な殺意が込められたボスの視線を受け止めながら、俺は両手の愛剣を握り直した。

 

ノノが生きていることには安堵した。しかしその嬉しさを消し飛ばすほどに状況が悪い。

 

当初の予定では救出が最優先だったためボスと戦う、ましてや倒そうとは微塵も考えていなかった。しかし今、ボスを倒すことに全力を尽くさないといけない。

 

一つ目の理由は、俺たちとボスの位置関係だ。

 

俺と副団長、ミトの背後からの攻撃を受けたボスは追撃をキャンセルして距離を取った。しかしただ距離を取っただけでなく、俺たちの背後、部屋の入口側に移動したのだ。一人も逃がさないため、と考えるほど高度なAIを持っているとは考え難いが、偶然にしても運が悪すぎる。

 

これだけならまだ逃げ切れる自信はあった。タゲを引き受けつつ撤退することは今までに何度もやってきたからだ。だが、それを不可能にするもう一つの理由がある。

 

「アスナ、あの人たちって」

 

「ええ、何で《軍》がここに・・・?」

 

そう、本来なら居るはずのない元攻略組の<アインクラッド解放軍>の存在だ。最前線から退いた彼らだが、ここにいる理由はボス攻略に他ならないだろう。おそらく精鋭を揃えてきたのだろうが、装備も人数も精神力も話にならないレベルだ。今まで生きていただけで奇跡と言える。

 

「・・・この人数を逃がすのは厳しいな」

 

「応援が来るまで耐えましょう。レイドを組めれば状況を変えられるはずよ」

 

「それまであのバカでかい大剣を捌き切れればな」

 

俺たちの身長を優に超える刀身が、青白い松明の光を反射してギラりと輝いた。直撃はもちろん掠るだけでもヤバいのが目に見える。それに、ボスのモーションには何かしらのカスタムが施されていることが多いため、初見で完璧に捌くことは至難の業だ。

 

逆に言えば、ここまで攻撃に特化しているボスはHPが低い傾向にある。それを裏付けるように、胸部に意味深に刻まれた古傷がある。あそこが弱点と見て良いだろう。大剣を捌きつつ叩ければ、勝機はある。

 

「副団長とシュガーは、ノノと軍の奴らを頼む。俺とミトでボスのタゲを取るから、壁際に誘導して回復させてやってくれ。そっちが落ち着いたら、四人で反撃する」

 

「わかった、気を付けて」

 

「わかりました」

 

副団長が軍の元へ向かい、シュガーがノノを抱えて離れたのを見届けてから、俺とミトはボスに向き直った。

 

「二人が来るまではパリィに徹しよう。アレは気抜いたら即死だからな」

 

「わかってる。アナタこそ無理しないでよ」

 

そう言い、俺とミトは咆哮を響かせるボスへと走り出した。

 

 

 

 

 

♦️

 

 

<ノノside>

 

 

 

シュガーに抱えられて後退する中、ボスに立ち向かうサツキとミトの背中をぼんやりと見ていた。

 

たった二人で、とは思わない。その強さを知っている者なら誰だって、何とかするだろうと思うはずだ。

 

「死にたくないなら、黙って私の指示に従いなさい」

 

少し離れたところで怒りに震えたアスナさんの声がする。私が何を言っても聞かなかったリーダーと思われる男が、その一言で嘘のように大人しくなった。

 

 

──ああ、やっぱり、全然違う。

 

 

SAOの囚人となって絶望と恐怖に呑まれた私と、復讐のために攻略組になった私と、世界で唯一の力を自分のためだけに使ってきた私と・・・全然違う。

 

絶望と恐怖に打ち勝って前に進み、この世界からの解放を願って戦い、仲間のために力を使う。

 

憧れた人たちが歩いてきた道の反対を、私はずっと歩いてきたのだ。

 

「・・・もう嫌だ」

 

こぼれた呟きに一瞬動きを止めてから、シュガーはゆっくりと私を壁際に座らせた。強く握った手に視線を落とす私に、シュガーはいつもと変わらない優しい声で言った。

 

