ソードアート・オンライン ── 血盟の剣豪 ──   作:Syncable

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一年で完結すると意気込んでた本作も気が付けば三年目です。不定期ですが更新しますので今年もどうかよろしくお願いします。


Ep.63 ホープフル・チャント

<ノノside>

 

 

──《気炎の旋律》《疾風の旋律》《達人の旋律》が発動しました──

 

 

視界に羅列されたメッセージが、目の前で歌う少女によるものだというのは一目瞭然だ。最前線で戦うには──いやそれ以前に戦闘向きとは思えないほどの軽装であるが、彼女がただ者ではないことは直感できる。

 

旋律の効果か、今まで感じていた熱と風が嘘のように消え去っていた。それは私だけではないようで、みんな驚きの顔を見合わせている。そんな私たちに気付いていないのか、ボスはブレスを吐き続けていた。

 

そのブレスの中を一直線に駆け抜けるもう一人の乱入者。彼の名を私は、いや私たちは知っている。

 

「──ノーチラス」

 

元KoB所属の片手剣使い・ノーチラス。寡黙で真面目な性格で一軍メンバーに上り詰めた実力者だったが、一年前のある出来事を機にKoBを脱退、最前線から身を引いていた。

 

最後に見た時とは別人のような雰囲気を醸し出す彼は、歌の加護を受けてブレスをものともせずボスに接近し、肉厚の片手剣を抜き去った。

 

「グルルルアアァッ!?」

 

胸部への単発重ソードスキルがクリティカルヒットし、絶叫したボスは大きく体勢を崩してブレスが途切れた。

 

「サツキくん!」

 

「サツキ!」

 

アスナさんとミトさんが駆け寄り、サツキの口にハイポーションを流し込む。むせ返りながらも窮地を脱したサツキは立ち上がると二人に礼を言い、次いで歌の少女へと向き直った。

 

「助かった、ありがとう」

 

「間に合って良かった・・・お礼したいのは私たちの方だよ、サツキさん」

 

「どういうことだ?」

 

少女は小さく笑ってから、ボスと対峙するノーチラスを見据えて言った。

 

「お話は街に戻ってからゆっくりしましょう。もう、終わるから」

 

少女の言う通り、直後にボスはHPを全損させて爆散した。

 

 

 

♦️

 

<サツキside>

 

 

 

「お疲れ!ノー君」

 

「ああ、ユナも」

 

大量のポリゴン片が散らばる中、ボスを仕留めた二人は武器を収めてハイタッチを交わした。その姿に既視感を覚えながら、何とかボスを倒せたことに俺は安堵のため息を吐いた。それはみんなも同じようで、言葉を交わさずとも頷き合い生還を喜ぶ。

 

「本当に助かったわ、ありがとう。ユナさん、ノーチラス」

 

その名前に聞き覚えはなかったが、副団長は知っているようだった。ノーチラスと呼ばれた少年は気まずそうに視線を落としたが、彼と対称的にユナは笑みを浮かべる。

 

頭の片隅で何かが引っかかる俺が先ほどのユナの言葉の真意を確かめるべく口を開きかけた時、後ろで金属音と何かが倒れる音がした。

 

「ダメだ!ノノちゃん!」

 

「・・・離して」

 

反射的に振り返った俺の目には、シュガーが覆い被さるようにしてノノを押さえ付けている姿が映った。その近くにノノの愛刀《霞桜》が転がっているのを見て、俺はまだ根本的な問題を解決していないことに気付く。

 

「生きてるのが辛いの・・・みんなの優しさに甘える私が許せないの!こんな思いをするなら、もう終わらせたい・・・」

 

ノノを一番許せないのはノノ自身。

 

過去の自分を見ているようで、その気持ちが俺には痛いほど分かる。

 

「僕たちには、ノノちゃんが必要なんだ」

 

「・・・私は必要としてない」

 

「辛いのは分かるわ。でも、死んで終わろうなんて思わないで」

 

「・・・何も知らないくせに」

 

「チグネさんがそんなこと望んでるはずないじゃない」

 

「分かったように言わないで!」

 

シュガーたちの声もノノは拒絶する。ここまで追い詰められてしまったら、もう誰の声も届かないだろう。

 

「・・・もう・・・楽にさせてよ・・・」

 

「ノノ・・・」

 

無駄だと分かっていて口を開きかけた時だった。

 

 

──い、あの子に──!

