ソードアート・オンライン ── 血盟の剣豪 ──   作:Syncable

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キリトの噛ませだったグリームアイズに少しだけ出番をやりました。


Ep.62 業火の輝き

<サツキside>

 

 

「クソッ!走れ!!」

 

咆哮による硬直が解けた瞬間に俺は叫んだ。我に返って走り出す三人に続き、恐ろしく遠く感じる入口へ向かう。

 

「こっちだ!!」

 

「早く!」

 

恐怖と焦燥に駆られた軍のヤツらに急かされ、俺は愛剣を収めるのも忘れて走った。しかしそれが、逆に俺の命を救うことになる。

 

「危ない!」

 

悲鳴じみた警告と同時に視界の端で鈍色の輝きを捉えた俺は、本能的に愛剣を側方でクロスさせる。瞬間に世界が揺れる衝撃と浮遊感に襲われた。

 

「がっ・・・!」

 

冷たい床に叩きつけられた俺のHPバーは急減少し、赤に染まる一歩手前で停止した。愛剣を滑り込ませてなければ死んでいたかもしれない一撃、威力と速度がさっきとは桁違いに上昇している。

 

「シュガーくん!」

 

副団長の声に顔を上げる。最後尾にいた俺を吹き飛ばしたボスは、次にシュガーを標的として大剣を振りかぶっていた。

 

「はぁぁっ!」

 

逃走を諦めたシュガーはボスに向き直り、ソードスキルの構えを取った。だがボスは無意味と言わんばかりに無造作に剣を振る。それをシュガーは真正面から迎え撃つことなく、わずかにタイミングをズラして側面から大剣を弾き軌道を逸らした。

 

流石の観察力と判断力だと舌を巻くが、床に突き刺さった大剣がライトエフェクトをまとっているのを見て俺は叫んだ。

 

「まだだ!」

 

「なっ!」

 

シュガーが構えを戻すよりも先に、ボスが動いた。

 

突き刺さったままの刀身が床を抉りながらシュガーへと迫る。ステップでの回避が間に合わないと踏んだシュガーは、愛剣でのガード体勢を取った。しかし──

 

「シュガー!」

 

ギャリィィンッ!と大音響とともにシュガーの愛剣は彼の手を離れて宙を舞った。下から掬い上げられた衝撃に耐えられなかったのだ。ボス戦での、しかも目の前でのロストは何よりも致命的。

 

「くっ!」

 

ミトが鎌を分離させ収納されていた鎖を投擲する。数ある武器の中で唯一の形状変化のギミックだ。同時に扱いの難易度が随一とされる鎖による遠距離攻撃が、彼女の意思を宿してボスに肉薄する。

 

「今のうちに!」

 

「はい!」

 

「こっち!」

 

ボスが変幻自在な鎖の動きに翻弄されている隙にシュガーが離脱する。俺も緊急用ポーションを惜しまず流し込んで副団長たちの元へ向かった。

 

「すみません!ヘマしました」

 

「生きてりゃなんでも良い!ってか、さすがに状況が悪い」

 

「今まで通りに撤退するのは難しそうね」

 

「ここまで攻撃特化とは、クウォーターを思い出しますね・・・!」

 

「全力で回避しつつ後退するしかない・・・念の為に言っておくが、仮に誰かがやられても変な気を起こすなよ。今は戦力が足りなさ過ぎる」

 

「こっちのセリフですよ!」

 

「まったくね・・・全員で帰りましょう」

 

「ああ!」

 

業を煮やしたボスが力任せに鎖を弾き飛ばすのと、俺たちが動いたのは同時だった。

 

「ミト!そのまま鎖で牽制してくれ!シュガーは剣拾ったら離脱!副団長は俺と交互にボスのタゲ取りだ!」

 

「わかった!気を付けて!」

 

「了解です!」

 

「ええ!」

 

鎖の間を掻い潜ってわざとボスに接近、タゲを取る。鎖が邪魔して思うように大剣を振れていないおかげで回避に余裕が生まれる。

 

「「スイッチ!」」

 

攻撃ではなく回避のためのスイッチ。後方のミトはもちろん、俺と副団長どちらか一人しか狙わせない絶妙な位置取りだ。

 

「はぁっ!」

 

三度目のスイッチの時、ミトの鎖がボスの青眼を捉えた。明確なチャンスに俺と副団長は大きく後退し、シュガーは扉までの離脱を完了させる。

 

「もう少しです!」

 

「頑張れ!」

 

「負けるな!」

 

扉からの声援を受けつつ、俺と副団長はボスの行動に注視していた。そして全く同じタイミングで叫んだ。

 

「「ブレス!」」

 

口内を、いや巨躰を青白く輝かせて放たれたブレスは一直線に俺たちを照準している。俺は一歩ボスに近付いてから側方にダッシュした。すると狙い通りにブレスは俺を追尾してくる。

 

「副団長!」

 

タゲが外れた副団長は頷いてミトの位置、ダッシュで逃げ切れる位置まで一気に後退した。俺もブレスが途切れた瞬間に二人の元へ向かう。

 

「行け!」

 

かなりの距離を稼げた今しかない。再び扉へと走り出す。副団長とミトが離脱し、残りは俺一人。

 

「サツキくん!」

 

「サツキ!」

 

「サツキさん!」

 

共に死線をくぐり抜けた仲間の元へ、ただひたすらに走る。

 

──見てただろう?