「ノノちゃん・・・僕はまだ大切な人を喪ったことがないから、ノノちゃんの苦しみを分かってあげられない。でも今のノノちゃんを見て、絶対にその苦しみを味わいたくないって思うんだ」

 

言葉の真意を理解しかねて顔を上げると、ぼやけた視界の中でシュガーは困ったように笑っていた。

 

「ノノちゃんのお願いだったら何でも叶えてあげたい。でも、こればっかりは譲れないんだ・・・自分勝手だけど、これからもずっと一緒にいて欲しいから、生きていてほしいから、僕はノノちゃんを助けるし守る」

 

「・・・私にそんな価値ないよ」

 

「僕からすれば、僕の命以上に価値があるものだよ。だって僕は、世界で一番ノノちゃんのことが好きだから」

 

赤い瞳に込められたその思いに疑う余地はない。

 

シュガーは立ち上がってボスの方へ向き直った。

 

「僕だけじゃない。ノノちゃんに生きてほしい、大切な仲間だって思ってる人はたくさんいる。もう、独りじゃない。だから見てて」

 

愛剣を構えて走り出したその背中に、私はやはり疑いようがない頼もしさを感じていた。

 

 

 

 

♦️

 

 

<サツキside>

 

 

 

俺を両断しようと振り下ろされた大剣をレーヴァ=テインの腹で受け止める。のしかかる重さを流すように右へ払い、一回転してリニアーをがら空きの胸へ叩き込む。

 

「スイッチ!」

 

声に合わせて後退し、俺とボスの間にミトが飛び込み大鎌を振るう。刻まれた傷に苛立ったように払われた大剣を躱したミトは、追撃の三連撃技をボスの横腹に見舞った。彼女に気を取られている隙に、俺もボスの右脚に”シャープネイル”を喰らわせる。

 

「単調な攻撃だな。後で絶対パターン変わるヤツだ」

 

「二人が来るまで下手に減らさない方が良いかもね」

 

「だな。ブレスなんか吐かれたらたまったもんじゃないし」

 

「そういうのはフラグになるから」

 

言ってるそばからボスは大口を開き、青白く輝く炎を溜めだした。

 

「来るぞ!」

 

「わかってる!」

 

咄嗟に二手に分かれてブレスの直線上から離れると、ボスはミトに狙いを定めたらしく青い炎は横なぎに追尾する。ミトの技量なら躱せると判断し、俺は側方から近付き脇腹にレイジ・スパイクを見舞った。

 

ギロリと俺に眼光を光らせたボスの反撃を捌こうと集中させた視界、その端で流星の如き一閃が煌めいた。

 

「はぁっ!」

 

山羊を模した悪魔の顔面に強烈な一撃(リニアー)がヒットし、HPが目に見えて減少する。軽やかに着地した副団長のその一撃に続くように、ボスの背後でさらにライトエフェクトが爆ぜた。

 

「お待たせしました!」

 

「良い一撃だ、シュガー!」

 

視界の端に壁際で回復する軍と放心状態で座るノノを確認し、俺はボスに向き直る。

 

四方から囲む形になった俺たちを順に見据えたボスは、鼻息を荒くしながら大剣を高々と掲げた。刀身がライトエフェクトを放つと同時に俺は叫ぶ。

 

「範囲攻撃!」

 

簡潔な警告だが、三人は流石の反応速度でボスの間合いから離れる。空振りに終わった攻撃が、部屋の冷たい空気を斬り裂いた。

 

「範囲持ち、厄介だな。シュガー!」

 

「了解です!」

 

俺とシュガーが攻撃を終えたボスに急接近する。それを見て、副団長とミトは俺の意図を理解したように後に続いた。

 

四人一斉に攻撃する方がダメージは稼げる。しかし範囲攻撃によって一気に態勢を崩される恐れがある。時間は掛かるが安全に、確実に勝利を掴むためにはスイッチによる攻守一体が基本だ。

 

「うおおおっ!」

 

振り下ろされた大剣をシュガーとともに弾き返し、ボスの体勢を大きく崩す。すかさず飛び込んだミトが脚に、副団長が胸にそれぞれ追撃を喰らわせた。

 

「やっぱりHPは高くないようね」

 