 

聞き慣れない声が脳内に響いた。以前にも聞いたことがあるその声の必死さに、俺は耳を傾ける。

 

──私たちの──出の場所──に、残した物が──

 

 

途切れ途切れの声にもどかしさを感じていると、視界が光に覆われて見知らぬ場所が映し出された。広大に広がる森林を見渡せる丘、そこに剣を模した銅像が突立っている。見覚えはない。だが感応現象で見えたのなら意味があるはずだ。

 

「チグネさんとの思い出の場所・・・心当たりはないか?ノノ」

 

「・・・なによ、急に」

 

明らかに変わった様子に俺は続ける。

 

「剣の銅像がある丘だ。そこはお前たちにとって、何か特別な場所じゃないのか?」

 

「なんで、それを・・・」

 

「チグネさんは、そこに何かを残しているはずだ・・・死ぬのはそれを探してからでも遅くないんじゃないか?」

 

驚きと混乱した様子で俯いたノノは、何も言わなかった。そんな彼女にシュガーが寄り添う。

 

「みなさん、先に転移門の有効化(アクティベート)に行ってください。僕はノノちゃんともう少しここにいます」

 

「・・・そうか、頼んだ」

 

赤い瞳から感じられた真っ直ぐな意思を信じる。残っていた軍の連中に二度と同じ無茶をしないことを約束させ、結晶で離脱するのを見届けてから俺たちは上へ続く階段を上り始めた。長い螺旋階段の途中で副団長が心配そうな声を零す。

 

「ノノちゃん、大丈夫よね」

 

「ああ、俺たちに出来ることはやった。あとはシュガーに任せよう」

 

「・・・そうね」

 

「思い出の場所って言ってたけど、心当たりがあるの?」

 

「後で詳しく話すよ」

 

感応現象について知らないミトへの説明を考えながら上って行くと、禍々しい装飾が刻まれた大扉が現れた。未踏の地へ続くそれを押し開ける前に、俺は今回のMVPへと向き直る。

 

「えーと、改めて礼を言わせてくれ。二人とも本当にありがとう。来てくれなかったら俺はこうして生きてなかった」

 

「いえ、またこうして会えて嬉しいです!ね?ノー君」

 

「う、うん。そうだね」

 

明るいユナとは真逆に、ノーチラスはどこか緊張している様子だ。攻略の鬼と呼ばれる副団長の圧によるものだと思っていたが、ユナの口から意外な理由が明かされた。

 

「ノー君ってば、サツキさんに会えて緊張してるの?」

 

「俺?」

 

「以前に助けてもらってから、ずっと目標にして頑張ってきたんです。誰かを助けられるくらい強くなるって」

 

「は、恥ずかしいよユナ」

 

いたずらっぽく笑うユナを制止するノーチラスをまじまじと見て、俺はあることを思い出した。まだ相棒とコンビを組んでいた頃、一度だけダンジョン内で助太刀をしたことがある。その時に助けたのがこの二人だ。

 

「ま、他はともかく剣の腕だけは見習えるからね」

 

「だけって何だよ失礼な」

 

ミトに異議を申し立てつつ、俺は気を取り直して大扉に手を添えた。

 

「ま、その辺の話は飯でも食いながらゆっくりしようぜ」

 

「変なお店は勘弁してよね」

 

いつぞやのアルゲートでの記憶を思い出したように副団長が釘を刺してくるが、俺は聞こえないフリをして扉を開放した。

 

 

 

 

 

 

 

♦️

 

 

<ノノside>

 

 

 

自分の鼓動すら聞こえない静寂の中、私は俯いたまま動けないでいた。すでに死闘の熱は覚め切り、少しばかり冷静になった頭をサツキの言葉が何度も反芻する。

 

『何かを残しているはずだ』

 

思い返せばチグネさんが死んでから、いや、殺されたと知って復讐すると決めた時からだ。私は過去の思い出に近付かなくなった。一緒に巡った街にもお店にも、二人だけの秘密だよと教えてくれたお気に入りスポットにも。

 

復讐の妨げになるから、思い出を綺麗なまま残しておきたいと無意識に避けていたのかもしれない。それが結果として、一番大切なことを見落とすことになった。

 

 

『・・・何をしているんですか?』

 

『これ?秘密!・・・って言いたいんだけど、ノノには話しておこうかな。これはね、私がこの世界で生きたって証』

 

『生きた証、ですか?』

 

『うん・・・もし私が死んでもノノや、誰かがこれを見つけたら私がこの世界で生きたって証になるでしょう?それを遺しているんだ』

 

『そんな縁起でもないこと言わないでくださいよ』

 

『もちろん死ぬつもりなんてないけどね。でも・・・もしもの時は、ノノに見つけてほしいかな』

 

『・・・わかりました』

 

 

チグネさんと交わした約束を、今になってようやく思い出した。忘れていた自分への嫌悪感と失望、後悔が押し寄せてくるがそれ以上に──

 

「・・・行かなきゃ」

 

動こうとする気持ちにボロボロの身体が追い付かず、立とうとしてよろめいた私をシュガーが支えてくれた。

 

「行こう」

 

支えられながら、私たちはゆっくりと思い出の場所を目指して歩き始めた。

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