 

扉に寄りかかり、腫らした目で俺を見ているノノに心の中で問いかける。

 

──お前にはこんなにも頼りになる仲間がいて、お前を必要としている。お前を真に救うことはできないかもしれない。でも、支えてやることはできる。助けてやることはできる。かつて俺がしてもらったように。

 

 

ダッシュの勢いそのままに扉へ飛び込もうと、踏み込んだ時だった。

 

「──え?」

 

吸い寄せられるように巻き上がった突風が、俺の体を宙に浮かせた。

 

 

 

 

♦️

 

<ノノside>

 

 

 

文字通り足元を掬われて浮遊したサツキを見て、死闘の終わりを確信していた全員が息を呑んだ。部屋の外にいた私たちでさえ引き寄せられたその突風の発生源には、天を仰ぎ、胸を大きく膨らませたボスの姿があった。

 

全員が瞬時に悟った。あれがボスの大技の前兆であると。

 

「ゴオオオオオォォォッ!!!」

 

咆哮とともに感じたのは、熱。

 

吹き荒れる暴風が全身を、吸い込んだ空気が肺を焦がす感覚に私たちは動けなかった。ただ確かなのは、それが部屋全体を範囲内とする特大のブレスであること、引き寄せられた突風はボスが空気を吸い込んだことにより発生したものだということ。

 

そして私たちの数メートル先で倒れ、純白のブレスに身を焼かれ続けているサツキのHPを容赦なく減らし続けていることだった。

 

「サツキくん!」

 

パーティーメンバーとして彼のHPが見えているアスナさんが、ブレスに飛び込もうとするのをミトさんが制する。代わりに再び鎖を展開し、サツキに向けて投げるがブレスの猛烈な勢いに押し戻されてしまう。

 

「ダメ、このままじゃ・・・!」

 

何も出来ずに、目の前で仲間(サツキ)が焼かれるのを見ていることしか出来ない。

 

 

──最悪だ。私のせいで、私なんかのために、私なんかより必要とされる存在が死んでしまう──

 

 

その時だった。

 

「─────」

 

絶望の中、その()が聞こえたのは。

 

 

 

 

♦️

 

<サツキside>

 

 

 

視界が白に染まり、全身を焼き尽くさんとする熱がHPを急速に削っていく。戦闘時回復(バトルヒーリング)を上回るダメージ量と数メートル先の扉まで這うことすら出来ないほどの風圧が、俺に明確な死を突き付けてくる。

 

これがボスの大技であることは間違いない。キャンセルさせるにはボスに一定ダメージを与えることがセオリーだが、この状況でそれはあまりに絶望的だ。

 

──ダメだ、使えねぇ・・・!

 

唯一の打開策であった<暗黒剣>も発動しない。()()()()()()()()()()()使()()()()()()()()()()、この土壇場でもそう都合よく奇跡は起きなかった。

 

「・・ク、ソ・・・」

 

いよいよHPが三割を切り、黄色から赤へとその色を変える。焔に焼かれた全身から感覚が遠ざかっていく。今まで何度も死の隣りを歩いてきたが、いざその時だと思うとやはり怖い。

 

何かを叫び続ける仲間たちを最後に一瞥して、俺は目を閉じた。

 

 

 

 

『・・・サーくん、怖い?』

 

『・・・ああ』

 

『・・・私もね、本当は怖いんだぁ・・・』

 

『・・・知ってる。隠すのヘタクソ、バレバレだ』

 

『・・・そっか、ごめんね』

 

 

ため息が出るほど美しい星空の下で、震える相棒の肩を抱いた最期の日を思い出す。あの時に相棒が感じていた恐怖が、今なら分かる。

 

 

『見てくださいサツキさん!』

 

『言っておくけど、私の方が先輩だから!』

 

『何かあったらいつでも頼れよ!』

 

『毎度、また来いよ!』

 

『スゴいです、サツキさん!』

 

『アンタねぇ、もう少し丁寧に扱いなさいよ!』

 

『君は、強いな』

 

『ありがとう、アスナを守ってくれて』

 

『頼りにしてるわ、 サツキくん』

 

仲間たちとの日々、攻略組としての戦いの日々が走馬灯となって蘇ってくる。我ながら幸せな日々だったと思う。

 

そして──

 

「─────」

 

死を直前にした静寂の中で聞こえたのは、懐かしい()だった。音楽に興味のなかった俺と相棒ですら、下層の街中で一度聞いただけで好きになった一曲。

 

 

最期に聞くには相応しいと思っていた俺は、それが記憶の中の幻聴ではないことに気付いた。

 

 

「──今よ!ノー君!」

 

「──ああ!」

 

 

吹き荒れるブレスに掻き消されることなく、その声は聞こえた。

 

それだけではない。俺を押し潰していた風圧も、全身を焼いていた熱さも感じなくなっていた。見ればHPの減少は止まり、全損まで数ドットを残している。

 

見上げた俺の横を何かが過ぎ去る気配を感じたが、それを目で追うことなく俺は扉に立つその少女に目を見開いた。

 

青と白の装備に身を包み、()()のような物を携えている。とても武器には思えないが、彼女がそれを弾きながら歌うことで音符のエフェクトが発生している。そこで俺たちのHPバー横に、初めて見るバフアイコンが出現していることに気付いた。

 

ソードスキルに間違いない。そして稲妻に打たれたような衝撃とともに、俺の過去の記憶が呼び起こされた。

 

 

かつて最前線だった町の広場で、あるプレイヤーが路上ライブをやっていた。その歌声は思わず足を止めてしまうほどに美しく、さらに驚くことに聞き入っていた全員にバフを付与していた。

 

特殊な条件を満たさないと習得できないエクストラスキルの一つにして、頭一つ抜けた熟練度の上がりにくさから攻略では使われないだろうと相棒は言っていた。確か名は──

 

「──<吟歌(チャント)>」

 

俺の呟きとボスの絶叫、そしてブレスが止むのはほぼ同時だった。




やっとあの2人の登場です。
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