「油断は禁物です!」

 

「とりあえず増援が来るまで持ち堪えましょう」

 

「ああ!次来るぞ!」

 

七割ほどになったHPを睨みつけながら、俺たちはボスに向かって走り出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

一時間も経っただろうかと、視界左上の時計をチラ見した俺はまだ二十分も過ぎていないことに思わず目を見開く。

 

一つのミスも許されない攻防により引き上げられた集中力。しかし常用のポーションは飲み干し、残るは緊急用の数本となっていた。同じく正面からボスと対峙し続けたシュガーも残量が危ぶまれる。攻撃役の二人に分けてもらおうかと考えたが、そんな隙など作れるはずもない。

 

「・・・だいぶキツいな」

 

思わず零れた呟きにボスがニヤリと笑みを浮かべた。しかしその巨躰にも激戦による傷が確かに刻まれている。残りHPは三割を切る程だ。

 

「サツキ!それ以上は危険よ!私が代わるわ!」

 

ミトの切羽詰まった声に同意することは出来ない。彼女の腕を疑ってるわけではないが、あの大剣を捌くには武器の耐久力が心もとない。それは細剣使い(フェンサー)の副団長にも言えることだ。

 

その時、打開策を導き出そうとしていた俺の耳に聞き慣れない男の声が後ろから聞こえた。

 

「血盟騎士団の諸官ら!」

 

反射的に声の方──ボス部屋の入口を目を向けると、軍の連中とノノがいつの間にか離脱を完了させていた。

 

「我々はもう大丈夫だ!早急に撤退を!だが気を付けろ!ここでは結晶が使えない!」

 

「無効化エリア?ふざけてやがる・・・!」

 

「でも、あとはいつも通りに撤退するだけです!」

 

「スイッチのタイミングで後退しましょう!」

 

「サツキくん!いける?」

 

「勿の論よ!パリィは任せな!」

 

ようやく終わりの見えた戦い。俺は再びボスに意識を集中させた。

 

「グオオオオッ!!」

 

振り下ろされた大剣に真正面から渾身の切り上げ技”浮舟”をぶつける。激しいインパクトにより俺とボスの互いに体勢を崩すが、俺は無理矢理にダメ押しのリニアーを発動させた。分厚い胸部を貫かんとする一撃に、ボスはたまらず数歩後ずさった。

 

「今だ!走れ!」

 

生まれた隙を逃がさず俺たちは全速力で扉に向かって走り出した。あの巨躰にダッシュで追い付かれることはない。唯一の遠距離攻撃であるブレスさえ警戒しておけば、逃げ切れる。

 

そう思い走りながらボスの動きを見ていた俺は、ヤツの様子に違和感を感じた。

 

ヤツは俺の一撃を受け、崩れた不自然な体勢のまま俯いている。追いかけるわけでもブレスを吐こうとしているわけでもない、完全な硬直状態。

 

ふと固定表示されたHPバーに目が行く。残り三割を切って黄色に染まったそれに、俺の全身が嫌な予感で震えた。

 

そして、それは的中する。

 

「ゴアアアアアアアアアアアァァァァッッッ!!!」

 

「ッ!?」

 

「なっ!?」

 

部屋を、いや七十四層を揺らすほどの咆哮が迸った。堪らず足を止め耳を塞ぐが、今までにない咆哮に身動きが取れない。そんな中でも、()()()()()()()()()は確かに聞こえた。

 

「な、に・・・!」

 

それは、ボスの首と肩に装着されていた金色の装飾の破砕音だった。青く筋骨隆々の肉体が顕になるが、変化はそれだけではない。さっきまで俺たちを圧倒していた巨躰が、さらに巨大化している。遂には大振りに見えていた大剣を片手剣に見紛うまでになった。

 

一部のモンスターが持つ特殊条件での<形態変化>だと一目で分かる。だがボスでこの特性を持つのは初めてだった。

 

「なによ、それ・・・!」

 

ミトの震えた呟きに誰も答えられない。

 

ただ一人、真の姿を解放した青眼の悪魔(ザ・グリームアイズ)だけがニヤリと深い笑みを浮かべた。

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